日本最果ての「奇祭」その名も「お伊勢講」 鹿児島 南さつま
鹿児島県南さつま市笠沙町の片浦地区には、古くから伝わるユニークな祭り「片浦のお伊勢講」があります。 「一生に一度は行きたい」と人々が憧れた三重県の「伊勢神宮」への信仰から生まれたものです。歴史と不思議な伝説に彩られた、由来をご紹介します。
基本情報
開催日:毎年2月11日
場所:鹿児島県南さつま市笠沙町片浦地区
地図の端に、日本の「魂」が眠っている
日本の有名な観光地――東京、京都、大阪。それらを巡る「ゴールデンルート」は確かに素晴らしいものです。しかし、もしあなたが、まだ誰も知らない日本の「心の深淵」に触れたいと願うなら、九州の南端、鹿児島県南さつま市のさらに西の果て、笠沙町(かささちょう)へと向かってください。

ここで毎年2月に行われる「お伊勢講(おいせこう)」という神事は、単なる伝統行事ではありません。それは、400年もの間、外部の干渉を寄せ付けず、地域の人々が大切に守り抜いてきた「コミュニティの絆」そのものであり、現代人が忘れかけている「目に見えないものへの畏敬の意」を呼び覚ます、生き証人なのです。

笠沙・片浦という「聖地」への旅

南さつま市笠沙町は、古事記や日本書紀といった日本最古の神話において、天孫(神の孫)であるニニギノミコトが上陸した場所と伝えられています。
リアス式海岸の険しい山々が海に落ち込むこの地は、漁業はもちろん盛んではあるものの、「半農半漁」という独自の文化と「共助の精神」が、未だに深く根付いております。
それゆえに、ここには独自の文化が純粋な形で残っています。片浦の集落に足を踏み入れると、まず驚かされるのはその色彩です。深く透き通ったブルーの海、古い石垣、そして家々が肩を寄せ合うように並ぶ静かな路地。ここには、都会の喧騒も、過剰な看板もありません。あるのは、波の音と、人々の穏やかな暮らしの音だけです。
なぜ「伊勢」なのか?
「お伊勢講」とは、もともと三重県にある伊勢神宮への参拝を目的とした、日本の伝統的な互助組織(講)のことです。交通が発達していなかった時代、庶民にとって伊勢参りは一生に一度の夢でした。そこで各地に、代表者が伊勢に参り、その恩恵を地域全体で分かち合う「講」が生まれました。

お伊勢講の始まり
この祭りは、かつて「一生に一度は行きたい」と人々が憧れた三重県の「伊勢神宮」への信仰から生まれたものです。歴史と不思議な伝説に彩られた、この祭りの由来をご紹介します。

1. 遠い「お伊勢様」を地元へ迎えるまで
江戸時代、遠く離れた薩摩(現在の鹿児島)の人々にとって、三重県のお伊勢参りは非常に困難な旅でした。そこで片浦の人々は「講(こう)」という組合を作り、お金を出し合って代表者を伊勢神宮へ送り出していました。
しかし、長い旅路には多くの苦労があったため、やがて伊勢神宮の御神霊をこの地に迎え、地域でお祀りするようになりました。これが祭りの始まりと言われています。


2. 火災から家を守った「火伏せの神様」
片浦地区は過去に何度か大火に見舞われてきました。特に1843年(天保14年)の大火では集落のほとんどが焼失しましたが、お伊勢様をお祀りしていた家だけが奇跡的に焼け残ったという言い伝えがあります。
それ以来、お伊勢様は「火災から守ってくれる神様」として厚く信仰されるようになりました。今でも、お伊勢様の宿が山側に決まった年は、集落全体で特に火の用心に励む習慣が残っています。

3. 祭りの見どころ:女装した若者たちの行列
毎年2月11日、数え年15歳の「ニセ(青年)」たちを中心とした若者たちが、御神輿(おみこし)と共に町を練り歩きます。この行列には、他では見られない特徴があります。
なぜ女装をするのか?お伊勢様の神様(天照大御神)は女性であるとされています。神様の機嫌を損ねないよう、奉仕する若者たちは女装をし、面を被って踊り歩くのです。
武器を持つ理由若者たちは長刀(なぎなた)や槍、刀を手にしています。これは、かつて伊勢までの長い旅路で、神様を外敵から守っていた姿を再現したものです。

4. 謎の掛け声「オイヤナ、オイヤナ」
行列の間、若者たちは「オイヤナ、オイヤナ」と独特の掛け声を響かせます。
この言葉の由来には諸説ありますが、一説にはお伊勢参りの旅費を集めて回る際、「おいやんなぁ?(いらっしゃいますか?)」と挨拶しながら家々を訪ねた言葉が変化したものだと言われています。


備考
現在お伊勢様は公民館で管理されているが、昔は、集落役員を評議委員と呼びその委員がくじを引きその評議委員各家々を一年ごとに宿されていましたが、神様に不敬になることが多く管理を断るようになり、現在に至っている。
【鹿児島県】南さつま市は、本土最南西端に位置する、食と自然資源にあふれた街です。 ●映画『007は二度死ぬ(You Only Live Twice)』撮影地 ●鑑真大和上上陸地 ●【日本遺産】重要伝統的建造物群保存地区『加世田麓』 ●黒瀬杜氏/阿多杜氏発祥の地(南さつま七蔵焼酎) ●九州百名山『金峰山』 ●薩摩半島の三名山『野間岳』