福井・石川・富山を巡る酒ツーリズム─日本酒を味わい、土地を知る大人の旅
北陸は、清らかな水と豊かな自然に育まれた日本有数の酒どころです。今回ご紹介するのは、酒蔵・直営店でのテイスティングに焦点をあて、その土地の文化や風景まで味わう富山・石川・福井の北陸3県の酒旅をご紹介します。
北陸は、清らかな水と豊かな自然に育まれた日本有数の酒どころで、多くの酒蔵がそれぞれの技、伝統を受け継ぎバラエティに富む日本酒を生み出しています。今回は富山・石川・福井の3県から特にテイスティング体験に力を入れている酒蔵を中心にご紹介します。日本酒と向き合う体験から、その土地の文化や風景まで味わう酒ツーリズムを楽しんでみませんか。
福井 ESHIKOTO 黒龍酒造/石田屋二左衛門
日本酒を核にした、大人のための酒体験拠点
福井県永平寺町、九頭竜川を見下ろす台地に広がる「ESHIKOTO(エシコト)」は、福井県を代表する酒蔵「黒龍酒造」を擁する石田屋二左衛門が手がける、日本酒を核とした大人のための観光施設です。施設名の「ESHIKOTO」は、「永久(とこしえ)」の逆さ読みであり、古語の「えし=良い」という意味も重ねられています。

「ESHIKOTO」は、曹洞宗大本山・永平寺のお膝元という土地性と、清らかな水と豊かな土壌に支えられた環境の中で、酒と福井・北陸の文化を立体的に伝える場として構想されました。3万坪ある広大な敷地には、発酵・熟成をさせる建物「臥龍棟(がりゅうとう)」と、お酒や食事を楽しめる建物「酒樂棟(しゅらくとう)」の2棟が2022年にオープン。2024年には宿泊施設、ベーカリー、蕎麦処などが新たに加わりました。

「黒龍酒造」の日本酒だけでなく、地元産の食材をふんだんに使用した料理、笏谷石(しゃくだにいし)や越前和紙、越前箪笥、越前漆器などの伝統工芸品を取り入れた心地よい演出も必見です。日本酒を切口に、この土地の歴史や風土を丸ごと堪能できるESHIKOTOは、酒ツーリズムを象徴する場所といえるでしょう。
※注意:「ESHIKOTO」は大人の方にゆっくり過ごしていただくことをコンセプトしているため、12歳以上の入場を推奨しています。また、ペット入場不可などの制限があります。
臥龍棟(がりゅうとう)
三角屋根の臥龍棟は、「ESHIKOTO」のスパークリング日本酒「ESHIKOTO AWA」を瓶内二次発酵させるための熟成庫として使われている施設。通常は見学できませんが、イベントなどで開放されることがあります。

石田屋 ESHIKOTO店(いしだや えしことてん)
ガラス張りのスタイリッシュな建物「酒樂棟」にある、お酒と伝統工芸品を扱うお店。「石田屋」は「黒龍酒造」の前身にあたり、江戸時代の1804年に福井県永平寺町に創業した造り酒屋の屋号です。ここは「ESHIKOTO」における日本酒体験の中心的な存在で、「黒龍酒造」の日本酒の中でも選りすぐりの逸品が並び、定番酒のほか、他では購入できない限定酒や最高峰ラインを含む約15種類の日本酒が並んでいます。店内に長く伸びるカウンターでは、有料の飲み比べを楽しめます。

お酒がディスプレイされている棚の布地は、日本酒の「もろみ」を搾る際に用いられる手織り木綿の酒袋を柿渋で染めたもの。店内のインテリアには笏谷石や福井の伝統的工芸品も用いられ、「越前箪笥(たんす)」で作られたショーケースには越前焼、越前漆器などの酒器や、越前箪笥の技術で作られた木製のコースターなども展示販売されています。

店内奥のテイスティングスペースでとっておきの一杯を。グラス1杯から注文でき、飲み比べができるセットもおすすめです。

石田屋 ESHIKOTO店
福井県吉田郡永平寺町下浄法寺12-17 酒樂棟
TEL 0776-63-1030 [営]10:00-17:00(テイスティング 16:30LO)
[休]水曜(不定休あり) https://eshikoto-store.shop-ishidaya.com/jp
Apéro & Pâtisserie acoya(アペロ&パティスリー アコヤ)
「酒樂棟」内には菓子店を併設したレストラン「acoya」もあります。フランス料理と永平寺のフィルターを通して表現した朝膳(モーニング)、昼膳(ランチ)、スイーツなどが味わえるお店です。朝膳、昼膳ともに土鍋で炊いた福井県産ごはんに、フランス料理を基本に福井各地の郷土を感じられるやさしい味わいの料理が永平寺の精進料理にちなんで「膳」スタイルで提供されます。事前予約がおすすめですが、席だけ予約してアラカルト料理に黒龍の日本酒やドリンクを組み合わせて楽しむこともできます。また、カフェタイムにスイーツを味わったり、「黒龍大吟醸ソフトクリーム」をテイクアウトで楽しむこともできます。

店内中央には福井県産の美山杉の大きなテーブルを配し、床には笏谷石が使用されています。窓辺のカウンター席も眺めが抜群です。


食事は永平寺の精進料理にちなんで「膳(ぜん)」スタイルで提供されます。ベビーリーフのサラダに白板昆布のドレッシング、カリカリに焼いた福井の特産品の「揚げ」。炊き立てで提供される土鍋のごはんも絶品です。


「acoya」はカフェ利用もでき、パティスリーでは10:00-16:00で焼き菓子など購入、「黒龍大吟醸ソフトクリーム」とドリンクのテイクアウトも可能です。
Apéro & Pâtisserie acoya
福井県吉田郡永平寺町下浄法寺12-17 酒樂棟
TEL 0776-97-9396 [営]10:00-16:00 [休]水曜 https://acoya-fukui.com
歓宿縁 ESHIKOTO(かんしゅくえん えしこと)

ESHIKOTOの西エリアに「大人」「本物」をテーマに、2024年にオープンした宿泊施設。3タイプ・全8棟のヴィラは、陶芸家・造形作家の内田鋼一氏が監修・アートキュレーションを担当し、それぞれ異なるコンセプトでコーディネートされています。越前焼や越前塗など福井を代表する古美術から、近現代アーティストの作品、世界各地の民芸品まで、上質なアートが混じり合った空間になっています。各部屋には温泉が楽しめる半露天風呂と開放感のあるテラスが設けられ、眼前に悠然と流れる九頭竜川を眺め、自然に囲まれた空間で滞在できます。


滞在の要となる食を担うのは、『ミシュランガイド北陸2021特別版』で一つ星として掲載された小松辰平氏による「日本料理 えん」と、『ゴ・エ・ミヨ』に選出された気鋭の若手シェフ・濱屋拓巳氏によるフレンチの「cadre(カードル)」が日替わりで営業。福井を代表する名シェフの料理と名酒「黒龍」とのマリアージュを堪能できます。

夕食後は隣接の「Bar 刻(とき)」で日本酒カクテルや、ここでしか飲めない樽熟成スピリッツが味わえます。朝食は、「ESHIKOTO」内のレストラン「Apéro & Pâtisserie acoya」で、土鍋で炊いた福井県産コシヒカリをはじめ、地元食材をふんだんに使ったメニューを素晴らしい景色と共にいただきます。

歓宿縁 ESHIKOTO
福井県吉田郡永平寺町下浄法寺10-15-1
TEL 0776-50-1323 宿泊・レストラン予約 TEL 0570-041923(9:00-20:00)
チェックイン15:00~19:00 /チェックアウト ~11:00 [休]年中無休 https://kanshukuen.com
蕎麦 山や(そば やまや)
九頭龍川の清流が流れるこの場所で自然に身を委ねながら、地の食材をいかした食事が楽しめます。蕎麦は福井在来種のみを使用した3種の十割蕎麦が味わえ、地野菜の天ぷらや福井ならではの一品料理と黒龍酒造の日本酒を堪能できます。


蕎麦 山や
福井県吉田郡永平寺町下浄法寺12-3
TEL 0776-50-6860 [営]11:00-15:00 [休]水曜 https://soba-yamaya.com
HAREYA(ハレヤ)
「ハレとケ」の「ハレ」の日のような、特別な体験を提供するベーカリー。こだわりのクロワッサン、黒龍酒造の酒粕を使用したあんパンなどを通して、北陸の食文化を発信しています。


HAREYA
福井県吉田郡永平寺町下浄法寺12-8
TEL 0776-87-0887 [営]9:00-17:00 [休]水曜 https://www.instagram.com/hareya_bakery
石川 農口尚彦研究所・杜庵
杜氏の思想に向き合う、静かなテイスティング
「農口尚彦研究所(のぐちなおひこけんきゅうしょ)」は、「酒造りの神様」の異名をもつ農口尚彦(のぐち なおひこ)氏を杜氏に迎え、70年以上に及ぶ酒造りの技術・精神を研究し、次世代へ継承することをミッションとして石川県小松市観音下町(かながそまち)に2017年に新設されました。日本酒を造る酒蔵ですが、「研究所」とあるように能登杜氏四天王の一人で、日本最高峰といわれる醸造家・農口尚彦杜氏が、ここで後進の蔵人たちを指揮・育成しています。

この施設は設計段階から農口杜氏が立ち合い、酒造りに最適な動線を考えた理想的な酒造設備になっていて、ロゴマークは利酒に使用するお猪口の「蛇の目」に農口の頭文字「の」を平仮名で組合せたデザインです。
小松駅から車で約20分、周辺には観音下石切場や十二ヶ滝などがあります。飲酒運転にならないようタクシーかハンドルキーパーさんの運転での来訪が必要ですが、すぐ近くにある「オーベルジュ オーフ」での食事・宿泊を組み合わせて、自然あふれる環境でゆっくり滞在を楽しむのもおすすめです。
予約制の酒蔵見学
予約制で1年を通してテイスティング体験ができ、テイスティングコースには酒蔵見学が含まれています。建物2階はギャラリーになっていて通路からガラス越しにたくさんの醸造タンクが並んだ仕込み蔵や、瓶詰め作業を行う工場などが見学できます。特に、冬から春にかけての酒造時期には、酒造りの作業風景を見ることができます。また、ギャラリーの奥には農口杜氏の酒造りの軌跡を紹介する年表や資料も多数展示されています。


杜庵(とうあん)──特別なテイスティング体験

蔵見学の後は茶室をイメージして作られたテイスティングルーム「杜庵(とうあん)」へ。茶室をイメージした静かな空間で、日本酒とおつまみのペアリング体験を楽しむことができます。裏千家にゆかりの深い小松市は、今も茶の湯の文化が受け継がれ、その文化や精神性がこの空間に表現されています。四畳半のカウンター、漆喰の壁、季節ごとに移ろう窓の外に広がる田園風景、能登ヒバ、小松瓦など石川の素材を用いた趣き深いインテリアにも注目です。

テイスティング体験は、農口杜氏が最高ロットとして選りすぐり熟成管理したLimited Editionと、山廃 純米大吟醸を含む6種類の日本酒の飲み比べと酒肴のペアリングが楽しめます。お酒のお供に提供される和らぎ水(チェイサー)は霊峰・白山の伏流水を汲み上げたもの。日本酒の仕込み水にも使用され、まろやかな味わいです。
小松市出身の九谷焼の人間国宝吉田美統氏が手がけたお猪口をはじめ、能登島ガラスや珠洲焼のぐい呑など石川県・北陸の美しい器で味わえます。たっぷり、ゆったりと日本酒造りの真髄に触れたら、最初に受付をしたSHOPでお酒を購入して帰ることもできます。ぜひ思い出をお土産にして持ち帰りましょう。

《見学・テイスティング体験》 https://noguchi-naohiko.co.jp/tasting_room
1日3回開催 ※WEB、電話から要予約
① 11:00〜12:00 ② 13:00〜14:00 ③ 15:00〜16:00
◆テイスティングコース 5,500円 ◆ノンアルコールコース(ドライバー限定)2,000円
※未成年者の入場はできません ※各回の定員8名まで
※1人1コースの選択が必要 ※ノンアルコールコースは車1台1名まで
農口尚彦研究所
石川県小松市観音下町ワ1番1 TEL 0761-41-1227 [営]10:00-16:00 [休]水曜
富山 桝田酒造店/沙石
100通りの「満寿泉」を味わう、自由なテイスティング

富山を代表する名酒「満寿泉(ますいずみ)」の蔵元「桝田酒造店(ますだしゅぞうてん)」がある富山市岩瀬は、古くから交通の要衝として栄え、北前船の寄港地として発展した港町です。明治初期の大火の後に再建された北前船の廻船問屋街は、今も古い街並みが美しく残っています。
現在の岩瀬は、歴史的な建物を活用し、多くのレストランやクラフトマンたちが切磋琢磨し、地域の魅力を発信する町となっています。その中心となっているのが「桝田酒造店」で、廻船問屋の重厚な町家が連なる東岩瀬の街の中、北アルプス立山連峰を源とする常願寺川系伏流水で日本酒を醸しています。
沙石(させき)──「満寿泉」を味わう、購入する

「桝田酒造店」では、酒蔵見学の受け入れはしていませんが、酒蔵直営の「沙石(させき)」で豊富なラインナップを誇る同社の日本酒「満寿泉(ますいずみ)」のテイスティング(有料)が楽しめます。

「沙石」では造りやビンテージの異なる約100種類の「満寿泉」のラインナップを揃え、店内の冷蔵庫の中から自分で選んで飲むことができます。楽しみ方は3コースあり、好きなコースをカウンターで注文します。
Aコース:木枡を購入して1杯ごとに支払う(木桝220円+日本酒200円〜/木枡は持ち帰り可)
B-1コース:15分間で最大8杯まで(1,500円/ミネラルウォーター付き)
B-2コース:30分間で最大15杯まで(3,000円/ミネラルウォーター付き)
お店のスタッフからルールの説明を受け、その後は飲みたいお酒を店内の大きな冷蔵庫から選んでセルフサービスで楽しみます。約100種類あるお酒の中には一般に出回っていないもの、ここでしか飲めない限定酒、貴重なヴィンテージ品もあります。

1本ずつ冷蔵庫から持ってきて、大きな一枚板の美しいテーブルで立ち飲みスタイルで味わいます。飲み終えたら1本戻し、次の1本を持ってきます。たくさんありすぎてお酒選びに困ったら、お店のスタッフにおすすめを聞いてみましょう。また、お酒と相性がいいおつまみの販売もあり、Tシャツや雑貨なども購入できます。

桝田酒造店
富山県富山市東岩瀬町269 TEL 076-437-9916
沙石
富山県富山市岩瀬大町93 TEL 080-2962-6683
[営]10:00-18:00 [休]火曜 ※公式インスタグラムで確認
https://www.instagram.com/masuizumi.saseki
酒商 田尻本店
日本酒の購入は「沙石」の5軒隣にある「酒商 田尻(さかしょう たじり)本店」へ。廻船問屋の土蔵をリノベーションした日本酒・ワインを豊富に扱う酒屋で、圧巻は店の約半分を占める広い冷蔵セラー。ロッカーに荷物を預ければ、セラー内に入ってお酒を選ぶことができます。「満寿泉」の品揃えは世界一で、ここでしか買えない希少なビンテージ酒も揃えています。

酒商 田尻本店
富山県富山市東岩瀬町102 TEL 076-437-9674
[営]10:00-19:00 [休]月曜(祝日の場合は翌日) https://www.instagram.com/sakasyotajirihonten/
おわりに 酒を味わうことは、土地と向き合うこと
北陸の酒ツーリズムは、実際に酒を味わい、選び、その余韻を食や風景とともに受け取ることで、その土地の気候や水、文化、人の営みが立体的に見えてきます。
今回ご紹介した富山の酒蔵では、自由度の高いテイスティングを通して酒の多様性に触れ、石川の酒蔵では、杜氏の思想と向き合いながら静かに酒を味わい、福井の酒蔵では、酒を核にした空間で、食や滞在を含めた体験が完成します。
同じ日本酒でも、味わい方や向き合い方で印象は大きく異なります。だからこそ、北陸の酒旅は何度訪れても新しい発見があります。テイスティングを起点に、土地を知り、人を知る。そんな大人の旅を、次の北陸旅行の選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。
北陸エリア全体を盛り上げる取り組みを行なっています