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【丹波市】芸術作品と出合える丹波の銘醸蔵『西山酒造場』で日本酒と発酵の文化を体感
山あいを流れる竹田川の伏流水で造られる、やさしい味わいのお酒『小鼓』。1849(嘉永2)年の創業から174年間文人たちが集った酒蔵で、今もその作品が店内のそこかしこに飾られています。美酒に加えて素晴らしい芸術を間近に見られる『西山酒造場』は、新たな施設のオープンも控えて目が離せません。
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目次
- 国の登録有形文化財3つを有する歴史ある酒蔵
- 書に画、みごとな芸術作品を間近に見られる
- 高浜虚子が命名した清酒『小鼓』
- 芸術家・綿貫宏介による『小鼓』のデザイン
- 『小鼓』ブランドの多彩な味を買えるショップ
- 発酵文化を発信する新しいショップ『鼓傳』
- 基本情報
国の登録有形文化財3つを有する歴史ある酒蔵
福知山につながる街道沿いに建つ母屋は、1891(明治24)年頃に建てられたもので瓦葺き木造二階建て。江戸中期からのこの地域の住宅様式を残し、国の登録有形文化財に登録されています。
店内は2021年7月にリニューアルし、カウンターの木材は、かつて使われていた日本酒を搾る木製の「槽(ふね)」や酒樽を再利用。当時の蔵人が書いたであろう墨字をところどころに見ることができ、年月を経てもなお当時の蔵人の息遣いを感じるようです。出来上がったお酒を出すための吞口を残しているのもご愛嬌ですね。
書に画、みごとな芸術作品を間近に見られる
『西山酒造場』の歴史を語るに、明治から昭和にかけて活躍した俳人・高浜虚子を避けることはできません。三代目蔵主・西山亮三は、1902年に若くして亡くなった気鋭の俳人正岡子規の句に感動して、子規の弟分である高浜虚子と出会います。そして虚子の一番弟子となり、「泊雲」の俳号で俳句を詠んでは虚子に送り、指導を受けていました。
二人は師弟という関係を超えて、互いに信頼し尊敬しあう間柄だったようです。泊雲の弟も虚子の二番目の弟子となり、「泊月」という俳号で、俳句に傾倒していきました。そんなこともあって、当時の西山酒造場は多くの文人や画人が集う、サロン的な役割も担っていたようです。
そのため、店内のそこかしこに飾られている書や画は、ほとんどがここで描かれた現物なのです。
かつて西山家の客間だった座敷のふすまに貼ってあるのは、著名な文人らが書いた短冊です。
縁側に座ってくつろいでいる日本画家小川芋銭と泊雲の写真を見ると、この部屋で蔵主と文人たちがお酒を酌み交わして、芸術について語り合っていた様子が思い浮かびます。
高浜虚子が命名した清酒『小鼓』
泊雲と泊月は「丹波二泊」と称され、多くの句を読み、泊雲は俳句雑誌「ホトトギス」の巻頭を最多の28回飾ったそうです。ところが、末の弟が相場で損失を出して酒造場は窮地に追い込まれます。
その時、虚子が清酒の銘柄を『小鼓』と命名し、「ここに美酒あり名づけて小鼓といふ」という句を詠みました。虚子が『小鼓』を「ホトトギス」に掲載して大々的に宣伝して販売まで行ったおかげでお酒が売れて、さらに多くの文人墨客が『西山酒造場』を訪れたそうです。
「ホトトギス」をきっかけに泊雲が知り合った画人の一人に小川芋銭(うせん)がいます。彼は、住んでいた茨城県からたびたび丹波を訪れ、『西山酒造場』の近くの石像寺に長く滞在して、丹波の人々と交流。さらに泊雲の長男と芋銭の次女が結婚。泊雲の長女と芋銭の三男が結婚。両家は親戚になってさらに交流を深めました。泊雲と芋銭がやりとりをしていた書簡がたくさん残っているそうです。
芸術家・綿貫宏介による『小鼓』のデザイン
五代目の西山裕三が手掛けたのは、『小鼓』のロゴやパッケージのデザインを刷新することでした。
芸術家・綿貫宏介(わたぬきひろすけ)の世界観にほれこみ、当時商業デザインはやっていなかった彼を説得して、『小鼓』はこれまでの日本酒の意匠とはまったく違うイメージに生まれ変わったのです。
ショップに併設された囲炉裏のある部屋は、『小鼓』の意匠をデザインした額装や座布団で、綿貫宏介の世界観を表しています。
『小鼓』ブランドの多彩な味を買えるショップ
ショップには『小鼓』ブランドのお酒やノンアルコール商品がたくさん並んでいます。地方発送もできるので、贈り物にも便利です。
原料米がそれぞれ違う純米大吟醸は、『路上有花(ろじょうはなあり) 葵』『路上有花 黒牡丹』『路上有花 桃花』の三種類。使っているお米は、葵は酒米の王者「山田錦」、黒牡丹はいったん廃れたものを地元で復活させた「但馬強力」、桃花は希少な「兵庫北錦」です。
それぞれ味は違いますが、仕込み水が超軟水のため、全体的にやわらかい印象です。
ぶどうのリキュール『深山(みやま)ぶどう』と『深山白ぶどう』は、国産ブランデーをベースアルコールにし、砂糖を使わず爽やかですっきりした飲み心地のリキュールです。リキュールはこのほかに梅やチョコレートもあって、特に女性に人気です。
米と米麹で造られた甘味調味料『甘麹』に、甘酒と国産塩で造られた無添加調味料『塩麹』。天然素材で安心なうえ、料理の味に奥行きをもたせてくれる便利な調味料です。
自家製甘酒と地元の丹波乳業のヨーグルトだけの自然な甘さが特徴。砂糖を使わない爽やかなノンアルコール製品です。
丹波焼の新進気鋭の陶芸家、大西雅文(丹文窯)氏の作品もここで買えます。土のぬくもりと高い芸術性でファンの多い作家です。
敷地内の井戸から、こんこんと湧き出る竹田川の伏流水「椿壽天湶(ちんじゅてんせん)」が仕込み水に用いられています。
温度管理を徹底したフレッシュローテーションで、四季を通じておいしいお酒が造られており、近年では諸外国にも輸出されています。
発酵文化を発信する新しいショップ『鼓傳』
近日オープン予定の複合施設『鼓傳(こでん)』をひと足先に見せていただきました。受け継いだ酒造りの環境や発酵技術を、現代のライフスタイルに合わせて新しい形で発信する場所です。お酒やスイーツのショップ、カフェ、宿泊施設を備えて人々が集える場になるそうです。
芋銭が蔵主に送った画集「三三帖(ささじょう)」には、縁起の良いものが描かれており、その絵がショップのフロントの壁にあしらわれています。「三三」とは掛け合わせると一の位の最大数となる吉祥的な数字で、「ささ」は古くは「酒」のことでした。
また、『西山酒造場』の蔵主の名前には代々「三」の字がついていることから、西山酒造場にとって縁のある文字なのです。
酒蔵として使われていた頃の雰囲気を残した発酵まかないカフェ「小鼓御里(こつづみおんり)」の椅子は、酒造りに使われていた木桶をリメイクしたもの。昔から社員食堂の料理に、発酵食品がたくさん使われていたことから発酵料理はお手の物。調理を担当している栄養士が考案した、せいろ蒸しやピザなどのメニューのほかに、酒蔵特製アフタヌーンティーも登場します。
2階のギャラリーには、『西山酒造場』とゆかりのある文人墨客らの作品が展示されています。中央の額は、横山大観の書。貴重なアートを間近に見られる楽しみも。
完全予約制で1日1組(6名まで)が泊まれる宿の入り口にもさり気なく虚子の書を配置。蔵人が寝泊まりした「会所場」をイメージした室内にも、文人たちの作品が飾られています。『鼓傳』では、お酒や発酵にちなんだ体験セミナーなども開催予定。オープン情報は公式サイトでご確認ください。
基本情報
酒蔵見学(敷地内の散策/外観のみ)定員:1~40名。ご相談ください
申込:3営業日前までに電話またはお問合せフォームから要予約
参加費:4,950円/回(10名まで同額)
お酒を求めてこの地を訪れた時に、さりげなく飾られた書画を見て、文人たちが遠方からわざわざ訪れるほど魅力的な場所であり、おいしいお酒だったと改めて実感しました。日本酒と書画、どちらも日本が世界に誇る文化です。発酵と日本酒の情報発信施設としての『鼓傳』のオープンが待ち遠しいです。公式サイトは英語・スペイン語・中国語に対応しています。
(ライター 松田/ウエストプラン)
※本記事は2023年11月時点の情報です。価格は税込み表示です。商品内容や価格が変更となる場合があります。
基本情報
西山酒造場
住所:兵庫県丹波市市島町中竹田1171
電話番号:0795-86-0331(代表)
営業時間:9:00〜17:30
定休日:年始
アクセス:JR福知山線「丹波竹田」から徒歩10分
駐車場:あり(50台)
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