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【手仕事のまち越前市】越前の魅力をまるごと親子で楽しむ旅
ギョームさんはフランス出身のビデオグラファー兼映画監督。フランスで日本の囲碁にふれたことをきっかけに日本の文化に興味を持つようになりました。なかでも伝統工芸が盛んで、日本の伝統を色濃く残す石川が印象に残り、都会では味わえない豊かな自然環境と田舎暮らしに憧れ小松に移住しました。「同じ北陸でありながらも石川県と越前市の文化の違いを楽しみたい」とギョームさん。ここから3人の旅が始まります。
小柳箪笥「kicoru」
最初にやってきたのは、タンス町通りにある「kicoru」。創業100年を超えた越前箪笥の老舗、小柳箪笥店が2014年にオープンしたアトリエで、伝統的な箪笥技術を使ったオーダーメイドの家具やデザイナーとのコラボ作品の展示に加え、ワークショップなども行っています。今回体験するのは「木の時計づくり」。木を組み合わせたり、デコレーションしたりしながら、世界で一つだけの時計をつくっていきます。
ワークショップは小さなお子さんから参加できるので、マノンちゃんが挑戦。小柳箪笥4代目の小柳範和さんに教えてもらいながら、木のパーツを組み合わせていきます。
時計の土台となる木を組み合わせた後は、模様や動物の形のパーツをデコレーションしていきます。どこにどんなパーツを置くか、1時間以上かけて迷う人も多いそう。マノンちゃんもまるで職人のような真剣な表情です。
1時間近くかけてようやく完成!ちょっと恥ずかしそうなマノンちゃんですが、仕上がりには大満足の様子。できた時計は自分の部屋に飾るそうです。
ワークショップが終わった後は箪笥づくりの様子も見せてもらいました。越前箪笥は木と木を組む独自の指物技術と、打刃物の技術を活かした金具の加工、木を保護し箪笥を丈夫にする漆塗りなど、越前の3つの技術が合わさってできたもの。半径10km圏内にさまざまなものづくりの産地が集まっているこの土地だからこそ生まれた伝統工芸なのです。小柳箪笥では工房見学も行っているので、ものづくりの裏側を聞くと、さらに理解が深まりそうです。
寸分の狂いのない越前箪笥をつくるにはカンナがけが欠かせません。薄くカンナがけをした木は、まるで紙のよう。ヒノキの木くずはなんとも言えない良い香りが漂い、マノンちゃんも両手いっぱいに抱えていました。
三崎タンス店
小柳箪笥でのワークショップが終わった後は「タンス町通り」と呼ばれる場所を歩いていきます。約200mにわたる道には和洋家具の製造販売業者や建具商が10数軒集まっており、江戸時代後期から明治時代中頃にかけてタンス造りの職人が住むようになりました。歩いていると昔ながらの趣を残すお店もあり、「昔の世界にタイムスリップしたみたいだね」とギョームさん。
途中、立ち寄った三崎タンス店は160年以上の歴史を持つ老舗箪笥店。慶応元年(1865)ごろに創業し、江戸時代から明治時代にかけては商家の金庫代わりとして使われた「越前箪笥」や寺社仏閣のオーダー指物を製作していました。現在は総桐タンスや指物技術を使った一枚板の家具から木のおもちゃまで、箪笥の技術を活かしたさまざまな商品をつくっています。
「越前箪笥はとても丈夫で、300年以上もつと言われているんですよ」と教えてくれたのは、8代目の三崎俊幸さん。店の奥に置かれている箪笥は、なんと150年前に三崎さんのご先祖が作ったものだそう。しかし金具一つサビておらず、美しいケヤキの木目が際立ちます。
箪笥を見ていると、金具に「ハートマークがある!」と気づいたローレンさん。でもこれはハートマークではなく、猪の目をかたどった「猪目」と呼ばれる模様。獣の目には魔除けの力があることから、越前箪笥ではよく見られるそうですよ。
麺房いせや
「おなかが空いたよ〜!」というマノンちゃんのリクエストに応えてランチタイム!やってきたのは越前市内にある江戸時代創業の「麺房いせや」です。越前市産のそば粉を使ったそばが人気で、県内外から多くのファンが訪れます。
こちらでいただくのは、越前市の名物である「越前おろしそば」「ボルガライス」「中華そば」が一度に楽しめる「ひ三つのごちそうセット」。「越前おろしそば」は福井県の名物として有名ですが、実は越前市が発祥。 1601年に府中(現越前市)の城主となった本多富正公が、京都・伏見からそば職人を伴って赴任したのがきっかけと言われています。「ボルガライス」はオムライスにトンカツをのせ、お店こだわりのソースをかけたもの。越前市で30年以上前に誕生したと言われており、地元の人に愛されるソウルフードなのです。そして忘れてはならないのが「中華そば」。戦後の即席ラーメンブームでラーメンという呼び名が浸透していく中、越前市のなかでも特に旧武生市の駅前周辺では「中華そば」という伝統の名前が使われ続けきました。こちらも地元に愛される越前グルメとして根強い人気を誇ります。
そんな人気の3品が一同に介すると、このボリューム!みんなで仲良くシェアしながらいただきます。越前おろしそばは噛むごとにそばの香りがたち、ヒレ肉を使ったボルガライスのトンカツは子どもやお年寄りの方も食べやすく、オムライスとの相性抜群。うるめと昆布で出汁をとったあっさり味の中華そばはおかわりするほどマノンちゃんも気に入った様子でした。
https://www.echizen-tourism.jp/travel_echizen/food_detail/14?page=2
かこさとし絵本記念館「砳(らく)」
おなかいっぱいになったところで、ちょっとひと休み。次にやってきたのは、「かこさとし絵本記念館 砳(らく)」です。越前市が誇る絵本作家 かこさとしさんといえば、『からすのぱんやさん』や『だるまちゃん』の絵本でおなじみ。絵本館にはかこさとしさんが手がけた絵本や紙芝居など約5000冊の蔵書があり、全国からかこさとしさんのファンが訪れます。
たくさんの絵本に大興奮のマノンちゃん、「ママ、これ読んで!」と何冊もローレンさんのもとに持ってきました。読み聞かせタイムが始まりました。絵本の部屋のほかにも、だるまちゃんやマトリョーシカの衣装を着たり昔遊びや工作が楽しめたりする遊びの部屋やかこさとしさんの原画が展示されている部屋など、子どもから大人までかこさとしワールドを堪能できます。
外にはオリジナルの遊具もあり、マノンちゃんはさらに元気いっぱいに。子どもだけでなく大人ものんびりできる気持ちの良い空間でした。
https://kakosatoshi.jp/museum/
観光農園どんぐり山
たくさん遊んで、今度はおやつの時間。次に訪れたのは越前市の西側にある「観光農園どんぐり山」です。ここでは6月はさくらんぼ狩り、8月上旬からぶどう狩りを楽しむことができます。ぶどう畑に入ると、ほのかな甘い香りが漂います。ぶどうはおなじみの巨峰をはじめ、安芸クィーンやブラックオリンピアなど、市場には出回らない希少な品種も。なかでもシャインマスカットは毎年すぐに予約が埋まってしまうほどの人気だそう。
マノンちゃんも、ぶどう狩りに挑戦。ぶどうの房は果汁が詰まってずっしり重く、高いところはギョームさんにサポートしてもらいながら、ハサミで一緒にぶどうをとっていきます。
自分たちでとったぶどうをその場ですぐに食べられるのは何よりも贅沢。種なしなので食べやすく、ジューシーな甘みが口いっぱいに広がります。園内で採ったぶどうは食べ放題ですが、ひと房食べきるのがルール。余った分を持ち帰る場合は有料となります。いろんな品種を味わい、マノンちゃんも大満足でした。
御誕生寺
最後に訪れたのは、北陸道 武生ICから5分ほどの場所にある「御誕生寺(ごたんじょうじ)」。2009年に建立された、曹洞宗の瑩山(けいざん)禅師にゆかりのある寺院です。境内に捨てられていた猫を住職が引き受けたことがきっかけで「猫寺」として知られるようになり、今や全国各地から多くの人が参拝に訪れる人気スポットになっています。
一時は寺で飼育する猫の数が80匹ほどにまで増えたこともあったそう。しかし、一匹一匹に名前と首輪をつけて世話をし、里親を探すための譲渡会など地道な活動を経て、現在では約30匹以下にまで数を減らしています。
のんびりお昼寝している様子やごはんを食べている様子など、かわいい猫たちの姿に癒され、ほっこり。こうして越前の旅は幕を閉じました。
https://www.echizen-tourism.jp/travel_echizen/experience_detail/104?
「今まで知らなかった越前市のことがわかって、新しいインスピレーションをもらったよ」とギョームさん。「子どもと一緒に楽しめる場所が多いからまた遊びに行きたいわ」とローレンさんも嬉しそう。マノンちゃんはお昼寝するのも忘れるほど一日中元気いっぱいで楽しむ姿が印象的でした。ものづくりや食、自然、歴史など越前の魅力をつめこんだ旅に、子どもも大人も大満足だったようです。
越前叡智(えちぜんえいち) ~Proposing a new tourism, a journey of wisdom.~ 1500年も脈々と先人たちの技と心を受け継ぐまち。 いにしえの王が治めた「越の国」の入口、越前。 かつて日本海の向こうから最先端の技術と文化が真っ先に流入し、日本の奥深いものづくりの起源となった、叡智の集積地。 土地の自然と共生する伝統的な産業やここでくらす人々の中に、人類が次の1000年へ携えていきたい普遍の知恵が息づいています。 いまこの地で、国境や時空を越えて交流することで生まれる未来があります。 光を見つける新しい探究の旅。 ようこそ、越前へ。