イベント「琳派のある暮らし」 - 華やかな京手描友禅を支える、職人事情 -

イベント「琳派のある暮らし」 - 華やかな京手描友禅を支える、職人事情 -

来年2015年は、琳派が生まれて400年。琳派は、美術や工芸、建築など、生活に密着したものから芸術まで日本人の美的感覚に色濃く影響を与えました。

記念すべき琳派400周年を前に、5月16日に銀座で京都の手描き友禅の職人さんたちによる、トークイベントが行われました。

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極彩色が鮮やかな京友禅と、琳派の関係

トークイベントの前に、ちょっとお勉強。

そもそも「琳派」という言葉、日本人でも美術に見識のある方でない限り、なんのことだかよくわからない方も、多いのでは? しかも「琳派400周年」に、どうして京都の友禅の職人さんたちが関わるの?とハテナが次々浮かんできてしまいます。

まず、「琳派」と「手描き京友禅」とはなんだろうというところを簡単にご説明いたします。

  • 「琳派」(りんぱ)ってなんだろう
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    写真:Wikimedia Commonsより

    「琳派」とは、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)という、お金持ちの京都の町衆が興した芸術様式を指します。特別の師弟関係にはない絵師や職人が、時代を超えて引き継ぎ発展させていきました。師弟関係を組み、時代ごとに技術を伝播していくのが主流の日本画界隈では、ちょっぴり異色の流派です。

    作品の特色としては、豪華絢爛な色使いとダイナミックな構図です。また、違う作家が過去の琳派の作品を受けて、同じテーマで作品をつくる連鎖性などが挙げられます。

    代表的な琳派の芸術家は、上の『「八橋図」六曲屏風二隻』を描いた尾形光琳(おがたこうりん)、『風神雷神図屏風』の作者である俵屋宗達(たわらやそうたつ)がいます。彼らの作品は、オーストリアの画家・クリムトや、アメリカのアンディ・ウォーホルなど海外の芸術家たちにも大きな刺激を与えました。

  • 「京手描友禅」ってなんだろう
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    「友禅」とは友禅染という技法そのもののことを言います。白い絹織物に、直接絵を描いていくのが「手描き友禅」と呼ばれており、技法の微妙な違いにもよりますが大体全部で12、13の工程があり、完成するまでに2、3ヶ月かかります。

    大まかな工程の手順は、下絵を描き、染料がはみ出ないように糊置きをし、輪郭をなぞって筆で色をつけていく、という流れで、各工程を全部分業し、それぞれを極めたプロフェッショナルたちによって完成されます。例えば1本の帯を作るのに10人くらいの職人が携わることもあるのです。

    手描き友禅は、1688年から1708年、江戸時代の只中で元禄文化が勃興した頃に発展しました。着物の模様は、身近な草花をはじめ、平安期の物語や古典の登場人物などを描いたものもあります。他にもドクロの柄など、ロックな雰囲気の模様を施すこともあるそうです。

    京友禅は京都で発展したものを言い、東京の友禅とはまた少し違います。単彩で細かい柄が多く、粋な雰囲気なのが東京友禅。一方金彩や刺繍の加工も加えて華やかさが特徴なのが、京友禅なのです。

    熟練の手仕事が映える、京友禅の世界

    前知識を頭の隅におきつつ、やって来たのは銀座の「ART FOR THOUGHT」。ここで京都手描友禅協同組合青年会会長の細井智之さん(以下細井)と、染色家・奥野むつみさん(以下奥野)という、お二人の職人さんによるトークセッションが行われました。(聞き手:アートテラーとに~さん) ※以下敬称略

    各工程のプロフェッショナルたち

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    写真:細井智之さん

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    写真:奥野むつみさん

    ―― お二人はどういった経緯で京手描友禅の世界へ?

    奥野:偶然が重なったのもありますが、私はもともと日本画を専攻していて、着物が好きでこの世界に入りました。工程で言うと図案を担当しています。京友禅に関わる方は親戚ぐるみで職人である場合も多いですね。

    細井:僕も殆どたまたまと言ってもいいかもしれません。飛び込みで弟子入りして職人になりました。京友禅を工程自体は好きな職種を選べるんですが、僕は色挿しと呼ばれる、色を塗る担当です。

    奥野:細井さんは花形の工程を担っていらっしゃるんですよ。各工程に職人さんがいるのですが、図案屋さんは、なんとなくの構想を伝えて、配色は色挿しの職人さんにお任せすることも多いのです。配色美が友禅の特色のひとつでもあるから、とても重要なポジションでもあります。

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    細井:まあ色が一番目立つし、分かりやすいですからね。中には色を入れるときに「なんだこりゃ」っていう仕事をしてくる職人もいますよ。笑 特に琳派の影響を受けた形式というのは、上手い下手が分かりやすいですからね。

    奥野:着物を着ていると、大抵の方は肩の模様だとか帯に注目されますが、職人は常に足元の裾を見るんです。だから話していても一切目も合わせてくれない。笑 模様が一番凝って作られているのが、裾の部分だから、そこを見ればいいものかどうかがわかるんですね。

    細井:それぞれの職人さんにこだわりがありますからね。ひとつの手法を極めるのがすごく大変だから。弟子入りするときは、好きな工程を選べるけれど、一度極めたら他へ転向することもありません。京都だと、職人が集まる街全体が工場みたいなものです。

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    ―― 分業制だと、自分がイメージしていたものと違う着物になるということはありませんか?

    奥野:工程が増えるにつれて、関わる人が増えます。そうすると、どうしても伝わりきらないこともある。だから想像していたものと違う時はあります。自分がいいなと感じられるものがいい物なのだと思います。

    細井:全体をコーディネートするのは悉皆屋さんという、専門の方がいるんです。各職人が、ひとつの会社みたいなもので、個人の仕事は必須だけれど全体でまとまった時に、誰の作品かということは分かりづらい。作家名で売っているわけではありませんからね。値段設定にも職人は関わらないし、自分たちもビックリするような値段がついていたりすることもあります。

    奥野:着物の値段もいろいろありますが、高い理由はその分業制にあります。時には着物の質そのものより、流通の経緯で値段が上がることもあるんです。

    友禅職人ならではの悩みごと

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    ――「友禅職人あるある」って何かありますか?

    細井:作務衣を着て仕事をしている人は、ほとんどいないですね。職人っぽくしてくださいと言われたときだけ着て、洋服は作業着の感覚で着ます。それから、職人は毎日必ずお昼寝をします。

    奥野:わたしは会社員ですのでお昼寝はできませんが、自営業なら集中力を保つために、どの職人さんでもお昼寝していますね。あと納期が遅れている商品こそミスが多いです。

    細井:ミスを直してくれる専門の職人さんもいますが、引き継いで修正するのには時間もお金もかかる。金彩という金を使って装飾をするのを専門にしている職人さんがいるのですが、作業でカッターを使うんですね。それで布そのものを誤って切ってしまったら全部はじめからやり直しです、滅多にないですが。

    ――納期というのは大体どれくらいなんですか?

    細井:例えば今日(5月16日)依頼されたら、お盆あたりが納期でしょうか。でもだいたいの問屋さんは室町時間の感覚ですね。

    奥野:室町時間っていうのは、室町という地域に住んでいる人の時間感覚を言うのですが、とてもルーズです。笑 主に問屋さんが集まっているエリアですが、今日いえば明日できると思っている方が多いのかな?と。それから友禅の中の、どの工程の職なのかを言いたいですね。名乗るとき、一般の人に伝わりづらいから職業欄には友禅、とだけ書いたりします。けれどそれって、サラリーマンです、と紹介しているような感覚です。

    細井:室町時間で思い出しましたが、職人さんの中にはぶっきらぼうな人も結構います。先程の裾しか目が行かないという話もそうですが、職人さんに婚期を逃す人が多いのは、そんなことも理由なのかなと思います。笑

    琳派400周年。盛り上がりはこれから

    イベントの前に、京都の職人さん20人にアンケートを取るなど、トークセッションは終始なごやかな雰囲気で終了。華やかな伝統工芸を支える職人さんたちの、ぶっちゃけ話が聞けたのも、ちょっと敷居の高かった伝統工芸を身近にしてくれました。

    今回お邪魔した「ART FOR THOUGHT」では、琳派400周年を盛大にお祝いすべく、多彩なイベントを実施予定です。5月18日(土)には、日菓さんという、京都の超人気和菓子ユニットが東京にて和菓子の実演をしてくださいます。

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    写真:Kenshu Shintsubo日菓公式HPより

    京都では、イベント開催ごとにお客さんが超満員という日菓さん。東京で間近に作品を見ることのできる絶好の機会です。京友禅とはまた一味違った「琳派」を発見できるかも。小腹を空かせて足を運んでみてください。

    今後も、400年の潮流を受け継ぐ日本の職人さんたちのお家芸から目が離せません!

    Information

    「琳派のある暮らし」

    会場:ART FOR THOUGHT
    会期:2014年5月12日(月)~5月24日(土)11:00~18:00
    ※最終日は15:00まで、18:00~24:00はバー営業。
    ・手描き友禅実演/5月17日(土)、18日(日)13:00~ 職人による制作工程の実演をご覧いただけます。
    ・日菓の喫茶/和菓子作家「日菓」による展示作品に合わせた創作菓子をお召し上がりいただけます。
    ※干菓子:5月12日(月)~5月24日(土)11:00~
    ※生菓子:5月18日(日) 11:00~18:00(無くなり次第終了) 制作工程をご覧いただけます。
    住所:東京都中央区銀座8-10-4 和孝銀座8丁目ビル1F
    電話番号:03-6228-5922
    アクセス:各線「銀座駅」A3出口より6分
    /都営浅草線「東銀座駅」A1出口より7分
    /JR山手線「新橋駅」銀座口より7分
    Wi-fi環境:無し
    公式HP:http://artforthought.jp/

    執筆者&翻訳者

    富士山の麓生まれ。おばあちゃんになったら、国内外問わず、山の中で書道の先生をやるのが小さい頃からの夢です。
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