飛騨高山を味わう旅:木工、日本酒、そして郷土料理
飛騨高山の伝統工芸と食文化を巡る1泊2日のモデルコースをご紹介。朴葉味噌をはじめとする発酵料理や地酒、素朴な里山の暮らしまで、飛騨ならではの魅力を発見します。
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目次
- 地元の味わいから紐解く、もうひとつの飛騨高山
- 櫻山八幡宮と高山祭屋台会館
- 「寿々や」で味わう朴葉みそステーキの昼食
- 日下部味噌醤油醸造で知る、朴葉味噌づくりのこだわり
- 日下部民藝館で出会う、伝統建築と匠の技
- 寿美吉旅館で心あたたまるおもてなしを
- okuで味わう、天然酵母パンと季節の恵みのスローな朝食時間
- 平田酒造場で味わう、飛騨高山の銘酒
- 「お食事処 大喜」で味わう、飛騨高山の郷土の味
- 飛騨の里で、伝統的な暮らしに浸る
- まとめ
地元の味わいから紐解く、もうひとつの飛騨高山

岐阜県・飛騨地方の山あいに位置する高山は、江戸時代の町並みや日本の伝統工芸に魅了される旅人にとって特別な場所です。17世紀に始まり、精巧な彫刻が施された屋台が巡行することで知られる年2回の「高山祭」は世界的にも有名ですが、この町には“味わう”ことで出会える、もうひとつの静かな魅力があります。
合掌造りで知られる白川郷とあわせて訪れることも多く、高山へは名古屋から特急列車で約2時間半。車窓に広がる風景もまた旅の楽しみのひとつです。
高山の魅力は三町筋の歴史ある商家が並ぶ通りだけではありません。本記事では、2日間のモデルコースを通して、発酵文化をはじめとする高山の奥深い食の世界へとご案内します。土地に根付いた味わいこそが、この町の本当の個性を物語っています。
櫻山八幡宮と高山祭屋台会館

17世紀半ばに始まった高山祭は、高山市の誇りとも言える伝統行事です。毎年2回開催され、春(4月14日~15日)は南部の日枝神社、秋(10月9日~10日)は北部の櫻山八幡宮で執り行われます。

開催日以外でも、飛騨の匠の技の粋を体感できるのが「高山祭屋台会館(屋台会館)」です。櫻山八幡宮の境内に位置し、秋祭りで曳き出される屋台の中から、4台を入れ替え制で年間を通して展示しています。

重要有形文化財に指定されているこれらの屋台は、高さ約8メートルにも及ぶ壮麗なもの。繊細な木工技術を守るため、空調管理された展示室で大切に保存されています。

ガラス越しに眺める屋台は、一台ごとに異なる個性を放ちます。精緻な彫刻、華やかな漆塗り、金箔による細工、そして貴重な装飾品の数々。祭りで生き生きとした動きを見せることで知られる「からくり人形」も間近に見ることができます。

館内には屋台を上から見下ろせる回廊も設けられており、飛騨の匠の高度な技術を立体的に堪能できます。また、併設の映像ホールでは約10分間の映像を上映しており、神事の様子から、約100個の提灯に照らされる幻想的な夜祭(宵祭)まで、祭りの熱気と美しさを臨場感たっぷりに伝えます。
高山祭は今もなお、地域の暮らしと誇りの中心にある存在です。屋台会館から旅を始めることで、その背景や精神性を理解し、高山の滞在をより深く味わうことができるでしょう。
「寿々や」で味わう朴葉みそステーキの昼食

Picture courtesy of 寿々や
櫻山八幡宮から徒歩圏内にある「寿々や」は、ランチにおすすめの一軒です。高山が誇るブランド牛・飛騨牛を使った多彩な料理を提供しており、なかでも名物の「朴葉みそステーキ」はぜひ味わいたい逸品です。

この郷土料理では、飛騨牛とねぎ、きのこを味噌とともに乾燥させた朴葉の上で焼き上げます。朴葉のほのかな香りが食材に移り、深みのある風味に。きめ細かなサシが入った飛騨牛は驚くほどやわらかく、肉本来の甘みと味噌のコクが絶妙に調和します。炊きたてのごはんとの相性も抜群です。

そのほかにも、山菜みそ鍋やすき焼き、炭火あみ焼きといった和の定番料理から、とんかつやエビフライなどの洋食メニューまで幅広くそろっています。
料理のおいしさはもちろんですが、「寿々や」の魅力はその趣ある空間にもあります。建物は、店主の曾祖父が暮らしていた旧家を改装したもので、約60年前に飲食店として生まれ変わりました。

もともとは山菜や川魚を中心とした高山ならではの料理を提供していましたが、のちに飛騨牛料理も加わりました。とんかつなどの洋食メニューは、洋食の料理人だった現店主の祖父の味を今に受け継ぐ意味を込めて、現在も提供されています。
そして何より印象的なのが、観光客にもやさしい温かなおもてなしです。スタッフは英語や身振りを交えながら、料理のおいしい食べ方を丁寧に説明してくれます。母国語でお礼を言われることもあるかもしれません。それもまた、すべてのゲストに心地よい時間を過ごしてほしいという、同店ならではの心配りの表れです。
日下部味噌醤油醸造で知る、朴葉味噌づくりのこだわり

朴葉味噌のおいしさの秘密をさらに深く知りたいなら、「日下部味噌醤油醸造 角一」を訪ねてみましょう。
1890年創業の老舗で、看板商品の「角一こうじ味噌」は今もなお木桶で仕込まれています。なかには130年以上使い続けられている桶もあります。

長い年月を経た木桶には、この蔵ならではの発酵菌が棲みついています。そうした菌が生み出す、まろやかで奥行きのある旨味は、ステンレスタンクでは再現できない味わいです。
蔵の見学ツアーは行っていませんが、美しく保存された旧蔵の一角にある直売店を訪れることができます。

店内では、4種類の味噌と5種類の醤油を試食してから購入することができます。海外からの来訪者向けに英語での説明も用意されており、基本的な味噌汁の作り方から郷土料理の朴葉味噌まで、発酵調味料の使い方をわかりやすく紹介しています。
日下部味噌醤油醸造は、朴葉味噌を商品化し、一般向けに販売した先駆け的存在でもあります。
この朴葉味噌は、一般的な味噌に比べて塩分が控えめで、甘みが強いのが特徴。自慢の「角一麹味噌」をベースに、酒粕やみりん、熟成酒をブレンドしています。焼いたときに香りが最も引き立つよう計算された独自の配合により、食欲をそそる芳醇な香りと、深みのあるコクが生まれます。

店頭では、専用の味噌と乾燥した朴葉がセットになった商品も購入できます。自宅で調理する際は、まず朴葉を10~15分ほど水に浸してやわらかくし、水気を拭き取ります。ホットプレートやフライパンを使う場合は、朴葉より一回り大きいアルミホイルを下に敷くと安心です。葉が破れた際の汁漏れを防ぎ、後片付けも簡単になります。
調理方法は、朴葉の上に味噌を薄く広げ、青ねぎやしいたけ、牛肉をのせて弱火でじっくり焼くだけです。少し趣向を変えるなら、バターやチーズを加えてみて、アレンジによる味の変化を自在にお楽しみください。
日下部民藝館で出会う、伝統建築と匠の技

高山の歴史に触れるなら、宮川朝市から徒歩すぐの「日下部民藝館」へ。1875年の大火後に再建された主屋は、江戸時代(1603–1868)に豪商・金融業を営んでいた日下部家の住居兼蔵として使われていました。
当時の飛騨地域は「天領」として徳川幕府の直轄地に指定されており、豊かな森林資源と“飛騨の匠”と称される名工たちの卓越した技によって町は大いに栄えました。

1967年に重要文化財に指定された日下部家の住宅は、高山建築の粋さを今に伝える代表的な存在です。重厚な黒漆塗りの大梁(おおばり)や、高く吹き抜けた開放的な空間構造は、飛騨の大工技術の高さを雄弁に物語ります。

玄関付近には、約250年前の仏壇が大切に残されています。大火を免れた貴重な遺品のひとつです。館内を進むと、床の間には美しい日本美術が飾られ、飛騨の民芸品や伝統陶器、古い生活道具の展示からは、豪商の洗練された暮らしぶりをうかがい知ることができます。

取材時には、2階で現代美術家・落合陽一氏によるインスタレーションが展示されていました。最先端テクノロジーと仏教的イメージを融合させた作品は、聖とデジタルの境界を揺さぶります。日下部民藝館の館長夫人はアートキュレーターでもあり、この空間は時代をつなぐ架け橋として、革新的な企画展やイベントも積極的に開催しています。

見学の最後には、静かな中庭や、展示ギャラリーとして再生された土蔵もぜひ訪れてみてください。

そしてミュージアムショップでは、ガラス工芸や染織、ジュエリーなどの工芸品に加え、オリジナルアート作品も取りそろえています。一般的なお土産とは一味違う、上質な一品に出会えるはずです。
寿美吉旅館で心あたたまるおもてなしを

近代的なホテルも多い高山ですが、より本格的な滞在を望むなら「寿美吉旅館」がおすすめです。宮川沿い、朝市のすぐ向かいという絶好のロケーションにあり、明治時代には質屋として使われていた建物を活用して、1950年に旅館として創業した、家族経営のお宿です。
客室は畳敷きで、飛騨家具や季節のしつらえが配された和の空間。2階の客室からは、宮川を望む風情ある景色も楽しめます。館内には、先代主人が収集した日本美術や骨董品が随所に展示されており、とくにロビーには民芸品や高山祭にまつわる品々が並び、見応えがあります。

伝統的な旅館らしく、トイレや浴場は共用です。館内には広めの大浴場と、小さめの貸切風呂の2か所があり、貸切風呂は空いていれば利用可能ですが、ほかの宿泊者への配慮も忘れずに。日本の入浴マナーとして、浴槽に入る前には必ずシャワーで体を洗い流し、浴槽のお湯は次の方のために抜かずにそのままにしておきましょう。

また、宿で提供される朝食は、味噌汁やごはん、焼き魚、そして朴葉味噌などが並ぶ、彩り豊かな“和の朝ごはん”です。高山らしい朝食を味わいたい方にとって、寿美吉旅館は最適な一軒です。
okuで味わう、天然酵母パンと季節の恵みのスローな朝食時間

洋朝食派の方におすすめしたいのが、地元で人気のベーカリー「Le Pain Mujo(ル・パン・ムジョー)」の姉妹店「oku」。2024年7月のオープン以来、職人仕込みのパンを主役にした、体にやさしい朝食を提供しています。

メニューには、冬はほうれん草のポタージュ、夏は爽やかなトマトスープなど、季節感あふれる栄養豊富なスープが登場。これにサラダや自家製ハム、なめらかなマッシュポテト、旬の副菜が添えられます。たんぱく質やミネラル、ビタミンをバランスよく取り入れた一皿は、日本らしい繊細な栄養設計が感じられる内容です。

okuでの朝食は、いわば“ファストフードの対極”。店に入るとまず靴を脱ぎ、スリッパに履き替えるというひと手間が、自然と気持ちをゆるやかに整えてくれます。木の温もりあふれる家具と緑に囲まれた店内は、まるで飛騨の森の中にいるかのような穏やかな空間です。
ひとりでも、誰かと一緒でも、ゆったりと過ごしたくなる場所。ここでは朝食が、1日の始まりを整える“セルフケアの時間”として大切にされています。

取材時にいただいたのは「カンパーニュ」。香ばしく、噛むほどに味わい深い天然酵母のパンが印象的でした。季節のスープや副菜とともに味わう一皿は、心身をしっかりと満たしてくれるもの。高山散策へ向かう前の、理想的な朝のひとときです。
平田酒造場で味わう、飛騨高山の銘酒

味噌や醤油と並び、日本酒もまた高山の発酵文化を支える重要な存在です。厳しい寒さに包まれる冬に体を温める一杯として、そして高山祭では神前への供え物として振る舞われ、地域の人々に分かち合われるなど、日本酒は暮らしと信仰に深く根付いています。

市内に7軒ある老舗酒蔵のひとつ「平田酒造場」は、1895年創業。約40分間の体験型ツアー(1名4,000円/要予約)では、日本酒造りの哲学や工程を丁寧に学ぶことができます。高山の伝統文化を理解するうえで格好の機会であり、見学の最後には地酒のテイスティングも楽しめます。
大規模な工場とは異なり、平田酒造場は小規模・少量生産にこだわる蔵元。飛騨の自然風土を映し出す、手仕事ならではの酒造りを続けています。ツアー前半では、精米や蒸米、麹づくり、発酵、搾り、瓶詰めに至るまで、工程を順を追って見学します。繊細な作業の積み重ねが、一滴の酒へと変化していく過程を体感できます。

蔵の中では、蒸した米や発酵中の醪(もろみ)の芳醇な香りに包まれながら、杜氏をはじめとする職人たちの仕事ぶりを間近に見ることができるかもしれません。伝統と経験に支えられた、繊細な醸造の営みが、静かに受け継がれています。

見学の締めくくりは、3種類の代表銘柄の試飲。内容は時期によって変わりますが、例えば、朴葉味噌のようなコクのある郷土料理とも相性の良い、すっきりとした辛口の「飛騨の華」や、華やかで繊細な香りが魅力の大吟醸「昇龍乃舞」などが並びます。
また、「多賀山」は、2025年にフランスで開催された権威ある「Kura Master」コンクールで金賞を受賞した純米大吟醸。世界的にも評価される、その確かな品質を味わうことができます。
これらの銘柄は併設ショップで購入可能です。フルーティーな果実酒などもそろっています。飛騨の本物の味を自宅でも楽しみたい方にとって、特別なお土産となることでしょう。
「お食事処 大喜」で味わう、飛騨高山の郷土の味

滞在2日目の午後は、市街地からタクシーで約15分の場所にある「飛騨の里」を訪れてみましょう。

見学の前に立ち寄りたいのが、素朴な佇まいが魅力の「お食事処 大喜」。本格的な飛騨料理で知られる一軒です。手打ちそばやサクサクの天ぷらをはじめ、朴葉味噌や山菜定食など、郷土色豊かなメニューがそろいます。

店主は厳選した上質な飛騨牛を使用し、周辺の山々で採れた新鮮な食材と組み合わせて提供。季節によっては、鮎やイワナの塩焼きが登場することもあり、素材の持ち味を生かした素朴な味わいを楽しめます。

築250年を誇る建物も、この店の大きな魅力。年季の入った木材に囲まれ、畳敷きの空間で食事をするひとときは、高山の歴史の中に身を置くような感覚をもたらしてくれます。
郷土ならではの家庭的な味を堪能したい方にとって、「大喜」は最適な一軒です。地域の名物料理が中心ですが、事前に予約をすれば、ベジタリアン向けの対応も可能な場合があります。特別な一皿を用意してもらうためにも、あらかじめ相談しておくと安心です。
飛騨の里で、伝統的な暮らしに浸る

「大喜」から坂道を少し上った先にある「飛騨の里」は、飛騨地域の山里の暮らしをより深く知りたい方にぜひ訪れてほしい場所です。
この野外博物館には、30棟以上の伝統的建造物が移築・保存されています。なかでも、急勾配の茅葺き屋根が特徴の合掌造りの農家は象徴的な存在。これらの建物は保存のために各地から丁寧に解体・移築されたもので、なかには18~19世紀に建てられたものもあります。

内部も可能な限り当時の姿を保っており、展示されている農具や生活道具からは、当時の人々の暮らしぶりが伝わってきます。そこには、飛騨の文化と自然環境との深い結びつきが色濃く表れています。
豪雪地帯である飛騨では、雪との向き合い方が生活の重要な要素でした。家の中には「囲炉裏」が設けられ、家族が集い、料理をし、語らう場として機能していました。囲炉裏は暖を取るための知恵でもあり、暮らしの中心でもあったのです。

屋外では、山の斜面で物資を運ぶためにさまざまな種類のそりが使われていました。こうした細部の展示を通して、飛騨の人々が美しくも厳しい自然環境と調和しながら生活してきた様子が生き生きと伝わります。
建物内で地元の職人による実演も行われ、木彫や漆器といった伝統工芸の技を見ることができます。飛騨刺し子や、陶芸や機織り体験など、地域の伝統文化に実際に触れることができます。体験について詳しくはこちら。
また、飛騨高山思い出体験館では、高山でおなじみの赤いお守り「さるぼぼ」作りをはじめ、絵付けや茶道など、お子様と一緒に楽しめる体験メニューが一年中用意されています。思い出作りに、ぜひこちらもお立ち寄りください。

飛騨の里は一年を通して魅力あふれる場所です。雪景色が広がる静かな冬、新緑がまぶしい夏、そして山々が温かな色に染まる秋——訪れる季節ごとに、心に残る風景が待っています。
まとめ
私たちがおすすめする飛騨高山の1泊2日モデルコースは、日常のスピードをゆるめ、丁寧な暮らしに立ち返るための旅への誘いです。朴葉味噌の香ばしい香り、日下部民藝館に息づく何世紀にもわたる匠の技、okuで迎える穏やかな朝、そして飛騨の里の素朴な風景—この地には、豊かな文化と静かな自然が美しく調和する、かけがえのない時間が流れています。
飛騨高山へは、名古屋駅からJR特急「ワイドビューひだ」でスムーズにアクセスできます。所要時間は約2時間20分。飛騨川や山あいの景色を望む車窓風景は、この路線ならではの楽しみです。
また、名古屋駅(新幹線口)バスターミナルもしくは名鉄バスセンターから発着する名鉄バス/濃飛バスを利用する方法もあります。比較的リーズナブルで、本数も充実。所要時間は約2時間40分で、高山中心部までアクセスできます。
日本のHAKKO(発酵)はUMAMI(旨味)の源。その知られざる「秘密」と「魅力」を、たっぷりご紹介します! その昔、天下を取ったShogunが活躍した名古屋。「名古屋城」や「ジブリパーク」が有名ですが、実は和食を象徴する”UMAMI”を生み出す食文化の宝庫なんです。 ■What’s HAKKO? 和食の味を左右する「調味料」や世界中で人気の「日本酒」づくりにおいて「HAKKO技術」は、重要な鍵を握る存在です。 ■What's Nagoya like? 日本の中部地区に位置し、空路・陸路共に、ハブとなる名古屋。 恵まれた自然環境と風土によって、独特の発酵食文化を育んできました。伊勢湾と三河湾に囲まれた知多半島は、風光明媚な地で、古くから酒や酢・味噌・たまりなどの醸造業が盛んです。徳川家康の生誕地である西三河は「八丁味噌」や「白醤油」といったユニークな発酵調味料の歴史を紡いでいます。