NAMERIKAWA ARTIST IN RESIDENCE
富山県滑川市・田中小学校旧本館にて、アーティスト3名による滞在制作および成果展を開催
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目次
- アーティスト・イン・レジデンスとは
- 田中小学校旧本館について
- 富山県内の素材や技法をリサーチ
- アーティスト・イン・レジデンス 参加作家
- NAMERIKAWA ARTIST IN RESIDENCE概要
2024年8月、富山県滑川市にある国指定有形文化財・田中小学校旧本館で若手作家3名によるアーティスト・イン・レジデンスが開催されました。富山県外のアーティスト達が普段の生活から離れた場所に中長期間過ごすことで、異なる文化や人々との交流、新しい素材や技法等への挑戦を促進し、参加作家の更なる飛躍のきっかけとなることを目的としています。
様々な経験をしながら、染色、彫刻、インスタレーションと多様なアート作品が約3週間で制作され、最後の1週間で成果展という形で発表されました。
アーティスト・イン・レジデンスとは
アーティスト・イン・レジデンス(Artist-in-Residence, AIR)は、芸術家が一定期間、特定の場所に滞在しながら創作活動を行うプログラムのことを指します。このプログラムを通じて、アーティストが新しいインスピレーションを得たり、異なる文化や環境と触れ合ったりする機会を提供し、また、地域社会にも新たな文化的価値をもたらすことが期待されます。
田中小学校旧本館について
会場となった「田中小学校旧本館」は、昭和11年に建築され、天井、電気器具、内装木部、手摺などにルネサンス、アールデコ、幾何学紋様などの意匠が凝らされており「富山の建築百選」にも選定された歴史ある木造学校建築です。
耐震工事に伴い、本館以外の部分は取り壊されてしまいましたが、残された本館が平成28年に国登録有形文化財に登録されました。また、映画「おおかみこどもの雨と雪」の舞台にもなり、昔小学校に通っていた方から、映画のファンまで、多くの方に愛される小学校です。
富山県内の素材や技法をリサーチ
2024年5月~7月はリサーチ期間とし、富山県内の伝統的工芸品や第一次産業、教育機関等に訪問し、8月からの制作に向けての準備を行いました
南砺市井波 / 木彫師・一般社団法人ジソウラボ 理事 前川大地様 / 井波彫刻の歴史や技法
魚津市鹿熊 / 藍染屋 aiya / 藍染め
南砺市城端 株式会社松井機業 / 城端絹、しけ絹
富山県立氷見高等学校 海洋科学科 / ウニ殻の再利用法(染料として)
アーティスト・イン・レジデンス 参加作家
⽯井佑宇⾺ / 金沢美術工芸大学 大学院美術工芸研究科 工芸専攻 染織コース
私は、伝統的な手描き友禅の技法を用いた染色作品を制作している。友禅において、デザイン(図案)や下書きは非常に重要なプロセスとされてきた。だが、私の制作では、そのデザイン(図案)や下書きの工程を一切行わない。布の隅から隅まで、下書きなしに、即興的に防染糊を置いていく。防染糊で紋様を表した後、面相筆でランダムに染料を挿していく。手の赴くままに生まれてくる紋様は、私の身体性の痕跡である。
日々、糸目糊防染の緻密な仕事をしていく中で、私は自身の裡にあるテクスチャへの欲求が膨らんでいくのを感じる。自らの手を動かす感覚を通して、私自身の根源的な欲求や実感と向き合っている。染色という行為をきっかけとして、自身の実感や内なる美意識にアプローチし、作品として表出させていきたい。
《満ちて在る海》染色 / しけ絹、酸性染料
豊かに満ちて存在している海。そこから得た着想から、今回一枚の布を染めた。制作のきっかけは滑川の海にある。波打ち際のコンクリート護岸に腰掛け、日がな一日海を眺めた。地球の約七割は海に覆われていると聞いたことがあったが、広大な海を前にした時改めて、この世界を満たしている水の総量、その圧倒的な豊かさを肌に感じた。
本作品には、友禅の糸目糊防染技法による紋様表現と、水の作用による偶発的な色彩表現という、二つの表現手法を取り入れた。前者は、染料の動きを人為的にコントロールし、意図された緻密な表現を生み出す。後者は、一度染まった染料が水の影響によって自在に動き出し、偶然によるおおらかで有機的な景色が生まれてくる。
中澤瑞季 / 彫刻家
私は、自身が存在する以前から環境や歴史があり、生まれたときから広大な時間・空間とつながりながら、それに依存し存在していると感じている。そのようなつながりから、自身と環境との境界の感覚的な結びつきとそれに伴う存在の不確かさを、より普遍的なものとして捉えながら、実在する彫刻で表現しようとしている。
またそれと同時にその制作は、彫刻の中に現実とは異なる現象性が生じることから、生まれたときから決まっている世界の枠組みを乗り越えようとするものであるともいえる。
《水平の向こう側》彫刻 / 松、布、写真
《隠れ場所》彫刻 / 樟、布、人工毛
《繋がって、離れて》彫刻 / 樟、布、人工毛
田中小学校旧本館には自転車で通うことが多い。滑川の街並みの中を走っていると、建築物が意識する垂直と垂直の伱間をつなぐように大きな水平線が見え隠れしながら広がっていく。また海の反対側には水平線よりも高く、隠れる頻度がより少なく、明度を変えながら塗りつぶされたような山並みが見え隠れする。どちらも見える限りの景色の向こう側を想像することは途方もない。
遠くの景色から視線を離してより手前の情景を見ると、結構な頻度で現れる空き地らしき場所の緑に惹きつけられる。“抜け” とも言えるその場所が充実した空間に満たされているようで、草木とその上の余白に目が向かう。展示しているこれらの作品の制作過程は普段と比べて大きく離れたものではない。木を切って、組み上げて、形を彫って、表面に布や写真を貼り付けている。しかし普段の拠点から離れてこうも作品が変わるのかと自分では驚いた。滑川で感じた抜けの空間の充実感が、作品に現れていて欲しい。
上條信志 / 東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻在籍
ふと向かいの建物の部屋をじっと覗き見ることがある。開いたカーテンの奥へ視線を運ぶと、脱ぎ捨てられた服や飲みかけのグラスに気づく。ありふれる街の連なりと行き交う人々。そうした人と営みとが集積し生まれる景色と、そこに在る無数の物語。私にとって表現とは、それらを複層的な場面として選び取り、新たな持続を描くことにある。私たちのいる世界の、とめどない時間そのものを見つめなおしたいのだ。
《凪の間》
映像インスタレーション / 木、和紙、布、インクジェットプリント、アクリル、マルチプロジェクション(フル HD、カラー)
昨年の暮れ、祖父が亡くなったことをきっかけに、死や老いについて考える時間が増えた。
祖父母の家に残された数々の遺品の中で、特に気になったのは、屏風を作るための「木枠」と「和紙」だった。木枠は、さまざまな現実を見通すための小さな窓のように思えた。また、和紙には、色や質感の異なる紙を繋ぎ合わせて一枚の料紙に仕上げる「継ぎ紙」という技法がある。私はこれらのモチーフや技法を用いて、多面的かつ複層的なインスタレーションを展開した。その中に、眠りや他者の視線を象徴する映像を投影し、多様な死生観や物事との距離感を映し出している
NAMERIKAWA ARTIST IN RESIDENCE概要
本プロジェクトを主催する㈱アトムは、若手アーティストの育成を図るとともに、文化を通じた都市・地域活性を目指し、芸術を学ぶ全国の学生から作品を募集するA-TOM ART AWARDを開催しています。アワードの副賞として、TOYAMA賞とエプソンプロジェクションアワードを受賞した3名の若手作家が富山県滑川市の登録有形文化財・田中小学校旧本館にて滞在制作および成果展を行いました。当社の関連会社である富山のまちづくり会社・㈱TOYAMATOは、富山県滑川市と2023年5月9日に包括連携協定を締結いたしました。本企画により、地域の方々や企業、学生たち等との交流から地域活性化の一助となることを目指しています。
A-TOM ART AWARD Instagram @atomartaward
NAMERIKAWA ARTIST IN RESIDENCE | EXHIBITION
■スケジュール
◻︎滞在制作:2024年8月1日(木)~8月23日(金)
◻︎成果展:2024年8月24日(土)~9月1日(日)
■会場
田中小学校旧本館 富山県滑川市加島町230番地1
■アーティスト
⽯井佑宇⾺ @ishiiyuma_ / 金沢美術工芸大学
大学院美術工芸研究科 工芸専攻 染織コース
中澤瑞季 @nakazawa_mizuki / 彫刻家(受賞時 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程 彫刻研究領域)
上條信志 @shinjikamijo / 東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻在籍
主催:株式会社アトム
協力:株式会社TOYAMATO、エプソン販売株式会社、プラムバウム、株式会社松井機業、株式会社FP不動産センター
後援:滑川市
北陸に関するお問い合わせ
メールアドレス:info@toyamato.jp
電話番号:076-471-5030
Webサイト:https://toyamato.jp
富山にゆかりのある株式会社アトム 代表取締役 青井茂、富山を代表する北日本新聞社、富山出身のプロ野球選手・石川歩の異業種三者によって設立。私たちは富山と何かをつなぎ、富山と共に新しい事業を創造するチームです。 国内の各地域が東京の一極集中に歯止めをかけるため、それぞれの特徴を生かして持続的な社会を作ることを「地方創生」と定義するなら、TOYAMATOがめざす「地方覚醒」はまったく異なる概念を持つ。そこでは自治体や行政が主導するのではなく、富山を愛するマインドを持った多くの人たちが富山の魅力を再発見し、誇りに思い、みずからの意思で世界中へ発信していく。あくまでも主役は「人」であり、さまざまな人が混ざり合う多様性が、富山の魅力を高めていくと考える。