日本刀の聖地・備前長船刀剣博物館完全ガイド:刀職人の技と国宝「山鳥毛」に出会う旅
岡山県瀬戸内市の長船は、約800年前から刀作りで栄えた日本刀の聖地。現存する重要な日本刀の約半数がこの地で作られました。刀職人の技を間近で見学でき、国宝「山鳥毛」も所蔵する備前長船刀剣博物館の魅力をご紹介します。
岡山県瀬戸内市の長船地域は、鎌倉時代初期から刀作りで栄えた日本刀の聖地です。驚くべきことに、現存する重要な日本刀の約半数がこの長船で作られました。世界中から刀剣ファンが訪れる備前長船刀剣博物館の魅力を、岡山戦国武将隊の案内でご紹介します。近くの刀剣グッズショップ情報も必見です。
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目次
- 備前長船が「刀剣の里」と呼ばれる理由
- 備前長船刀剣博物館とは?日本刀専門博物館の魅力
- 情報コーナー「刀剣の世界」で基礎知識を学ぶ
- 1階展示室:長船刀の歴史を実物で学ぶ
- 2階展示室:多彩な企画展示で日本刀文化を深く知る
- 国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」:上杉謙信が愛した名刀
- 刀剣工房で職人技を間近に見学:日本刀ができるまで
- 刀匠(刀を鍛える職人)
- 白銀師(金属装飾職人)
- 装剣金工師(装飾金具職人)
- 研師(刀を研ぐ職人)
- 柄巻師(柄に糸を巻く職人)
- 鞘師(鞘を作る職人)
- 塗師(漆を塗る職人)
- 昔ながらの古式鍛錬を公開:迫力の実演
- 今泉俊光刀匠記念館:備前刀復興の功労者
- 刀剣グッズお土産ショップ:ここでしか買えない逸品
- まとめ:日本刀の全てを体験できる唯一無二の場所
備前長船が「刀剣の里」と呼ばれる理由

備前国(現在の岡山県東部)では平安時代末期(約900年前)から刀作りが盛んになり、「古備前」と呼ばれる刀職人グループが登場しました。この頃から長船周辺でも刀作りが始まっていたと考えられています。
鎌倉時代初期には、長船の福岡という地域で「福岡一文字派」という刀職人集団が誕生しました。鎌倉時代後期には「長船派」という刀職人集団が生まれ、戦乱が続いて刀剣需要が急増したことで全盛期を迎えます。

室町時代(1336年~1573年)になっても戦乱が続いたため大量の刀が必要とされ、長船では分業制による大量生産が行われるようになりました。その結果、質の高い名品と実用品としての刀が数多く作られました。戦乱が落ち着くと実戦用の刀の需要は減少し、長船の刀作りも衰退していきました。
このように長船地域は、日本刀の「量と質」の両面で頂点を極めた刀剣の里であり、数百年にわたり日本刀製作の中心地であり続けた場所なのです。
備前長船刀剣博物館とは?日本刀専門博物館の魅力

日本刀を専門展示する珍しい博物館
備前長船刀剣博物館は、日本刀を専門に展示する日本でも珍しい博物館です。刀の展示を見るだけでなく、初心者でも分かりやすく刀剣の知識を深めることができる展示コーナーもあります。
さらに、敷地内にある鍛刀場(刀を作る工房)で、常駐の刀職人が実際に作業する様子を見学できます。見る・聞く・触れる・体験するという、五感で楽しめる刀剣総合博物館です。それでは、博物館の見どころをご案内しましょう。
情報コーナー「刀剣の世界」で基礎知識を学ぶ

入口を入って正面のチケット売場で入館券を購入したら、右側にある情報コーナー「刀剣の世界」へ向かいましょう。ここでは、刀作りの様子を一から分かりやすく解説しています。

「刀はどうやって作るの?」「どこを見ればいいの?」という疑問に、やさしく動画やパネルで答えてくれます。初めての方はまずここで刀の仕組みを学んでから本物を見ると、理解がより深まります。予備知識を得たら、いよいよ実物の刀を見に行きましょう。
1階展示室:長船刀の歴史を実物で学ぶ

入口を入って左側を見ると、刀が展示されている部屋が見えます。この展示室には実物の刀がずらりと並んでいます。
長船で活躍した代表的な刀職人たちが作った刀が展示されており、その刀職人の特徴や時代など、長船の刀の歴史を実物の刀を見ながら知ることができます。刀の鑑賞方法や刃文(刀身に現れる模様)の見方なども解説されており、初めて刀を見た方も日本刀の世界に引き込まれていきます。
2階展示室:多彩な企画展示で日本刀文化を深く知る

備前長船刀剣博物館では、年間を通じて多彩な企画展示が開催され、日本刀の魅力を多角的に紹介しています。

過去の企画展には、学術的な刀剣用語の解説、「赤羽刀(戦後に接収された日本刀)」の展示、エヴァンゲリオン、戦国BASARA、刀剣乱舞などのアニメやゲームとのコラボレーション、ふなっしーとのコラボなどがありました。これらの展示は、歴史的背景や技術、文化的意義などを深く掘り下げることを目的としており、いつ訪れても興味深い内容となっています。
国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」:上杉謙信が愛した名刀

忘れてはならないのが、備前長船刀剣博物館が所蔵する国宝「太刀
無銘一文字(山鳥毛・さんちょうもう)」です。

この刀は鎌倉時代中期(約750年前)に備前国福岡で活動していた福岡一文字派の刀職人によって作られたとされ、戦国時代(1467年~1590年頃)の有名な武将・上杉謙信と景勝親子の愛刀としても知られています。瀬戸内市が購入し、2020年3月22日より年1回程度の展示公開が行われています。次回公開は2026年3月の予定です。
一度実物を見れば、山鳥の羽のように美しい刃文に必ず魅了されることでしょう。
刀剣工房で職人技を間近に見学:日本刀ができるまで

備前長船刀剣博物館のある「備前おさふね刀剣の里」には「刀剣工房」が併設されています。刀匠(刀を作る職人)、白銀師(金属装飾職人)、金工師、研師(刀を研ぐ職人)、鞘師(鞘を作る職人)、塗師(漆を塗る職人)、柄巻師(柄に糸を巻く職人)など、日本刀製作の各工程を実際に職人が作業している様子が見学可能です。それぞれの工程と職人をご紹介しましょう。
刀匠(刀を鍛える職人)

刀匠とは、たたら製鉄から得られた玉鋼(たまはがね・日本刀の材料となる鋼)を鍛え、焼き入れ、研ぎ、銘を刻むまでの刀身を作る専門職です。
安藤広康刀匠が常駐しており、日本刀作りの鍛錬などの一連の作業を間近で見学することができます。安藤刀匠は現代刀職展で数々の優秀賞を受賞されている刀匠です。

お話を伺うと、やはり焼き入れの時が日本刀作りが成功するか失敗するかが決まるので一番緊張するとのこと。いまだに自分で満足できる刀はできていないとおっしゃり、日々研究に明け暮れているそうです。しかし、一連の作業はどの作業も楽しいとのこと。安藤刀匠は一見厳格そうに見えますが、とても優しく気さくな方なので、来館の際には話しかけてみてください。作刀に関するいろいろなお話を聞くことができるかもしれません。
白銀師(金属装飾職人)

「白銀」とは銀や金属を指す言葉で、刀剣の外装(拵・こしらえと呼ばれる刀の装飾部分)の中で、主に金属部分を担当し、刀の装飾金具や補強具を製作する職人です。白銀師がいなければ、刀は「鞘に納まらず、武器としての実用性や装飾美を持てない」存在になってしまいます。
常駐の武藤健氏と定期公開の小池哲氏(雅号:重之)のお二人が作業を公開しています。

武藤氏にお話を伺いました。「私たち白銀師は鉄以外の金属を扱います。鎺(はばき・刀身を固定する金具)だけではなく、縁・頭・目貫・鐺(こじり)・切羽なども作ります。依頼主の要望にいかに応えるか常に考えながら仕事をしていますが、それがとても面白いです」とのこと。武藤氏はとても話が上手な方で、金工のことだけではなく、刀のお話もとても興味深いものでした。
装剣金工師(装飾金具職人)

鍔(つば・刀の柄と刀身の間にある円盤状の防具)、縁頭、目貫などの金具を作る装飾金工の職人です。象嵌(金属に溝を掘って別の金属をはめ込む技法)の技術なども使い、美術工芸の要素が強い仕事です。また、刀に信仰的・芸術的価値を付与するために刀身に彫物を施す職人は金工師と呼ばれます。

常駐の片山重恒氏が作業公開を行っています。片山氏によると、「刀匠を目指して岡山に来たのですが、ここ備前長船刀剣博物館で師匠の刀身彫刻を見て感激したと同時に、装剣金工というものがあると知りこの世界に入りました。新しいデザインなど、今までなかったようなものを作ってみたいです」とおっしゃっていました。
手元にはデッサンノートがあり、刀身彫刻や鍔などの新作デザインがたくさん入っていました。また、彫金を自分でもやってみたいという方は、直接片山氏に話してみてください。この場所で初心者向けに教室も開催されているそうです。
研師(刀を研ぐ職人)

日本刀を美しく、そして正しく見せるために研磨(研ぎ)を行う専門職です。刀匠が鍛えた刀は焼き入れのままでは刀身が白っぽく曇っており、刃文や地肌もはっきり見えません。そこで研師が仕上げることで、刃文や地鉄の美しさが際立ち、刀剣本来の姿が現れるのです。実用的にも、刃を研ぎ澄ますことで切れ味が整えられます。
横山智庸氏、安井隆之氏の2名の研師が定期公開を行っています。

横山氏にお話を伺うと、「刀匠の作った現代刀から研ぎ直しの刀まで、様々な刀が持ち込まれます。研ぎ直しは研ぎすぎてもダメで、最小限の研ぎで刀を蘇らせます」とのこと。砥石も粗いものから細かいものまで、大小数多くの種類の砥石がありそれを使い分けているそうです。とても細かく気を遣う仕事だと感じました。
柄巻師(柄に糸を巻く職人)

柄巻師とは、刀の外装を作る職人の一つで、日本刀の柄(つか・刀の握る部分)に糸や革を巻き付けて仕上げる職人のことです。見た目の美しさだけでなく、実用性と耐久性を兼ね備えた重要な役割を担います。
高見信夫氏が定期公開の柄巻師として作業を公開しています。1988年にこの道に入られたそうです。

幅広の平紐を捻りながら、ただ巻いているのではなく、よく見てみると細い紐を何本も使って編み込むように巻いていました。交差しているところはとても複雑で見た目も美しく、外側から見えないように和紙を詰めています。こうすることでとても握り心地が良くなり、手になじむ柄になるということです。目に見えないところまで気を使う、まさに職人技です。
鞘師(鞘を作る職人)

鞘師とは、日本刀などの鞘(さや・刀を入れる筒状のケース)を専門に作る職人のことです。刀剣を構成する部品の中でも、鞘は刀を保護し持ち運ぶために不可欠であり、刀の美観にも大きく関わるものです。
刀身にぴたりと合う内部構造を削り出し、刀を確実に保持しなければなりません。鯉口(こいぐち・鞘の刀を差し込む口)、栗形(くりがた・帯に通すための突起)、鐺(こじり・鞘の先端の金具)など、金具との調和も大切です。

石崎三郎氏が定期公開を行っています。石崎氏は1969年から師匠に師事し、鞘一筋で数々の賞を受賞されている職人です。
石崎氏にお話を聞いてみました。「鞘の材料は朴ノ木(ほおのき)を使います。加工しやすい木材ですが、伐採してから約10年寝かせてからでないと使えません。刀を確実に保持するため、刀身にぴたりと合う内部構造を削り出すことがとても重要で気を遣います」とおっしゃっていました。
塗師(漆を塗る職人)

塗師は、主に鞘や刀装具の表面を漆(うるし・日本の伝統的な天然塗料)で仕上げる職人で、日本刀製作における重要な職人の一つです。
現在、岸野輝仁氏が博物館の常駐塗師として作業公開を行っています。

塗師の仕事についてお聞きすると「鞘に漆を塗る工程は約50工程あります。塗っては磨き、塗っては磨きの繰り返しです。ただ塗るだけではなく、鞘師と部位によって塗りの厚さなどの綿密な打ち合わせをして作業にかかります。また、鞘師の作った鞘の形を、細かい部分まで塗りの厚みなどで変えないように仕上げることも大切です」とお話しくださいました。
漆を塗るときや乾燥させる時には、埃が鞘につかないようにとても気を使われていました。皆様も塗りの作業中に出くわした時には、埃を立てないよう気をつけて見学してください。
昔ながらの古式鍛錬を公開:迫力の実演

「古式鍛錬(こしきたんれん)」とは、日本刀を製作する過程の中で、伝統的な手法で鋼を高温で加熱し、大槌で叩き延ばす鍛錬(打ち延ばし・折り返し鍛錬など)の技術・工程を指します。
特に刀身の内部組織を精錬し、不純物を排除したり、鋼の均質性を高めたりして、強く、しなやかで切れ味の良い刀を作るための重要な部分です。

月一回、第2日曜日に刀匠が持ち回りで担当して「折り返し鍛錬」の公開実演が行われています。大槌を振り上げ鉄に打ちつけるとき、火花が飛び散り大迫力です!
見学するには必ず予約をして、備前長船刀剣博物館に入館して受付を済ませ、貸し出される保護眼鏡を着用しての見学となります。刀匠も説明してくださるので、刀作りを実際に見て理解することができます。
今泉俊光刀匠記念館:備前刀復興の功労者

今泉俊光刀匠(故人)は備前刀復興の祖と言われ、1945年(昭和20年)に長船に鍛刀場を開設し、伝統的な備前刀を中心に本格的な作刀研究に取り組み、衰退の危機にあった備前長船刀を復興させた方です。

現代においてもその技術を継承し続ける文化的存在としても評価されている刀匠で、素材作りから工夫を重ね、刃文に約700年前の鎌倉時代の味わいのある独自の風格ある作風を示しました。今泉俊光刀匠の功績を顕彰し、数々のオリジナルの道具類を展示した記念館となっています。
刀剣グッズお土産ショップ:ここでしか買えない逸品
①ふれあい物産館:刀剣ファン必見のグッズショップ

備前おさふね刀剣の里の敷地内にあるお土産ショップです。刀剣グッズを中心に扱い、国宝「山鳥毛」関連のグッズなど、ここでしか買えない刀剣グッズが人気です。
武士や侍ゆかりのお土産、瀬戸内市の地域特産物、さらには刀袋や下緒(刀を腰に固定する紐)、刀剣のお手入れを行う打粉・刀剣油・拭い紙まで、普通の土産物屋とはまったく違う商品が並んでいます。

また、隣の部屋には刀剣特設コーナーがオープンしたばかりです。ここには模造刀が壁にずらりと並び、なんと真剣(現代美術刀剣・アンティーク刀剣)も販売されています。まさに刀剣ギャラリーです。刀剣博物館に来てここに来れば、本物の刀も買えてしまいます!
目を引いたのは、「刀剣の材料・素材ガチャ」と単眼鏡ならぬ「単眼刀・山鳥毛」。刀剣好きの方は見て回るだけでも楽しいお店です!
所在地:岡山県瀬戸内市長船966
TEL:0869-66-7550
営業時間:9:00~17:00
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)、12月28日~1月4日、刀剣博物館展示替え時
②アイリーミヤモト:玉鋼ジュエリーと西陣織グッズ

備前長船刀剣博物館近くのジュエリー・メガネ・着物を扱っているお店で、2022年8月から日本刀の素材である玉鋼を使ったジュエリーを展開しています。
異素材との融合は大変苦労があったそうですが、何度も試行錯誤を繰り返し、備前長船刀剣博物館にいる刀鍛冶が玉鋼から鍛鉄を作り、塗師が漆を塗り、ジュエリー職人が普段から身に着けられるよう細かく加工しています。つまり、作刀の技術がこの小さなジュエリーに詰まっているのです。

また、国宝「太刀
無銘一文字(山鳥毛)」とのコラボ商品で、京都西陣織で山鳥毛の刃文がデザインされた帯も人気です。刀剣を愛するファンにとってはどれも欲しくなってしまう逸品が並んでいるお店です。新商品として山鳥毛クッションもリリースされています。
所在地:岡山県瀬戸内市邑久町豊原94-1
TEL:0869-22-0206
営業時間:10:00~19:00
定休日:水・木曜日
まとめ:日本刀の全てを体験できる唯一無二の場所

備前長船刀剣博物館を全て回ってみていかがでしたか。まさに刀にまつわる全てを網羅している魅力的な場所でした!
刀剣ファンにとっては天国です。なぜなら、全ての職人がおり、いつ行っても刀が作られている様子を実際に見ることができるという、日本中探してもここしかない場所だからです。
また、これから刀について知りたい、刀に興味があるという方にもぴったりの場所です。備前長船刀剣博物館では体験講座として、小刀製作・ペーパーナイフ製作・日本刀手入れなどの講座も行っています。
日本刀の聖地・刀剣の里と呼ばれる長船に、ぜひ一度お越しください。
【備前長船刀剣博物館】
所在地:岡山県瀬戸内市長船966
TEL:0869-66-7767
営業時間:9:00~17:00
定休日:月曜日(休日の場合は翌平日に振り替え)、祝日の翌日(土曜日・日曜日は除く)、年末年始(12月28日~1月5日)、展示替え時
岡山県は、西日本の中央に位置しており、1年を通して雨が少なくて温暖な気候から「晴れの国」と呼ばれています。京都、大阪、広島の有名観光地めぐりの中間地点でアクセス便利!瀬戸大橋を経由して四国に渡る際の玄関口でもあります。 また、「フルーツ王国岡山」とも呼ばれ、瀬戸内の温暖な気候の中、太陽を浴びたフルーツは、甘さ、香り、味ともに最高品質。 白桃をはじめ、マスカットやピオーネなど、旬のフルーツが味わえます! 「岡山城」や日本三名園の「岡山後楽園」、倉敷美観地区といった、歴史、文化、アートなど世界に誇る観光スポットもあります!