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日本固有のブドウ品種「甲州」「マスカット・ベーリーA」「山幸」の3種類の魅力を紐解きながら、日本ワインの特性やペアリングの楽しみ方を考えるイベントを開催しました。海外のワイン愛好家の目線での日本ワインの新たな可能性についてご紹介します。
山梨県は、日本ワインの中心地として知られ、特にワインツーリズムに力を入れています。県内には多くのワイナリーが点在し、ワインの試飲や醸造体験ができるツアーが豊富に用意されています。その中でも、日本固有のブドウ品種である「甲州」は、800年以上の歴史を持つ伝統的な品種であり、日本ワインの特徴を世界に発信する重要な役割を担っています。
甲州は山梨県で発見された品種で、果皮は赤紫色で、甘みと酸味のバランスがよく、わずかに渋みを感じることもあります。起源には2つの説があり、1186年に勝沼で発見された説 と、奈良時代に僧侶が見つけた説 がありますが、いずれにせよ古くから日本に存在していたことは確かです。ワイン造りが始まったのは明治時代からで、現在も甲州ワインは山梨県を代表する特産品 です。2010年には、国際機関OIVに日本初の品種として登録され、EUへの輸出時に「甲州」と表記できるようになりました。
現在、OIVに登録承認されている日本のブドウ品種は、「甲州」と合わせて「マスカット・ベーリーA」、「山幸」の3種類があります。
日本生まれの多様な品種を活かした日本ワインの魅力を広めるため、2025年2月5日、日米の甲州ワイン生産者がその魅力を語り、生産者と共に味わうテイスティングイベントが開催されました。
本イベントは、日本固有のブドウ品種のワインの価値を広めることを目的とし、国内外のワイン愛好家や業界関係者が集まりました。日本ワインの海外展開のヒントを得る機会としても注目され、特に外国人視点からの評価が興味深い内容となりました。
当日のイベントでは、テイスティングの前に「甲州」を使ったワインづくりに取り組む日米のワイナリー3社よりそれぞれ製造されているワインの説明がありました。
米国ナパバレーで甲州のワインづくりに取り組むKazumi Winesのミッシェル・和美・坂崎さんは、アメリカのカリフォルニア生まれ、東京育ちのファッションデザイナーで、イタリアでの生活を通じてワインの魅力に目覚めました。ナパ・ヴァレーで家族が立ち上げた90 PLUS WINE CLUBの運営に携わる中で、ワインの奥深さに惹かれ、自身のワインを造る夢を抱きます。WSET(ワイン&スピリッツ・エデュケーション・トラスト)の資格を取得し、2015年にはラザフォードの最高級ソーヴィニヨン・ブランを使用した「Kazumi Wines」を立ち上げ、日本ワインの可能性を広げています。
山梨県勝沼にある白百合醸造の4代目内田圭哉さんは、東京農業大学醸造学科を卒業後、フランス・ブルゴーニュで醸造を学び、フランス国家資格を取得しました。2021年に正式入社し、「勝沼甲州2019」でデキャンタワールドワインアワード97ポイント・プラチナ賞を受賞。さらに、G7広島サミットで「甲州 Vigne de Nakagawa2021」が採用されるなど、日本ワインの可能性を世界に示し続けています。
ピノ・コッリーナのジェネラルマネージャー川島さんは、ワインバイヤーとして世界を巡った後、2008年に山形県鶴岡市へ移住し、ワイン醸造を開始しました。山形大学と土壌調査を行い、慶応大学と連携してブドウのポテンシャルを研究。2020年にワイナリー「ピノ・コッリーナ松ヶ岡」を設立し、ナチュール製法で鶴岡甲州を含むワインを醸造しています。G7広島サミットでは「鶴岡甲州2021」「メルロー2021」が公式採用されるなど、高評価を得ています。
ワイナリーに併設されているレストランでワインを楽しんだり、気候の良い時期にはピクニックも楽しめます!
今回のイベントには海外からの視点を有するツーリズムアドバイザー、フードキュレーターであるChris夫妻にご参加いただき、日本ワインの魅力と訴求すべきポイントについてフィードバックをいただきました。
フランス、イタリア、オーストラリアなどの競争力の高いワインと比べると、日本ワインは控えめな印象を持たれがちです。しかし、日本には固有のブドウ品種があり、それを知ることは非常に興味深い体験だったそうです。日本のワインは単なる欧州ワインの模倣ではなく、地域特有のブドウ品種が栽培され、さらに持続可能性というテーマにも力を入れている点は誇るべきことです。そんな日本のワインの魅力を海外のワイン愛好家まで届けるには、各ワイナリーの文化や産地の風土についての情報を伝えることが重要だと考えられます。
繊細な日本ワインの魅力を広めるには、和食とのペアリングが欠かせません。イベントの当日も白百合醸造がてがける素敵なフィンガーフードが並びました。
今回のイベントでいうと、例えば、山形・鶴岡産の「No.3 甲州」は昆布〆の真鯛と絶妙に調和し、寿司や牡蠣、カマンベールチーズとも好相性。ナパ・バレー産の「Kazumi Wines 甲州」も、日本の柑橘やフュージョン料理とよく合います。また、岩の原葡萄園のワインは繊細な風味が特徴で、日本料理との組み合わせがワインのストーリーを引き立てます。
また、海外市場での認知度向上には、和食コースや寿司コース、イベントでのフィンガーフードとのペアリング体験を通じ、日本ワインの持つ独特のテロワールと和食の調和を発信していくことが重要というアドバイスをいただきました。特に、海外市場で大人気の寿司とのペアリングはターゲット層も鑑みて相性の良い訴求軸になると思われます。
日本ワインの背景を学んだうえでその味を楽しむには、やはりワイナリーツアーが最適な方法です。
山梨県勝沼の白百合醸造では、日本ワインの魅力を体感できる多彩なワイナリーツアーを提供しています。自社のぶどう畑や醸造所の見学に加え、オリジナルラベル作りや生ワインのボトル詰め体験など、特別なアクティビティが用意されています。
また、ジンの蒸留体験も行っており、自分だけのオリジナルジンを作ることができます。四季折々の風景が楽しめる勝沼の地で、白百合醸造のワイナリーツアーを通じて、日本ワインの奥深さをぜひ味わってみてください。
日本固有のワイン用ブドウ品種は、日本のテロワールに寄り添い、年月を重ね育まれてきた、日本ワインにとっての宝です。また、日本独自のワイン文化を世界の人々へ伝えていく原動力になるもの、と私達は考えます。 私達は、日本固有品種の可能性に賭ける研究者やブドウ生産者、ワインメーカー、そして日本ワインをこよなく愛すファンの皆様と手を携え、OIV登録品種を中心に、日本固有品種のワインの魅力を、まずは日本全国へ、そして世界に向けて発信していきたいと考えています。さあ、ご一緒に。日本固有品種ワインで乾杯しましょう!