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「瀬戸内国際芸術祭2025」で注目の新作アートを紹介します。この日本最大級の現代アートのイベントは、2025年の4月~11月にかけて開催され、過去最大の256作品が展示されます。これから瀬戸芸に行く人は、ぜひ本記事を参考にしてください。
香川県と岡山県で、2025年4~11月にかけて「瀬戸内国際芸術祭2025」が開催されます。
第6回目となる今回は、コロナ明け初の開催ということもあり、過去最多となる256点のアート作品を展示。
本記事では、そのうち、特に注目の10作品を紹介します。行きたい島・エリアを検討する際の参考にしてくださいね!
高松港プロジェクト(「そらあみ」は五十嵐靖晃氏の作品)
瀬戸内の島々への玄関口となる高松港。その周辺には2025年、さまざまなアートが展開されます。
中でも注目は「そらあみ」。瀬戸内の島の人々とアーティストが共に漁網を編むことを通して、人や海・島の記憶をつなぎ、土地の風景をとらえ直すアート作品です。
「そらあみ」は2013・2016・2019の瀬戸内国際芸術祭でも制作されましたが、2025年は、豊島、女木島、男木島、小豆島、東かがわ市・さぬき市の人々が網を編みます。
5色の網の色は、瀬戸内海のさまざまな色をイメージしているのだとか。
なお、高松港では、夏会期にベトナムをテーマにしたマルシェなども開催されます。
ワン・ウェンチ―(王文志) 抱擁・小豆島
瀬戸内国際芸術祭において、最も作品数が多い小豆島。中でも特に人気なのが、台湾の作家・ワン・ウェンチ―(王文志)による竹のオブジェです。
ワン・ウェンチ―は、絶景として有名な「中山千枚田」の近くに、2010年から継続的に竹の作品を創ってきました。2025年は、島の人たちの協力の下、4000~5000本の竹を使って「抱擁・小豆島」を展示します。
「抱擁・小豆島」は、人の頭のようにも、地球にも見える竹の球体のオブジェ。その中には、小豆島をかたどったくぼみがあります。ここには、腰をかけてくつろぐことが可能。
「温度感のある、人と人のつながりをつくりたい」と、隣の人に話しかけやすい空間を作ったということです。
球体の中にいると、風や、鳥の鳴き声が感じられます。地球とのつながりが感じられる、聖域のような場所です。
ナウィン・ラワンチャイクン+ナウィン・プロダクション ≪瀬戸内アジアギャラリー≫西浦の塔(OKタワー)
もうひとつ、小豆島でおすすめしたいのが、「瀬戸内アジアギャラリー」。ここはもともと「福武ハウス」と呼ばれていましたが、2025年、リニューアルしました。
2025年は、ここに6人のアジアの現代アーティストの作品が展示されます。難民問題、生態系の破壊、失われていく古い文化・・・。アジア各国が直面する問題を、鋭い感性で見つめた作品がそろいます。
筆者が特に印象に残ったのは、写真の「OKタワー」。昭和の映画ポスター風の巨大な絵画に目を奪われますが、実はこれ、過疎に悩む瀬戸内海の島の人々への綿密なヒアリングをもとに作成したもの。
タイでは、「OK」とは「それでよい」「満足」といった意味でも使われますが、「本当に今の状態はOKといえるの?」という問い掛けをユーモラスな絵の下に隠しています。
なお、「瀬戸内アジアギャラリー」では瀬戸内国際芸術祭の期間中、地域の食材を使ったアジア食堂や、コミュニティカフェもオープンする予定です。
Picture courtesy of PR Times ⒸTadao Ando Architect & Associates
「地中美術館」「李禹煥(リ・ウーファン)美術館」など、多くのアートスポットが集まり「現代アートの聖地」と呼ばれる直島。
この直島に5月31日、オープンするのが「直島新美術館」。著名な建築家・安藤忠雄氏が設計した地下2F、地上1F建ての建物です。
天窓から自然光が入ってくる階段室が地上から地下まで続き、階段の両側には4つのギャラリーが配置されます。空間そのものがアートのような美術館です。
展示されるのは、⽇本、中国、韓国、インドネシア、タイ、インド、フィリピンなどアジア地域出⾝の12名/組のアーティストの作品。ワークショップなども開催される予定です。
事前にオンラインでチケットを購入可能です。
直島新美術館の詳細・予約:https://benesse-artsite.jp/general-information.html
※直島新美術館は、瀬戸内国際芸術祭のパスポートの対象外となるのでご注意ください。
塩田千春「線の記憶」
直島と並び、現代アートのホットスポットとして世界に知られる豊島(てしま)。
瀬戸内国際芸術祭の期間外でもたくさんのアートが楽しめるこの島ですが、2025年にぜひ注目してほしいのは、塩田千春氏の「線の記憶」です。
今、日本で最も注目されるアーティストのひとりとも言える塩田千春氏ですが、実は2010年の瀬戸内国際芸術祭において豊島で作品制作を行うなど、瀬戸内と深いつながりがあります。
今回の「線の記憶」は、豊島の人々から、「もう要らないけれど、捨てられない大切なもの」として提供された素麺の製麺機を赤い糸で編み込んだアート作品。
便利さを追求する社会の中で、取り残された道具が、アーティストの手によってその命を再び燃え上がらせている。そんな鮮烈な印象と、切なさを感じる作品です。
※画像はイメージです。 ヤコブ・ダルグレン「色彩の解釈と構造」 Photo: A-Foundation-
高松港から船で20分と近い距離にあり、高松市民の夏の憩い場として知られる女木島。「女木島名店街」「女木島名画座」など、これまでも人気のアート作品が多く生み出されてきました。
そんな女木島で今回注目されるのは、スウェーデンの作家、ヤコブ・ダルグレンが制作する「色彩の解釈と構造」。
これは使われなくなった本やタイル、木箱など四角い形をしたモノを集め、色付けをして、小さな町をつくるプロジェクト。
キャンバスとなるのは、女木島の小学校のプール。プールの上からも、下に降りても町を見ることができ、さまざまな視点から作品を楽しめます。
昭和40年会「男木島未来プロジェクト2125 男木島 麦と未来の資料館」(春会期展示イメージ図(作画=パルコキノシタ))
高松港から船で約40分で行ける男木島。人口は130人程度ですが、近年の移住者数はのべ100人にのぼるなど、瀬戸内でも人気の島です。
そんな男木島の2025年の注目は、「昭和40年会」による「男木島未来プロジェクト2125 男木島 麦と未来の資料館」。
「昭和40年会」は、著名な現代アーティスト・会田誠など6人から成るアーティスト集団。彼らは今回、「100年後の未来から振り返る」というユニークなコンセプトのもと、アートとストーリーの力で島の未来を描き出します。
人口減少・過疎化が続く瀬戸内において、アーティストたちがどのような未来を構想するのか。ぜひ見てみてください。
中﨑透「≪瀬居島プロジェクト「SAY YES」≫Say-yo, chains, what do you bind or release?」
2025年に初めて瀬戸内国際芸術祭の会場となる坂出市の瀬居島(せいじま)。「島」とありますが、1960年代後半に工業団地開発で埋め立てられ、今は陸続きになっています。
そんな瀬居島では、16人の作家が、廃校となった幼稚園や小学校、中学校を舞台にアート作品を展示する「瀬居島プロジェクト「SAY YES」」を展開します。
筆者が特に印象的だったのは、旧瀬居島幼稚園に展示されている中﨑透氏の「Say-yo, chains, what do you bind or release?」。
この地域に住んでいた人たちから聞き取ったストーリーを、インスタレーションと、文章が書かれた40枚ほどのプレートで伝えています。
多くの人が就職して地域外へ出てしまう。そんな現実とともに、地域の人々の幼稚園のときの楽しかった思い出などが描いており、見ていて、筆者は胸を締め付けられました。
西島雄志「≪屋島アートどうぶつ園 ─ 海と森のむこうがわ≫ 臨‐Rin‐」
屋島は、高松近郊にある人気の観光地。テーマパーク「四国村」、絶景「獅子の霊巌」など、多くの見どころがあります。
屋島には2022年、山上交流拠点施設「やしまーる」がオープンしました。ガラス張りの回廊が広場を取り巻く、アーティスティックな建築が特徴です。
瀬戸内国際芸術祭2025では、ここに「屋島アートどうぶつ園 ー海と森のむこうがわ」が展示されます。
これは、海の生き物と陸の生き物の対比をテーマにした9人の作家による立体作品。屋島に多く生息するイノシシや、屋島のゆかりの生き物・タヌキなど、かわいらしいオブジェが多く、ほっこりしますよ。
SILT「命の塩」
岡山県から瀬戸内の島々に行く際の玄関口となる、玉野市の宇野港。ここはかつて、塩の産地として栄えました。
こうした歴史を踏まえて制作されたのが、サンドアーティスト集団・SILTの「命の塩」です。
玉野市で作られる塩を使い、日本の神話をモチーフとする絵を展示。また、会場内にはピアニストの橋本秀幸・石田ユキが作曲した音楽が流れ、静かににアートに向き合う空間となっています。
人間が生きる上で、塩は欠かすことができません。今の時代に、そうしたものは忘れられがちですが、本作品は、宇野の地域性を通して、鑑賞者を命の源に向き合わせます。
宇野港の周辺にはこのほか、瀬戸内国際芸術祭のシンボル的な作品「宇野のチヌ」をはじめ、たくさんの作品があります。
このほか、夏会期や秋会期にも新作が作られる予定です。
また、瀬戸内国際芸術祭2025では、夏会期は志度・津田エリア、秋会期は宇多津などが初めて会場となりますが、こちらも地域産業と連携したアートなどが制作される予定です。
2025年はぜひ、瀬戸内へ旅行プランを立ててみてくださいね!
なお、瀬戸内国際芸術祭の会期や会場については、以下の記事をごらんください。
企業のIR/CSR分野のPR、国際協力分野の情報誌編集を経て、2017年10月にMATCHAに参加しました。2019年4月から香川県三豊市に移住。訪日観光客向けの記事を書くほか、地域おこしにも携わっています。
インターネットサービスやレンタカー、ホテルなどのほか、また西日本の観光スポットの記事を主に担当しています。