日本を代表する「寿司」の原点を「酢」から読み解く愛知・半田への旅

愛知県半田市は、ミツカンの酢を通じて寿司文化のルーツを探る旅の舞台。運河沿いにはミュージアムや新鮮さが内売りの寿司店、酒造りやカブトビールの歴史を学べるスポットが点在し、歴史と美食を堪能できます。
- 目次
- 知多半島にある半田市とは?
- 寿司の知られざる秘密を探る「ミツカンミュージアム」
- 新鮮な地魚を使った本場の寿司を味わう「回転鮨 魚太郎 半田店」でランチ
- 旅の合間でひと休み。落ち着くカフェで食後の絶品スイーツ
- まさに映画のセットのような異世界の雰囲気、半田運河を散策
- 半田の発酵の歴史に触れ、酒造りを学ぶ「国盛 酒の文化館」
- 新しいことへ挑戦し続けた結晶!「カブトビール」の歴史を辿る
- まとめ
愛知県の素晴らしい寿司の秘密は、1804年に半田で設立された”ミツカン”ブランドが生産する食材「酢(米酢)」に起因しています。寿司好きの方なら、たまらない!その「酢」の歴史を理解することで、寿司のルーツについてもっと学ぶことができます。実は私たちが身近で接していた愛知(名古屋)の発酵食文化を探索する”半田”への旅を紹介します。
知多半島にある半田市とは?

ミツカンの建物と半田運河が生み出す映画のセットのような景観
半田市は、名古屋から電車で約40分、セントレア(Nagoya Airport(NGO))からは約50分でアクセスできる場所に位置しています。
半田は古くから醸造業で栄えた町で、その影響で市内には運送のために整備された半田運河があります。今でも昔の様子を感じることができる、黒塗りの壁が特徴的な建物が立ち並ぶその空間はまさに映画のセットに入り込んだような気分を味わうことができる、素敵な雰囲気を持っています。
そんな半田市発祥のブランド”ミツカン”が、実は今や世界中の多くの人に愛される日本の食文化の一つ「寿司」がここまで人気になるまでの過程に関わっているのです。
では、早速そんな「寿司」のルーツに迫る半田を一緒に旅してみましょう。
寿司の知られざる秘密を探る「ミツカンミュージアム」

ミツカンミュージアムのエントランス
半田運河のすぐそばにある、ミツカンミュージアム。ここは現在も「寿司」に欠かせない「酢」を製造販売しているミツカンが運営するミュージアムです。
通称MIMと呼ばれるこのミュージアムでは、このミツカンという会社が日本食に対して大きく貢献してきた200年の歴史や理念から、「酢」の製造方法や種類などについてまで、訪問者が「見て、触れて、楽しんで、学ぶ」ことができるように設計されています。
日本の食文化について学びながら、子供や大人が楽しめることがたくさんあるため、家族での日本旅行にもぴったりの場所です。
また、ミュージアムの見学には事前予約が必要です。その他ミュージアムではツアーが用意されており、ガイドが展示について説明しながらミュージアムを巡ることもできます。(ミュージアムの見学の予約、館内ツアーの予約はここから。)
多言語(英語、韓国語、中国語)でミュージアム内の一部エリアの紹介を聞くことができる音声ガイドもあります。
MIMは、テーマごとに展示スペースが別れています:
大地の蔵
ここでは、来館者が江戸時代(1603‐1868)にミツカンがどのようにお酢をつくり、今日どのように醸造しているかを見ることができます。

現在日本料理に多く使われる一般的な「酢」は「米酢」です。ですが、ミツカンの「酢」の元祖は酒粕を熟成させて水を加えて絞った「酢もと」に、酢酸菌を含むお酢を混ぜて発酵して作った「粕酢」でした。半田はもともと日本酒の製造が盛んであり、その製造過程で多くの酒粕が残ります。、日本酒の醸造技術を心得ていたミツカンだからこそ、それらを「酢」作りに活かすことで江戸前寿司のルーツに欠かせない「粕酢」を作ることができたのです。
日本だけではなく、世界中の人に食べられている現在の握り寿司は1,800年代前半の江戸時代に誕生しました。当時は米酢と塩を使ってつくられたすし飯と魚の切り身を握ったものでした。その提供の速さから「早ずし」と呼ばれ、江戸で人気を集めました。
その際、ミツカンの創業者である中野又左衛門が半田の地から江戸へ「粕酢」を売りんだところ、「江戸前寿司」に「粕酢」の熟成した酒粕の風味や旨み、甘味がよく合うと評判になり、現在の「江戸前寿司」へとつながっていると言われています。現代の江戸前寿司が広まったのは、又左衛門の功績であると言っても過言ではないようです。
光の庭
この明るく開放的な空間では、訪問者が実際にお酢を使ったドリンクを味わうことができたり、人々と地球環境を考慮して作られた未来の食について体験やレクリエーションを楽しみながら、学ぶことができるようになっています。


アート作品のようなお鮨の模型。29種類、1134貫のお寿司の模型があります。
水のシアター
この高級感のあるシアターでは、私たちの食べ物と生活のつながりをテーマにした、驚くほど感動的な映像を楽しむことができます。四季の中での食と生活のつながりを表現し、美しい自然や豊かな食文化、食卓での笑顔のイメージが観客の心に響きます。美しく、感動的な体験です!
時の蔵

この部屋では、200年以上にわたるミツカンの変革と挑戦の歴史をたどります。この部屋の中でひときわ目を引くのが、江戸時代に酢やその他の製品を運ぶために使用された約20メートル弁才船(コンテナ船)の再現模型です。

ミツカンの創業者 中野又左衛門が半田で作った「粕酢」を江戸に持ち込んで、挑戦した彼のストーリーをイラスト映像で解説してくれます。
この船の模型に乗ると、目の前に大型スクリーンが現れ、風の演出も加わることで、あたかも実際に船に乗って半田から江戸へ海を渡って酢を運ぶ旅に出ているような疑似体験ができます。これは、リスクを乗り越え、新たな時代への挑戦を垣間見ることのできる、強烈な体験です。
風の回廊

ここのギャラリーはより落ち着いた雰囲気で、ミツカンが誕生し、グローバルブランドへと育まれた町、半田の歴史と過去の記録を紹介しています。
半田では、10地区31組がそれぞれ山車を所有し、毎年春には地区ごとにお祭りが行われますが、5年に1度、31輌の山車が一堂に集う”半田山車まつり”が有名です。ここ(風の回廊)には、これら31組の法被のデザインをあしらったのれん(装飾用のタペストリー)が展示されています。

この部屋からは、昔の面影を残す運河の景色や、明治時代(1868〜1912)から昭和初期(1926~)にかけての半田の風景を写した展示写真を眺めることができます。
ミツカンミュージアムで「酢」についてのユニークなストーリーとミツカンの会社の歴史を学びました。
次は半田運河沿いを歩いてすぐのところにあるレストランでついに寿司を味わってみましょう!
新鮮な地魚を使った本場の寿司を味わう「回転鮨 魚太郎 半田店」でランチ

回転鮨 魚太郎 半田店は、半田市内および、愛知県、岐阜県に7拠点展開する鮮魚市場が営む店舗です。回転寿司と寿司会席の両方の選択肢を提供しており、多くの寿司好きの要望に応えます。

お店で提供される魚は、知多半島近海の海で獲れたその日にお店へ運ばれ、職人の手によってさばかれて、非常に新鮮な状態で提供されます。
職人は鮮度抜群の魚だけを選び、その日の仕入れは水揚げに応じて異なるため、メニューは日ごとに変わります。

このお店は、MIMだけではなく、半田の他の観光名所の近くに便利に位置しているため、訪れるには最適です。昔から半田市で美味しい酢を運ぶために使用されてきた運河沿いを長時間散策した後のランチにぴったりです。
旅の合間でひと休み。落ち着くカフェで食後の絶品スイーツ

お店の人気メニュー、キャラメルワッフル
回転鮨に併設されている「蔵のまちカフェ」の店内は落ち着いた雰囲気で旅の途中の休憩できるスポットとして最適です。
また、メニューは朝食、飲み物、丼物(ご飯料理)、デザートなどの豊富なメニューが楽しめます。

右側がリンゴ酢を炭酸水で割っていただく、リンゴ酢ソーダ。左側はフルーツの果肉とアールグレイを合わせたアイスティー。
注文が入ってから焼き上げるワッフルは表面はサクッと中はふわふわの食感がたまりません。ドリンクメニュー中で注目なのが、ミツカンのリンゴ酢を使用したリンゴ酢ソーダです。すっきりとした酸味で美味しくて、健康的な飲み物です。
カフェの中には、半田市や知多半島の特産品を販売する土産物コーナーもあります。ミツカンの様々な種類の酢や地元の酒蔵で作られた日本酒など豊富な選択肢が揃っています。その他、魚介類を使った佃煮(魚を醤油、みりん、砂糖で煮て、長期間保存できるようにしたもの)なども販売しています。
魚太郎での素晴らしい寿司の食事の後に、甘いデザートを楽しんだり、旅行の記念品を手に入れたりするには最適な立ち寄り場所です。
まさに映画のセットのような異世界の雰囲気、半田運河を散策

半田運河周辺は、江戸時代に船運業と酒造りで繁栄していました。「粕酢」という、かつて酒造りの過程で廃棄されていた「酒粕」を再利用して作られる製品の誕生により、海運業も次第に栄えました。黒壁の蔵や運河沿いに並ぶ歴史的な建物の景観は、過去を垣間見ることができ、静かで清潔な雰囲気を醸し出しています。
そんな運河沿いには魅力的な観光スポットがいくつもあります。
スポット①:旧中埜半六邸と半六庭園

江戸時代に海運業・醸造業でさかえた名家・中埜半六家の明治時代に建設された旧邸宅と庭園が一般公開されています。

その立派な邸宅と庭園から、いかに中埜家がこの地で栄え、地元の発展に貢献していたかをはかり知ることができます。

ばぁむくぅへん研究所のお店の外観。小窓から商品を注文をします。
その敷地内に2つの素敵なおすすめのスポットがあるので、紹介します。一つ目は、「ばぁうむくぅへん研究所」です。

小さな窓から注文して、飲みきりサイズのコーヒーや紅茶(1杯70円!)を楽しみながら、アイスのようにスティックに刺したスタイルで提供されるバームクーヘンは2種の味があります。地元半田の豆味噌と希少なアマゾンカカオを掛け合わせたカカオ味噌味のO2とプレーンから選ぶことができます。
味噌とバームクーヘンを組み合わせた味の想像が初めは出来ませんでしたが、一口食べるとカカオの香りと味噌の香ばしい風味が非常にマッチし、絶妙な味わいでした!他にはない唯一無二の味だと思うので、実際に食べて、特別な食体験をしてみてください!

また、もう一つのスポットは「HANROK」です。パリのLes Enfants Rougesでの経験を持つシェフ・鈴木孝典氏が手掛ける愛知県知多半島の食材や発酵調味料を使用した美しいフランス料理を楽しめる、さりげなく贅沢な空間を提供する地元でも評判のレストランです。

中埜家の旧邸宅の半分を改装した空間は、建物の歴史や日本家屋の美しさを感じ、美味しい料理を頂くのに最適の場所と言えるでしょう。

このレストランではまた、愛知の発酵文化を味わうことができる美食体験を提供しています。この記事を読んでいる食通の皆さん、ぜひ訪れてみてください。
(HANROKは完全予約制となっており、事前予約が必要です。予約はこちらから)
半田の発酵の歴史に触れ、酒造りを学ぶ「国盛 酒の文化館」

半田を中心とした知多半島は古くから日本酒造りが盛んで、300年以上の歴史があります。中埜酒造が運営する資料館は、1972年まで約200年の間実際に日本酒造りが行われていた建物です。

この資料館では、日本酒にまつわる文化遺産の伝承を目的に、現在の工場が稼働する前に実際に使われていた伝統的な酒造りの道具や、当時の職人の技を紹介しています。

伝統の技と心を受け継ぎながら造られた日本酒が試飲できます。
また、日本酒以外に果実を使ったリキュールやノンアルコール商品も試飲することができます。
お土産として、日本酒などを購入することも可能です。旅のお土産にいかがでしょうか?
資料館の見学や試飲の体験がしたい方は事前に予約をすることをお勧めします。当日も他の団体の見学者の受け入れがない場合は対応できますが、確実に体験をしたい場合は予約をしておきましょう。ここから問い合わせフォームに必要情報と予約希望日などの情報を入力して、送付して下さい。(返信には数日要する可能性があります。)
なお、現在英語などの多言語で対応できるスタッフはいません。ただ、英語の解説映像やパンフレットがありますので心配ありません!
この酒蔵の創業には、「寿司」を広めるきっかけとなったミツカンと深く関わりがあり、もともと半田の地で日本酒の製造を行っていた中埜家が所有していた酒株(お酒を造る権利)を譲り受けたことから始まりました。
日本酒の醸造に対する知識を有しており、「粕酢」の原料となる「酒粕」が豊富に手に入る環境であったからこそ、大量に「粕酢」を作ることに繋がりました。、さらなる「寿司文化」の定着に、この地の歴史や背景が大きく寄与していると言っても過言ではないでしょう。この地の歴史はそれぞれの食文化の歴史に強く結びついているのです。
新しいことへ挑戦し続けた結晶!「カブトビール」の歴史を辿る

1898年に建てられた半田赤レンガ建物は、もともとカブトビールの醸造所であり、日本の初期ビール産業で大手製造工場に挑戦した地元の起業家たちの先駆者精神を示しています。
日本のアニメファンは、かつての名古屋駅の風景シーンの中に見られるカブトビールの看板を、スタジオジブリの『風立ちぬ』やアニメシリーズ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の第3話に登場する建物として認識するかもしれません。

著名な明治時代の建築家、妻木頼黄によって設計されたこの建物は、醸造所に必要な安定性を提供するために、当時としては珍しい独特の多層構造を持っていました。
カブトビールはかつて日本の主要な醸造所であり、1900年のパリ万博で金賞を受賞したこともありました。これらの歴史は、素晴らしくキュレーションされた博物館に展示されており、日本の歴史や明治時代の建築、そしてもちろん日本のビールのファンには必見の場所となります。

ビール瓶のレトロさを感じつつも、洗練されたラベルのデザインには目を惹かれます。

名前の変更や戦争、経済的要因による閉鎖を経て、2005年に明治期のカブトビール、2016年に大正期のカブトビールが復刻しました。当時の味わいが忠実に再現されています。。実際にその味は、まるで映画のセットで飲んでいるかのような雰囲気のカフェで体験できます。
実際、これは美味しいドイツスタイルのビールで、建物内のカフェにて貴重なカブトビールを味わうことが出来ます。
また、復刻カブトビールや地元のお土産などが購入できるショップが併設されています。
まとめ
半田の旅はいかがでしたか?
半田と知多半島は職人技に関わる豊かな歴史に満ちています。ミツカンの酢から国盛の日本酒、カブトビールの素晴らしいビールまで、ここは自らの手で物を作ることで名を馳せた場所です。
そのものづくりの伝統は今日も息づいており、MIMや半田運河を散策するだけで、見る、触れる、楽しむ、学ぶことができる多くの場所があります。そして、最も重要なのは、味わうことかもしれません。ぜひ半田を訪れて、歴史から食までを味わう旅をしてみてはいかがでしょうか?
和食の美味しさの決め手に欠かせないのが発酵食品。恵まれた自然環境によって独自の文化を育んできた名古屋の発酵食品の魅力をたっぷり、ご紹介いたします。