旅の準備はじめよう

日本には、世界がまだ気づいていない、豊かな物語を持つ〈デザイン〉があります。 第一線で活躍するクリエーターたちが2024年度にリサーチし、 全国各地で新たにみつけた8つの〈デザインの宝物〉をご紹介します。
縄文時代より1万年以上ものあいだ、独自の生活文化を育んできた日本。そこには、世界がまだ気づいていない、豊かな物語を持つ〈デザイン〉があります。
私たちは第一線で活躍するクリエーターたちとともに各地の生活文化のリサーチを行ってきました。プロダクトデザイナー・柳宗理のデザインのプロセス、新潟・佐渡の船大工が暮らした町並み、世界最先端の富山のスポーツウエア、秋田の西馬音内盆踊り衣装の魅力、滋賀の石積職人「穴太衆」の技術、島根の瓦が生み出す町の雰囲気。
「これもデザインと呼ぶの?」と疑問を持つものがあるかもしれません。そう、どれも、日本の普通の生活の中にあるものばかりです。しかし、クリエーターたちにとっては、触発され、わくわくした 気持ちになって次のおもしろい物を組み立てる原動力になるもの、〈デザインの宝物〉と呼びたくなるものです。
わたしたちはそんな〈デザインの宝物〉を、その背後にある物語とあわせて番組や展覧会で紹介します。
日本中の〈デザインの宝物〉をつないでいけば、日本全体がひとつの大きな〈デザインミュージアム〉だととらえられるのではないか。日本中の多くの人に、〈デザイン〉は、実はわたしたちのまわりにあふれていて、日々の暮らしに豊かさや活力を与えていることに気づいていただきたい。
さあ、クリエーターたちと一緒に〈デザインの宝探しの旅〉にでかけましょう。
NHKの番組「デザインミュージアムをデザインする」(Eテレ)では、2020年1月から第一線で活躍するクリエーターたちに「日本にまだないデザインのミュージアムをあなたが作るなら、どんなものを作りますか?」と問いかけてきました。
その答えの中から、「日本各地に点在する、素晴らしい〈デザインの宝物〉を所蔵する館や組織をネットワークし、その集合体を〈デザインミュージアム〉と呼ぶ」というアイデアが浮かび上がって きました。日本全体が〈デザインミュージアム〉になるといい、という提案です。
そして、2021年からは「デザインミュージアムジャパン」という特集番組で、これまでに27の地域で、クリエーターたちと共に〈デザインの宝物〉を探してきました。
「DESIGN MUSEUM JAPAN展」は、NHKで放送してきた「デザインミュージアムジャパン」と歩調を合わせ、展示を通じて地域の魅力を発信し、日本全体にひとつの〈デザインミュージアム〉を浮かび上がらせようとする取り組みです。
日本中の多くの人に、〈デザイン〉は、実はわたしたちのまわりにあふれていて、日々の暮らしに 豊かさや活力を与えていることに気づいていただくこと。そして、今はまだ存在しない日本の 〈デザインミュージアム〉の姿についての、ひとつの提案になればと願っています。
展覧会名 : 「DESIGN MUSEUM JAPAN展2025~集めてつなごう 日本のデザイン~」
会期 : 2025年5月15日(木)~25日(日) ※20日(火)休館
会場 : 国立新美術館 3階 展示室3B (〒106-8558東京都港区六本木7-22-2)
開館時間 : 10:00~18:00 (金曜日は20:00まで) ※入場は閉館の30分前まで 5月15日(木)は15:00開場
観覧料 : 無料
主催 : NHKプロモーション、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
共催 : NHKエデュケーショナル
協力 : 一般社団法人Design-DESIGN MUSEUM
問い合わせ : ハローダイヤル 050-5541-8600
菊地 敦己 (グラフィックデザイナー)
「ほうろうの生活用品」 〈デザイナーなし〉の温かいデザイン (栃木/栃木県)
宮永 愛子 (現代美術作家)
「ヒラギノフォント」 明朝体と京都の新しく古い関係 (京都/京都府)
塚本 由晴 (建築家)
「氷室」 かき氷を生んだランドスケープ (天理/奈良県)
五十嵐 久枝 (インテリアデザイナー)
「魔法瓶」 ガラス職人たちの情熱が生んだ〈特産品〉 (大阪/大阪府)
菱川 勢一 (映像工芸作家)
「大漁旗」 漁師たちを鼓舞する魂のデザイン (米子/鳥取県)
深澤 直人 (プロダクトデザイナー)
「石州瓦」 瓦が生み出す町の〈雰囲気〉 (大田/島根県)
宮前 義之 (デザイナー)
「街路市」 市 300年続くコミュニケーションのデザイン (高知/高知県)
佐藤 卓 (グラフィックデザイナー)
「スナック」 〈間〉をつなぐ本能のデザイン (宮崎/宮崎県
1974年 東京生まれ グラフィックデザイナー
美術や工芸、建築、ファッションなどの分野を中心に、VI計画、サイン計画、エディトリアルデザインなどを手掛ける。主な仕事に、VI・サイン計画(青森県立美術館(2006)、PLAY! MUSEUM(2020)、横浜美術館(2024)など)、ファッションブランドのアートディレクション(ミナ ペルホネン(1995–2004)、サリー・スコット(2002–2021)など)ほか。展覧会も数多く開き、平面表現に言及した作品を発表している。
ほうろうの生活用品 ―〈デザイナーなし〉の温かいデザイン (栃木県)
古くは工芸品や装身具に使われていたほうろう。鍋や容器といった生活の実用品として用いられ始めたのは、明治時代とされています。菊地さんはほうろうを「使う人のニーズと作る工程がすごく近い。だから無理がない」といいます。時代ごとの日々の暮らしの中で“ほしい”と思うものを形にしてきた製造現場に足を運びました。
1974年 京都生まれ 現代美術作家
日用品をナフタリンでかたどったオブジェや、塩、陶器の貫入音や葉脈を使ったインスタレーションなど、気配の痕跡を用いて時間を視覚化し、「変わりながらも存在し続ける世界」を表現した作品で注目を集める。主な近年の展覧会に、個展「宮永愛子 詩を包む」(富山市ガラス美術館、2023)、個展「宮永愛子–海をよむ」(ZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUM、京都、2023)、グループ展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」(森美術館、東京、2023)等。
ヒラギノフォント ―明朝体と京都の新しく古い関係 (京都府)
製版機器の総合メーカーでヒラギノフォントが誕生したのは、1993年。現代では、フォント制作のほとんどの作業はデジタル化されましたが、ヒラギノシリーズで最初に開発された明朝体の原字は手描きで、修正や描き直した跡に時間が刻まれています。私たちの生活に馴染み深い明朝体のフォントが生まれた京都。実は明朝体の基になった文字もこの場所に縁があるのです。
1965年 神奈川生まれ 建築家
東京科学大学 教育研究組織 環境・社会理工学院 建築学系教授を務める。1987年に東京工業大学建築学科を卒業後、パリ建築大学ベルビル校に留学。1992年に貝島桃代とアトリエ・ワンを設立。その後、1994年に東工大博士課程を修了し、ハーバード大学、UCLA等で客員教授を経て、2016年より現職。専門分野は建築意匠、建築設計。
氷室 ―かき氷を生んだランドスケープ (奈良県)
氷室は都に近く、気温が低い地域に設けられました。都祁氷室の旧跡は奈良県北東部の大和高原に位置し、朝廷のあった奈良盆地とは約500mの標高差があります。寒冷地であっても、夏まで氷を保管するには、自然の力だけでは叶いません。土地の手入れや、季節ごとの仕事を人間が手掛けて、やっと氷が残ります。塚本さんは、古代の氷室を取り巻く環境と人間の関係性に「現代のランドスケープデザインに通ずるもの」を見出します。
東京生まれ インテリアデザイナー
クラマタデザイン事務所を経て、1993年にイガラシデザインスタジオ設立。 商業施設から保育園等の空間デザインと家具・プロダクト・遊具等の立体デザインを主とし、「衣・食・住・働・育」の分野に関わる進行形デザインを展開している。グッドデザイン賞審査委員、キッズデザイン賞審査委員、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。
魔法瓶 ―ガラス職人たちの情熱が生んだ〈特産品〉 (大阪府)
大阪の天満で「魔法瓶」をリサーチ。大阪は、江戸時代からガラスの一大産地と知られていました。長崎の商人・ 播磨屋清兵衛が、オランダ人が伝えたガラス製法を学んだ後、大阪に来て大阪天満宮の前でガラスの製造を始めたことが発祥とされています。五十嵐さんは、日本国内のみならず海外でも魔法瓶のシェアで圧倒的な地位をほこるメーカーを訪ねました。
1969年 東京生まれ 映像工芸作家
音楽業界を経て単身ニューヨークへ渡り、音楽と映像を融合したメディアアートを展開。帰国後1997年DRAWING AND MANUALの設立に参加。企業ブランド映像のディレクションやファッションブランドのステージ演出、写真家としての活動、美術館の空間演出などジャンルを越えた横断的な創作活動を展開。2022年より日本の工芸をベースにした映像工芸の創作を開始。2023年台湾にて映像インスタレーション作品「Karmen」を発表。
大漁旗 ―漁師たちを鼓舞する魂のデザイン (鳥取県)
かつては漁に出た漁船が、陸で待つ家族や関係者に大漁を報せるために用いたという大漁旗。現在は、船を新造した船主に贈られる、親戚や仲間からのお祝いです。正月や祭りなどハレの日に掲げて出航し、賑やかに船を飾ります。大漁旗は全てが一点もの。大漁旗は〈残したいもの〉だとかねて想いを抱いていた菱川さん。船を進水させたばかりの船主と、贈られた旗を手掛けた染物職人を訪れました。
1956年 山梨生まれ プロダクトデザイナー
デザイナーの個性を主張するのではなく、生活者の視点にたって人の想いを可視化する静かでありながら力強いデザインに定評がある。これまでに世界を代表する70社以上のブランドや、日本国内のリーディングカンパニーのデザインを手がけている。世界で最も影響力のあるデザイナーの一人とされている。日用品や電子精密機器からモビリティ、家具、インテリア、建築に至るまで、手がけるデザインの領域は幅広く多岐に渡る。自らのアトリエも自らデザインしている。イサム・ノグチ賞、Collab Design Excellence Awardsなど受賞歴多数。ロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー(英国王室芸術協会)の称号を持つ。2006年、Jasper Morrisonと共に「Super Normal」設立。2022年、デザインと科学の繋がりの探究に取り組むことを目的に一般財団法人THE DESIGN SCIENCE FOUNDATIONを創設。日本民藝館館長。多摩美術大学副学長。
石州瓦 ―瓦が生み出す町の〈雰囲気〉 (島根県)
島根県西部で生産される石州瓦は、三州瓦(愛知県)、淡路瓦(兵庫県)と並び、日本三大瓦のひとつ。島根の山間部は雪深く、日本海に面した地域は海の荒波にさらされ、しばしば台風の通り道になるため、厳しい環境に耐えられるように頑丈な瓦です。また釉薬由来の赤茶色が象徴的で、瓦屋根が並ぶ家並みは大森町に独特の景観を作り出しています。
1976年 東京生まれ デザイナー
2001年三宅デザイン事務所に入社し、三宅一生が率いたA-POCの企画チームに参加。その後ISSEY MIYAKEの企画チームに加わり、2011年から19年までISSEY MIYAKEのデザイナーを務めた。2021年にスタートしたブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」では、エンジニアリングチームを率いて、A-POCの更なる研究開発に取り組む。
街路市 ―市 300年続くコミュニケーションのデザイン (高知県)
高知市では、毎週火曜・木曜・金曜・日曜に公認の街路市が立ちます。特に日曜市は、江戸時代から300年以上続いており、路上で開かれる市としては日本最大級の規模を誇ります。長年続く歴史には大切な理由があるのではと訪れた日曜市で、モノを介して人と人の繋がりが生まれている様子を目にします。そこには自然と生活に寄り添う営みがありました。
1955年 東京生まれ グラフィックデザイナー
電通を経て、84年佐藤卓デザイン事務所設立(現・株式会社TSDO)。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」等の商品デザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、金沢21世紀美術館や国立科学博物館のシンボルマークデザインなどを手掛ける。また、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のアートディレクター、「デザインあ」「デザインあneo」総合指導、21_21DESIGN SIGHTディレクター・館長を務める。2025年4月より京都芸術大学学長を務める。
スナック ―〈間〉をつなぐ本能のデザイン (宮崎県)
西日本きっての繁華街、宮崎市の西橘通り、通称「ニシタチ」でスナックをリサーチ。スナックとは、一般的にカウンター越しに店主と客が対する飲食店で、お酒や軽食を楽しみながら会話を楽しむ場所です。店主と客の距離が程よく、親しみやすい雰囲気が魅力のひとつ。コンパクトながら、その店ならではのコミュニケーションを支える様々な要素がぎゅっと凝縮しています。
本展は、NHKで放送する番組「DESIGN MUSEUM JAPAN」を展示のかたちで再構成するものです。一般社団法人Design-DESIGN MUSEUMの協力のもと、野見山桜氏が展示監修。田根剛氏(Atelier Tsuyoshi Tane Architects)が会場デザイン、岡本健氏(岡本健デザイン事務所)がグラフィックデザインを担当します。
デザイン史家。福岡県北九州市生まれ。パーソンズ・スクール・オブ・デザインでデザイン史/キュレトリアル・スタディーズの修士号を取得。デザイン史の研究者として、展覧会の企画や書籍・雑誌への原稿執筆、翻訳を行なう。東京国立近代美術館工芸課(2017-2021)を経て、現在は五十嵐威暢アーカイブディレクター(金沢工業大学)、女子美術大学/多摩美術大学非常勤講師。
建築家。1979 年東京生まれ。ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architects を設立、フランス・パリを拠点に活動。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。主な作品に『エストニア国立博物館』、『弘前れんが倉庫美術館』、『アルサーニ・コレクション財団・美術館』、『ヴィトラ・ガーデンハウス』、『帝国ホテル東京・新本館』(2036 年完成予定)など。主な受賞に、フランス芸術文化勲章シュヴァリエ、フランス建築アカデミー新人賞、エストニア文化基金賞グランプリ、第67 回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞。著書に『TSUYOSHI TANE Archaeology of the Future』(TOTO 出版)。
グラフィックデザイナー。1983年、群馬県太田市生まれ。千葉大学文学部行動科学科にて心理学を専攻、研究の一環で調べたグラフィックデザインに興味を持ち、方向転換。卒業後、数社のデザイン事務所にて実務経験を積み、株式会社ヴォル、株式会社佐藤卓デザイン事務所を経て2013年に独立。多摩美術大学統合デザイン学科非常勤講師(2016~2019)、グッドデザイン賞審査員(2019~2021)、桑沢デザイン研究所非常勤講師(2021~)、愛知県立芸術大学非常勤講師(2024)
縄文時代より1万年以上ものあいだ、独自の生活文化を育んできた日本。そこには、世界がまだ気づいていない、豊かな物語を持つ〈デザイン〉があります。 私たちは第一線で活躍するクリエーターたちとともに各地の生活文化のリサーチを行ってきました。プロダクトデザイナー・柳宗理のデザインのプロセス、新潟・佐渡の船大工が暮らした町並み、世界最先端の富山のスポーツウエア、秋田の西馬音内盆踊り衣装の魅力、滋賀の石積職人「穴太衆」の技術、島根の瓦が生み出す町の雰囲気。 「これもデザインと呼ぶの?」と疑問を持つものがあるかもしれません。そう、どれも、日本の普通の生活の中にあるものばかりです。しかし、クリエーターたちにとっては、触発され、わくわくした 気持ちになって次のおもしろい物を組み立てる原動力になるもの、〈デザインの宝物〉と呼びたくなるものです。 わたしたちはそんな〈デザインの宝物〉を、その背後にある物語とあわせて番組や展覧会で紹介します。 日本中の〈デザインの宝物〉をつないでいけば、日本全体がひとつの大きな〈デザインミュージアム〉だととらえられるのではないか。日本中の多くの人に、〈デザイン〉は、実はわたしたちのまわりにあふれていて、日々の暮らしに豊かさや活力を与えていることに気づいていただきたい。 さあ、クリエーターたちと一緒に〈デザインの宝探しの旅〉にでかけましょう。 今回は、菊地敦己(グラフィックデザイナー)、宮永愛子(現代美術作家)、塚本由晴(建築家)、五十嵐久枝(インテリアデザイナー)、菱川勢一(映像工芸作家)、深澤直人(プロダクトデザイナー)、宮前義之(デザイナー)、佐藤卓(グラフィックデザイナー)が2024年度にリサーチした8つの〈デザインの宝物〉を中心に、展覧会を構成します。