オープンファクトリーで北陸の工芸・ものづくりを体感する旅へ
近年、工芸・伝統工芸を求めて日本を訪れる海外からの旅行者が増えています。「JAPAN」と呼ばれる「漆器」をはじめ、陶器や磁器などの焼き物、織物や刺繍、木彫や指物(さしもの)など、日本全国でさまざまな伝統工芸品が作られていますが、北陸(福井・石川・富山県)は多種多様な伝統工芸の産地が集中しているエリアなので、一度にまとめて見て、体験して、購入することができます。2024年春の北陸新幹線の福井延伸でアクセスがますます便利になった北陸を周遊し、魅力的な工芸に出会う旅を楽しんでみませんか!?
伝統工芸の魅力に出会える北陸 -福井・石川・富山-
北陸(福井・石川・富山県)は伝統工芸の集積地で、さまざまな技が受け継がれています。国指定の「伝統工芸品」だけで、福井県は7品目、石川県は10品目、富山県は6品目があり、それ以外にも県指定や希少伝統工芸に指定されている工芸品も数多くあります。
<主な伝統工芸品>
福井県(国指定7品目):越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前焼、越前箪笥、若狭塗、若狭めのう細工
石川県(国指定10品目):九谷焼、加賀友禅、輪島塗、山中漆器、金沢仏壇、金沢箔、七尾仏壇、金沢漆器、牛首紬、加賀繍
富山県(国指定6品目):高岡銅器、井波彫刻、高岡漆器、庄川挽物木地、越中和紙、越中福岡の菅笠
工芸は日本人の日常の暮らしの中に、当たり前のように存在するものでした。しかし、近年では生活様式や生活空間の変化、大量生産品の普及、海外からの輸入品の増加などによって、手間暇のかかる手作りの伝統的工芸品は希少で高価なものになり、産地の存続や後継者不足が課題になっているものもあります。
一方で、日本の伝統工芸は海外からの注目が高まっており、日本らしさ、日本の美意識と歴史が詰まった逸品を買い求める人、それらが作られている産地に興味を持って訪れる旅行者が急増しています。
【福井県】包丁・刃物づくりが見学・体験できる「タケフナイフビレッジ」
「来場者のほとんどが海外からという日もあり、日本人のお客さんよりも熱心に質問され、勉強して来られている海外の方が多い印象です」と話すのは、福井県越前市にある「タケフナイフビレッジ」で「研ぎ師」として刃物づくりの職人をしている戸谷 祐次(とたに ゆうじ)さん。
欧米・アジアなど世界各国からの旅行者が、ここで工場見学や包丁づくり体験、ショッピングなどを楽しんでいるそう。来場者にどこから来たのか印をつけてもらっている世界地図は、毎年たくさんの印で埋め尽くされています。
「タケフナイフビレッジ」は、1993年に越前打刃物の工房10社によって創設された、700年以上の歴史を誇る「越前打刃物(えちぜんうちはもの)」の製造・販売を行う施設で、協同組合の拠点になっています。
一般的に伝統工芸の製造現場は非公開で、なかなか見ることはできませんが、「タケフナイフビレッジ」は鍛冶や研ぎ職人の作業風景をいつでも見学できる全国でも珍しいオープンファクトリーの産業観光施設です。越前打刃物の歴史紹介パネルや道具が展示され、見学用のスロープからは刃物会社が自社製品の製造を行う様子を一望できます。
真っ赤に熱された鋼を叩く様子や刃物を研磨する職人の姿などを、ガラスなどの隔てるものがない状態で見ることができ、空間には刃物づくりのリアルな音が響いています。
展示と共同工房の見学は無料で、営業時間中は常時開放されています。ただし、日曜と祝祭日は職人がお休みのため、見学する場合は平日がおすすめです。
2020年にオープンした新館のショップでは、協同組合に所属する14社の製品と、共同で制作したTakefu Knife Villageブランドの製品が販売されています。さまざまなナイフや包丁、鎌、キッチンツールなどが揃い、包丁だけでも種類が豊富で驚きます。
越前打刃物の始まりは、京都の刀匠である千代鶴 国安(ちよづる くにやす)が刀剣製作に適した土地を求め、1337年に府中(現在の越前市)を訪れ、近隣の農民のために鎌を作り、刀鍛冶の技術を伝えたことに由来します。
刀鍛冶の流れを組む越前打刃物の包丁は、日本刀のような美しさと切れ味が特徴。薄く美しい刃をもち、その切れ味のよさから国内外の料理人から高く評価され、人気があります。作り手によって刃文やフォルムに個性があり、用途によって形状も異なります。
それらを一堂に見て、触って、選ぶことができるのが「タケフナイフビレッジ」の魅力です。たくさん並んだ包丁を目にすると、どれを選んでいいか迷うかもしれませんが、英語を話せるスタッフもいるので、ぜひ相談して自分にぴったりの逸品を見つけてください。
多くの工房・職人が集う共同工房「タケフナイフビレッジ」ならではの魅力ともいえるのが、現役職人が直接指導してくれる体験教室。包丁づくりの教室は3種類あり、1週間前までの事前予約で体験できます。
「小出刃研ぎ」「両刃研ぎ」の2つのコースは、すでに包丁の形になったベースの素材を砥石で研いで刃を付け、持ち手の柄を取り付けて完成させるもので、所要時間は1〜2時間、体験料は5,000〜6,000円です。仕上げた包丁はその日のうちに持ち帰ることができ、メンテナンスの方法も教えてくれます。
さらに本格的な包丁づくりが体験できる「両刃包丁教室」は、特に海外からの旅行者に人気です。材料を熱してハンマーで鍛造するところから、焼入れ・研ぎ・名入れ・柄付けまで、ほぼ全ての工程が体験できます。所要時間は6時間で、体験料は20,000円。自分が作った唯一無二の包丁が完成するので、1日かけて挑戦する価値がありますね! もちろん、その日のうちに持ち帰ることができます。
「タケフナイフビレッジ」がある越前市や隣の鯖江市、越前町は、1500年の歴史がある越前和紙や越前漆器、越前焼きなど多彩な伝統工芸品が作られている一大産地です。1泊2日、2泊3日と時間をかけて、じっくり訪れるのもおすすめです。
2024年3月の北陸新幹線「越前たけふ駅」の開業で、東京方面からの新幹線でのアクセスが便利になりました。車の場合は北陸自動車道の「武生IC」「鯖江IC」が最寄りになります。現地で工芸の工場・工房・ショップなどをいろいろ訪ねる場合は、点在しているのでタクシーやレンタカーを利用するとよいでしょう。
包丁づくり教室・工場見学・ショッピング・メンテナンス
https://www.takefu-knifevillage.jp/service
タケフナイフビレッジ - Takefu Knife Village-
[所] 福井県越前市余川町22-91
TEL 0778-27-7120
[営]9:00~17:00
[休]無休(年末年始は除く)
[料]入場無料、製作体験は別途料金
https://www.takefu-knifevillage.jp
[アクセス]
北陸新幹線 越前たけふ駅から車で約10分、ハピラインふくい 武生駅から車で約15分
北陸自動車道 武生ICから車で約10分
【富山県】「能作」のファクトリーツアーで鋳物のまち高岡を体感
富山県高岡市にある「能作(のうさく)」は、錫の特性を活かしたテーブルウェアやインテリア用品で人気を集める鋳物メーカーです。高岡は江戸時代から400年以上続く鋳物の産地で、多くの銅器メーカーや鋳物の工房があります。
「能作」は1916年に仏具を製造する鋳物メーカーとして創業し、その後は茶道具や花器、酒器などを作ってきました。近年は、金・銀についで高価な金属である錫(すず)を使ったオリジナルの器やインテリアが反響を呼び、富山・高岡を代表する鋳物メーカーとして国内外から注目されています。
2017年に移転した新社屋には、オフィスと工場だけでなく、ショップ、カフェレストラン、鋳物製作体験の工房などを併設し、ガイド付きのファクトリーツアー(工場見学)を毎日5回行うなど、産業観光をテーマにした県下屈指の観光スポットになっています。
真鍮製のタイルが印象的なエントランスから館内に入ると、カラフルなオブジェのようなものが壁面にずらりと並んいます。これらは「能作」の鋳物づくりに欠かせない木型で、飾りとしてディスプレイされているのではなく、巨大なガラス張りの空間は「見せる倉庫」として約2,500個の木型が収められています。所々に抜けている箇所があるのは、今まさに職人が工場で使用している木型が収まっていたスペースです。
館内に入って左手にショップ、カフェレストランと体験工房があります。ショップには花器、酒器、タンブラー、箸置き、風鈴など、さまざまな製品が並んでいます。カフェレストランでは、自社の錫製の器を用いて食事やスイーツなどを提供しているので、実際の使い勝手を体験することができます。熱伝導性に優れているため冷たい飲み物を入れたり、冷蔵庫で数分冷やすだけで、あっという間に冷たくなる錫製のタンブラーも、ぜひ館内のウォーターサーバーでお水を飲んで体感してみてください。
錫は手で形が変えられるほど柔らかい「柔軟性」と「飲み物の雑味を取りまろやかにするとされる」「熱伝導性に優れている」「抗菌作用がある」などの特長があります。平面から立体的なバスケットに変形させる「KAGO」シリーズや、ザラザラとした鋳肌がビールの泡立ちをよくするタンブラーは、錫の特性を最大限に活かした製品といえます。
伝統の技と柔軟な発想から生まれた「能作」の製品は、デザイン性と機能性に優れています。実際に使ってみると、多くの人を惹きつけている理由がわかるでしょう。
こうした品々がどのように製造されているのか、間近に見ることができるファクトリーツアー(工場見学)や鋳物製作体験は「能作」訪問の醍醐味です。ガイドスタッフの案内で鋳物づくりの現場を見学すると、においや温度、空気感を肌で感じることができ、伝統を受け継ぐ職人たちの熱まで伝わってくるようです。
鋳物製作体験では、生型鋳造法(なまがたちゅうぞうほう)という砂を押し固めて鋳型を造型する方法で、ぐい呑みなどの錫製品を製作できます。中学生以上を対象とする90分コースは、日本酒を飲むぐい呑み(小さなカップ)、小鉢、小皿、箸置きなどが3,000〜4,000円(税抜)で作れます。小学生以上が体験できる比較的簡単な30分コースは、かわいらしい箸置きが作れます。
作品には数字やアルファベットの刻印を入れることもでき、体験したその日に持ち帰ることができます。ファクトリーツアー(工場見学)と鋳物製作体験は事前予約制で、公式WEBサイトや電話・メールで予約ができ、予約の際に英語でのガイド対応をリクエストすることができます。
ファクトリーツアー(工場見学) https://www.nousaku.co.jp/factory/tour
鋳物製作体験 https://www.nousaku.co.jp/factory/imono
能作 -NOUSAKU-
[所]富山県高岡市オフィスパーク8-1
TEL 0766-63-0001 (9:00~17:00)
[営]10:00〜18:00(カフェは17:30LO)
[休]年末年始(工場見学は日曜・祝日は休業、土曜は不定休)
[料]入場無料、工場見学無料、鋳物製作体験は別途料金
[アクセス]
北陸新幹線 新高岡駅から車で約15分、あいの風とやま鉄道 高岡駅から車で約20分
北陸自動車道 高岡砺波スマートICから車で約3分、高岡ICから車で約20分
【EVENT】年に1度の工房大公開!オープンファクトリーイベントへ行こう
伝統工芸やものづくりの現場が一度にまとめて見学でき、製作体験などもできるプログラムが充実したオープンファクトリーイベントが2024年10月31日(金)から11月3日(日)にかけて、北陸エリアで集中して開催されます。普段は見ることができない工房や工場を、ぜひこの機会に訪れてみませんか。
【福井県】RENEW / 2024
[会期]2024年11月1日(金)〜11月3日(日)
[会場]福井県鯖江市・越前市・越前町全域
[河和田案内所] うるしの里会館 (福井県鯖江市西袋町40-1-2)
北陸新幹線 JR越前たけふ駅から車で約20分
ハピラインふくい 鯖江駅から車で約20分
北陸自動車道 鯖江ICから車で約15分
[今立案内所] 岡本郵便局前元畳縁工場 (福井県越前市新在家町11ー21ー1)
北陸新幹線 JR越前たけふ駅から車で約10分
ハピラインふくい 武生駅・鯖江駅から車で約20分
北陸自動車道 武生ICから車で約15分
[アクセス] https://renew-fukui.com/access
各会場までのアクセスは会場MAPを参照 https://www.google.com/maps
「RENEW」は、福井県を代表する、年に一度だけ開催される「見て、知って、体験する」ものづくりの体感型イベント。産地の工房・企業が一斉開放される日本国内で最大級のオープンファクトリーイベントで、普段は体感できない作り手の技やものづくりへの想いに触れることができます。
開催地の福井県の越前鯖江エリア(鯖江市・越前市・越前町全域)は、越前漆器・越前和紙・越前打刃物・越前箪笥・越前焼などの伝統的工芸品や、眼鏡・繊維といった地場産業が半径10km圏内に集積する、ものづくりの一大集産地です。
イベントの中心は工房見学とワークショップ。開催10年目の今年は、過去最高の約80社の企業と工房が一斉開放されます。
例えば、越前和紙と一言でいっても、工房や職人ごとに個性や得意とする技があるので、隣接する工房でもまったく違った作品に出会えます。文字や絵を描くための紙だけでなく、壁紙や照明などのインテリアに人気があるレースのように漉き上げた和紙もあれば、立体的な文様を浮き出させた和紙、引っ張っても破れない強靭な和紙、世界の美術館から古い絵画などの修復用に指名で注文が入る伝統製法を極めた和紙など、何軒訪ねても、何度訪ねても飽きることがありません。
期間中は工房やショップを自由に出入りすることができ、職人と直にコミュニケーションを取れるのも魅力です。産地を熟知したツアーガイドと一緒に、ものづくりの産地を専用車で巡るOFFICIAL TOURも予約制で開催されるので、現地の地理に不案内な人には大変おすすめです。
体験ワークショップも多数開催され、漆塗り、紙漉き、メガネづくりなど、手を動かすものづくりを堪能できます。最近では工房が直売するファクトリーショップが35店舗もオープンしているので、お買い物の楽しみもパワーアップしています。トークイベント、食と伝統工芸を楽しむレストラン、フードトラック、ローカルフードの販売なども楽しめるので、たっぷりと時間をとって、産地をめぐって楽しみたいイベントです。
GEMBA モノヅクリエキスポ
[会期]2024年10月31日(木)〜11月3日(日)
[会場]石川県小松市
[総合案内所]
九谷セラミック・ラボラトリー(石川県小松市若杉町ア91)
IRON WORKS KORU(石川県小松市白江町リ83-4)
[問合せ] こまつものづくり未来塾実行委員会 事務局
(石川県小松市園町96 EATLAB内)
TEL 050-1809-0007
[アクセス]
北陸新幹線 JR小松駅、IRいしかわ鉄道 小松駅、小松空港
各会場までのアクセスは会場MAPを参照 https://gemba-project.jp/expo/#access
「GEMBA モノヅクリエキスポ」は、石川県小松市で2011年から始まった、ものが生まれる原点である場所「原場(げんば)」をひらく、オープンファクトリーイベントです。2024年は、4日間のイベント期間中に40の工場・工房で、52の体験・見学プログラムが実施されます。
小松市は約2300年前の弥生時代に行われていた碧玉(へきぎょく)の玉づくりをルーツに、石材、九谷焼、繊維、機械、建材、鉄工など、さまざまなものづくりの裾野が広がっています。「GEMBA モノヅクリエキスポ」は、普段なかなか入ることができない工場や工房が開放され、気軽に体験・見学プログラムが楽しめる年に1度の機会です。
石川県を代表する伝統工芸の「九谷焼」の工房見学や絵付け、陶芸体験をはじめ、釘を使わずに作り上げる建具「指物(さしもの)」、漆器のベースとなる「挽物木地(ひきものきじ)」をつくる生地師の工房など、伝統工芸に関わる現場の見学・製作ワークショップが多数企画されています。
また、小松の産業の歴史を語る上で欠かせない世界的建設機械メーカーの「コマツ」や、世界のトップメゾンからオファーが来る織物工場、日本酒の酒蔵や食品メーカーなど、日本を代表する伝統工芸から、世界シェアを誇る巨大メーカーまで、多岐に渡るプログラムが展開されます。
プログラムは予約が必要なもの、不要なものがあり、参加費も有料なもの、無料なものがあります。各プログラムの詳細や場所などは公式サイトをご覧ください。
北陸エリア全体を盛り上げる取り組みを行なっています