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毎年4月19~20日に開催される飛騨古川祭では、地元の芸能、儀式、工芸品が披露されます。本記事では、飛騨古川祭の見どころから、グルメ、会場周辺のホテルまで祭りを楽しむための情報をまとめてご紹介します。
300年以上もの間、大切に受け継がれてきた春の伝統神事「古川祭」は、毎年4月19日と20日に開催されます。場所は、高山から電車でたった17分、飛騨市古川町です。
ユネスコ無形文化遺産に登録されているこの祭りは、精巧な彫刻が施された伝統的な屋台の巡行が特徴です。
私が秋に初めて飛騨古川を訪れた際、印象的だったのは、町の人々が語る「お祭り」の話でした。それは、目には見えないけれど、確かにこの町に深く根を下ろし、人々の生活と共にあるものだと感じました。「飛騨古川まつり会館」が市役所の向かいにあるのも、その象徴かもしれません。
この祭りをどうしても見たいと思い、幸運にも2025年4月、ついにその機会が訪れました。飛騨の豊かな工芸と、人々の精神的な繋がりを肌で感じた忘れられない二日間。以下、私の祭りの体験に基づいた記録とともに、古川祭をより深く楽しむための情報をまとめてご紹介します。
1. 古川祭の文化的背景と意義
2. 古川祭の主なイベント
- 御神輿行列:4月19日と20日
- 起し太鼓:4月19日の夕方
- 屋台曳行:4月20日
3. 観光のヒント:ホテルの予約はお早目に!
- 飛騨古川の宿泊施設:祭り見物におすすめの旅館
- 古川祭のグルメと日本酒
4. 飛騨古川まつり会館も必見!
祭りは、どの文化においても、日常からふと解放され、新しい季節の始まりを感じさせるもの。
それは、春の息吹が感じられる4月19日と20日に開かれる飛騨古川祭でも、きっと体験できるでしょう。
飛騨の人々にとって、古川祭は単なるお祭りではなく、新年を迎えるのと同じくらい大切な、新たなスタートを意味する行事です。この祭りが、なぜこれほどまでに特別な存在なのか、その魅力を紐解いていきましょう。
飛騨地方は、古くから木工や木彫りの高度な技術で知られています。奈良や京都が日本の都であった時代には飛騨の匠が数多くの寺社や宮殿の建築に携わりました。
現在にその技術を伝えるのが、古川祭を彩る屋台と、そこに施された精緻な木彫りの装飾です。10台それぞれに個性的な表情を持つ屋台の中には、100年を超える歴史を刻むものもあり、その繊細な彫刻には様々な意味合いが込められています。
祭りの期間外でも、「飛騨古川まつり会館」では、これらの屋台のうち3台が1年を通して展示されています。飛騨の工芸についてさらに深く知りたい方は、「まつり広場」に隣接する「飛騨の匠文化館」へ足を運んでみてください。
古川祭が文献に初めて登場するのは、江戸時代の元禄年間(1688~1704年)のことです。祭りの内容は時代とともに変化してきましたが、豪華絢爛な屋台自体は非常に古く、最も古いもので約100年前、その他もそれ以降に建造されました。
明治37年(1904年)の古川の大火では、祭りの行列で二番目に登場する三番叟(さんばそう)の屋台が焼失。その記憶を残すため、三番叟の屋台は部分的に再建されました。
祭りの屋台は、伝統的な日本の芸能を披露する移動舞台としての役割も持っています。神楽の舞を彩る祭囃子、能の人形劇であるからくり、そして子どもたちによる歌舞伎、子ども歌舞伎などが繰り広げられます。
古川祭は、日本の伝統芸能が神への捧げものとして生まれた頃の姿を、ぎゅっと凝縮して見せてくれる、まさに生きた文化財と言えるでしょう。この祭りに触れることは、日本の豊かな文化と歴史に触れる旅なのです。
古川の町は、人々の生活に深く根ざしたこの祭りのために存在すると言っても過言ではありません。祭りの二日間は、どの家もが積極的に関わります。
家々の玄関先には提灯が飾られ、その提灯を立てるためのくぼみが道のコンクリートに刻まれているのを見かけるでしょう。祭りの二日間、すべての家がこのくぼみを利用して提灯を飾り付けます。
4月19日の夜に行われる勇壮な「起し太鼓」には、主に町の若者たちが参加します。その他の住民たちは、祭りの屋台を蔵から運び出し、曳行の準備を手伝います。そして、祭りが終わると、屋台を丁寧に蔵へと戻します。
それぞれの屋台は町内の特定の地区を表しており、その地区の住民たちが屋台の維持管理、屋台の上で披露される芸能、そして曳行の際の操作を担当します。
厳しい冬の間、互いを支え合うように、古川の人々は一丸となってこの祭りを創り上げます。古川祭は、地域の揺るぎない絆を象徴するお祭りなのです。
古川祭で見逃せない3つの主要な見どころは、4月19日と20日の両日に行われる御神輿行列、4月19日の夜に開催される起し太鼓、そして4月20日の屋台曳行です。
以下に、これらの各イベントの見どころと特徴を紹介します。
古川祭は地元「気多若宮神社」の祭礼です。
4月19日には、神官による儀式によって気多若宮神社の神様が御神輿に移され、町内を巡行して住民に祝福を授けます。御神輿は、まつり広場にある御旅所(おたびしょ)と呼ばれる建物で一晩安置されます。
4月20日の午前9時には、御神輿行列が再開され、残りの地区を巡ります。御神輿には、伝統音楽の演奏者、神社の神官と巫女、そして各屋台とそれが象徴する町内を代表する旗を持つ人々が付き従います。
御神輿は正午頃にまつり広場に戻り、その前で神楽が奉納されます。その後、御神輿は気多若宮神社に戻されます。
住民の人々の喜び、奉納される芸能、そして野菜や酒といった供物は、すべて神に捧げられます。御神輿行列は、気多若宮神社の神と、その庇護を受ける住民の人々との絆を象徴する儀式なのです。
4月19日午後8時、まつり広場で始まる起し太鼓の勇壮な響きは、いよいよ祭りの本番が近づいてきたことを、町中に活気たっぷりに告げ知らせます。
この行事では、安全のため、2人の男性が組んで大きな大太鼓を交互に打ち鳴らします。その巨大な太鼓は、町内の男衆の肩に担がれ、町中を練り歩き、祭りを盛り上げます。
同時に、12組の男性グループが、付け太鼓(つけだいこ)と呼ばれる小太鼓を担ぎます。彼らは自分たちの付け太鼓を起し太鼓の最も近くに配置しようと激しく競い合います。なぜなら、その近くに陣取ることは大変な名誉とされるからです。
深夜まで続くこの行列の、むき出しのエネルギーと爽快な混沌は、まさに言葉では伝えきれません。直接体験するのが一番です!古川の住民たちが、起し太鼓の巡行を一目見ようと屋根の上に陣取っている光景は、その魅惑的な力を物語っています。
起し太鼓の巡行は決まったルートを進むため、祭りの見物客は夕方になると、太鼓のおおよその位置を示した地図を手に入れることができます。
巡行の進捗を地図で追いかけるのも良いですし、地図に示された特定の場所で待つのも良いでしょう。あるいは、親切な地元の人に、より良い眺めを求めて2階の窓やバルコニー、屋上に上げてくれるよう頼んでみるのも良いかもしれません。
4月19日には、各屋台がそれぞれの蔵から繰り出され、「試楽祭(しがくさい)」と呼ばれる祭りの準備が行われます。
そして4月20日、午前8時にはすべての屋台がまつり広場に勢揃いします。午前9時に御神輿行列が出発した後、正午まで各屋台では芸能の奉納が繰り広げられます。
最初の屋台では神楽と獅子舞を見ることができ、3番目の屋台では、長寿の象徴である鶴と亀が登場するめでたい能の演目「鶴亀」のからくり人形劇が上演されます。
別の屋台では、日本の文化で縁起の良いとされる牡丹の中で獅子が遊ぶ能の演目「石橋(しゃっきょう)」のからくり人形劇が披露されます。
白虎台は特に人気があり、子ども歌舞伎の舞台となっています。
地元の子どもたちが、義経と弁慶といった英雄に扮装し、二人が初めて出会い、力比べをした後、共に戦うことを決意するという物語を演じます。子どもたちの愛らしい仕草と歌舞伎独特の効果音が印象的です!
屋台は順番に連なり、午後にかけて市内を巡行します。
その屋台をよく見ると、設計の巧妙さに目を見張るはずです。人力で曳かれ、操舵装置を持たないため、交差点などでは驚くべき仕組みが用いられています。レバー操作で後輪を持ち上げ、代わりに垂直な補助輪を下ろすことで、屋台全体がスムーズに方向転換できるようになっているのです。
高山や富山から日帰りで古川祭を訪れることも可能ですが、それでは4月19日の起し太鼓を見逃してしまいます。起し太鼓は、男たちが誇りをかけて競い合う、まさに本物の活気に満ちた光景です。
祭りの両日をじっくり堪能するには、一泊することをおすすめします。もし時間に余裕があれば、祭りの喧騒から一転した町の静けさを味わうために、もう一日滞在することも検討してみてはいかがでしょうか。
古川祭は非常に人気があり、特に4月19日と20日の町内の宿泊施設は、早い時期に満室になることが多く、場合によっては3年前から予約が入ることもあるほどです!そのため、宿泊施設の予約はできるだけ早めに行うことを強くおすすめします。
なお、起し太鼓は、安全な場所から見物するだけでも楽しめますが、大太鼓の前を進む提灯行列には誰でも参加することもできます。
参加方法の詳細については、飛騨市観光協会にお問い合わせください。
MATCHAが特におすすめするのは、川沿いに佇む温泉旅館「八ツ三館」です。
明治時代から続く豊かな歴史を持ちながらも、丁寧に改装された館内は、広々とした優雅な客室で日本ならではの温かいおもてなしを感じさせてくれます。
さらに、4月に宿泊すれば、古川祭で披露される獅子舞やからくりの練習を見学できるという特別な機会も得られます。
また、薬草を使った滋味深い料理が評判の温泉旅館「蕪水亭(ぶすいてい)」も素晴らしい選択肢の一つです。
古川の美しい街並みに溶け込むように佇む「のとや」のような家族経営の旅館もおすすめです。地元の人々の温かいもてなしを肌で感じながら、活気あふれる起し太鼓の行列を2階から眺めるという贅沢な体験ができます。
お祭りで賑わう時期でも、古川のレストランやカフェは通常通り営業しています。ただし、混雑のため待ち時間が発生する可能性があります。
お食事には、伝統的な郷土料理を味わえる「味処古川」、体に優しい薬草料理が楽しめる「蕪水亭OHAKO」、または地元名産の飛騨牛を堪能できる「西洋膳処 まえだ」などがおすすめです。
また、祭りの2日間は町中に多くの屋台が出店し、手軽な軽食や飲み物を購入できます。これらの屋台は、飛騨古川駅周辺、まつり広場、観光案内所前の広場などで見つけることができますよ。
人気のグルメには、香ばしいえごまの五平餅や、食べ応え満点の飛騨牛コロッケなどがあります。飲み物なら、ぜひ飛騨の清涼な地ビールを味わってみてください。
4月19日の夜には、まつり広場で日本酒の無料サービスもあります。古川には「渡辺酒造店」と「蒲酒造場」という2つの酒蔵があり、祭り期間中は、それぞれの代表的な銘柄の日本酒が必ず神前に供えられます。まつり広場の近くにある後藤酒店では、地元の日本酒をお土産として購入できます。
お祭りに参加できない方は、「飛騨古川まつり会館」を訪れてみてはいかがでしょうか。
館内の大型スクリーンでは、古川祭とその見どころを紹介する20分のドキュメンタリーが1時間に3回上映されています。祭りの雰囲気を手軽に味わうことができますよ。
また、壮麗な祭屋台のうち3台が常設展示されており、その精緻な彫刻や装飾を間近に見学できます。
さらに、からくり人形の操作体験や、男性住民が起し太鼓の際に行う「とんぼ」と呼ばれる曲芸の練習風景を再現したインタラクティブな展示も楽しめます。
飛騨古川にお越しの際は、この祭り会館はぜひ訪れていただきたいスポットです!
二日間にわたる古川祭の体験は、私たちに伝統が持つ真の意味を深く教えてくれます。
古川の人々は、祭りを通して表現される目には見えない強い絆を受け継いできました。その起源を明確に覚えていなくとも、この絆を受け継ぎ、次の世代へと伝えようとする強い思いを持っています。祭りは彼らのアイデンティティそのものであり、先祖との繋がりを感じさせ、かけがえのない無形の遺産を未来へと繋いでいくのです。
古川祭は、精緻な工芸、力強い音楽、そして伝統的な踊りを通して、地域社会の協力によって息づく日本の文化的ルーツを鮮やかに映し出す、感動的な体験となるでしょう。
2016年よりMATCHA編集者。 能楽をはじめとする日本の舞台芸術に魅せられて2012年に来日。同年から生け花(池坊)と茶道(表千家)を習っています。 勤務時間外は短編小説や劇評を書いていて、作品を総合文学ウェブメディア「文学金魚」でお読みいただけます。