三養荘で楽しめる日本文化との出会い:「源氏物語」と能
伊豆長岡温泉にある旅館「三養荘」の雅な客室は、「源氏物語」の巻名や能の演目と同じ名前が付けられており、日本の洗練された文化を感じられます。静かな庭の眺めとともに、美しい客室に泊まる魅力をご体験ください。
「三養荘」は日本文化の宝庫

三養荘に展示されているこの作品は能「羽衣」から着想を得たのかもしれません
期待を胸に新しい場所を訪れると、想像をはるかに超える現実に出会い、その場所が永遠に特別なものになることが時にあります。
これは、筆者が「三養荘」を訪れた際に感じたことでもあります。三養荘が伊豆長岡温泉の名高い高級旅館で、歴代首相や皇族方も宿泊されたことがあると知っていました。また、1920年代後半に京都の有名な庭師・七代目小川治兵衛が手がけた壮麗な庭園があることも知っていました。
しかし、客室の名前が世界最初の長編小説と見なされている「源氏物語」の巻名や能の演目と同じ名前が付けられていることに驚きました。客室内には、物語の世界を思わせる美術品が静かに配置されています。
本記事では、宿泊客として体験できる日本文化との出会いに焦点を当てて「三養荘」の魅力をご紹介します。
※「MATCHA読者限定」プランはプランページでご希望の宿泊日程を選んだ後に提示されます。
「三養荘」の歴史的背景

三養荘の本館は1929年に建立されました。もともとは三菱合資会社(現・三菱グループ)の二代目当主、岩崎久彌(1865–1955)の別荘として建てられました。
三菱が日本経済に与えた影響は計り知れませんが、岩崎久彌は日本の芸術や学術に多大な貢献をしたことでも知られています。東洋学の国内最大級の研究図書館である「東洋文庫」を創設し、現在の清澄庭園を東京都に寄贈したことがその業績の例です。
筆者が2025年7月に三養荘へ滞在した際、本館の客室には能の演目と同じ名前が付けられていることに気づきました。

能舞台 Photo by Pixta
能は江戸時代には武士階級の式楽(貴族や武家などの儀式に用いられる芸能のこと)でしたが、武家文化の多くと同様に、幕府の崩壊と1868年の明治維新の後、能の存在自体が危機に直面しました。
幸いにも、古い起源を持つこの伝統的な舞台芸術は、明治天皇や皇族がその価値が単に武士階級に限られないことを認めて保護されたため、命脈を保つことができました。
さらに能の復興に拍車をかけた大きな出来事が1908年にありました。能役者であり作者でもあった世阿弥(1363–1443)による伝書が発見されたのです。これらの文献は能の起源や理想美について新たな光を当て、新たな関心を生み出し、近代における洗練された日本の舞台芸術としての能の地位を確固たるものにしました。

長岡温泉の源氏山の上からの眺め Photo by Pixta
三養荘の新館は1988年に完成し、客室は「源氏物語」の巻名と同じ名前が付けられました。正確な命名の理由は記録に残っていませんが、伊豆長岡温泉の源氏山近くにある立地が影響した可能性があります。
このような豊かな文化的テーマにより、三養荘の客室それぞれが一つの物語を紡ぎ出し、滞在者を日本文化の奥深い世界へと誘います。
以下は、滞在の雰囲気を高め、日本文化の旅を豊かにする各客室の特徴をご紹介します。
能の演目と同じ名前の客室:高砂、松風

能「井筒」の図解 Photo by Pixta
能は14世紀頃に現在の形を確立した舞台芸術で、優雅さを重んじ、忠義や武勇といった主題を特徴とします。歴史的な支配層に高く評価され、緻密で洗練された演出へと発展しました。
多くの能は古い伝説や古典文学を基にしており、日本文化の核心と深く結びついています。
以下では、こうした名作能と同じ名前が付けられた三養荘の客室のいくつかをご紹介します。
高砂:夫婦円満と長寿を祝う物語

高砂は庭園に佇む美しい離れです。たどり着くまでの小径を歩きながら、季節ごとの風景を楽しめます。
この静かな隠れ家には和室が二間と、かけ流しの大きな浴室が備わっています。高砂は最大5名まで利用でき、三世代での滞在に最適です。

高砂人形は日本の結婚祝いの贈り物として人気です Photo by Pixta
能「高砂」は、兵庫県の高砂神社と大阪の住吉神社の神が仲睦まじい老夫婦として登場する物語です。
両社は瀬戸内海を挟んでおおよそ80km離れているにもかかわらず、仲の良い夫婦として心はいつも一緒で、相生の松がその象徴です。場所は離れていても、その絆は隔たりを越える夫妻の在り方を表しています。
こうした吉祥の意味から、「高砂」の祝詞は日本の結婚式で歌われるようになりました。新婚の二人が高砂と住吉の神々のように喜びに満ちた末永い夫婦であるように、また常緑の松が象徴する長寿と健康がもたらされるよう祈念して披露されます。

高砂の客室が醸し出す優雅さと静けさは、その名をもつ能の雰囲気と見事に重なります。
客室の二間に掛けられた掛軸をよくご覧ください。どちらも海辺の反対側に生える松を描いており、海を挟んで向かい合うように配置されています。これは「高砂」の物語に登場する、距離を超えた結びつきを象徴する神の夫婦を芸術的に表現したものではないでしょうか。
松風:庭を望む縁側と時を超える愛の物語

松風は、庭を望む専用の縁側を備えた美しい和室です。
その名は能の名作「松風」と同じです。この能演目は14世紀中頃に作られ、須磨へ追放された貴公子・在原行平への想いに取り憑かれた姉妹、松風と村雨の切ない物語を描いています。姉妹の霊が愛ゆえに死を越えて執着するという、時を超えた愛が主題の演目です。

客室の床の間には、松風と村雨の姉妹を象徴する繊細な美術品が飾られ、物語の世界へさりげなく誘います。
静かな庭の景色と素敵な物語を備えた松風は、ゆっくりと過ごすことにふさわしい空間です。日常の喧騒から離れて思いを巡らせ、伊豆・長岡温泉の落ち着いた環境で心身をリフレッシュするのに最適です。
本館には、老松、巴、花月など、他にも有名な能演目の名を冠した客室がいくつかあります。滞在中にご自身の部屋の名前の物語を調べてみてください。その文学的なつながりを想像することも、三養荘の滞在に楽しみをもたらしてくれるはずです。
源氏物語の巻名と同じ名前の客室:若紫、初音
「源氏物語」は、11世紀初頭に女官と歌人だった紫式部によって著された日本文学の傑作です。平安時代(794–1185)の王朝文化が最盛期を迎えていた時代に書かれ、世界最初の長編小説と見なされています。
物語は光源氏という美しい貴公子を中心に展開し、彼の恋愛関係や、平安廷の洗練された政治・慣習の機微が巧みに描かれています。
三養荘の新館には「源氏物語」の巻名を冠した客室がいくつかあります。この設えは、宿泊客がこの有名な古典の気配に満ちた空間に身を置き、より深く日本古典の雰囲気を感じられるよう誘うものです。
若紫:広々とした縁側付きの和洋デラックスルーム

土佐光起による源氏物語絵巻からの「若紫」に基づく絵 Photo by Pixta
「若紫」という客室は、光源氏が初めて美しい若紫を見かける章にちなんだ 名前をつけたのでしょうか。若紫はやがて彼の妻となり生涯最大の愛となります。

※こちらの写真は、若紫と同タイプの別の客室で撮影されたものです。
この新館和洋室(デラックスタイプ)は、和の趣と洋の快適さを融合させた間取りです。低い座卓と床の間といった和の風情と、洋室のベッドが備わった現代的な快適さが美しく調和しています。

※こちらの写真は、若紫と同タイプの別の客室で撮影されたものです。
美しい縁側がリビング空間を広げ、庭の静けさを眺めながら一日を通して変化する風情を楽しむのに最適な場所を提供します。
初音:新たな始まりを祝う三間続きの貴賓室

「初音」という新館貴賓室は、「源氏物語」第23帖の巻名と同じ名前が付けられています。この帖は新年の慶賀を中心に描かれているため、初音も記念日や昇進祝いなどのお祝いの場にふさわしい趣を持っています。
広々としたこの貴賓室は和室が三間続きで、洗練された床の間と専用のかけ流しの浴室を備えています。最大8名まで宿泊可能で、大人数の家族旅行やグループ旅行に最適です。
専用の縁側からは庭へ直接出られ、外界から切り離されたような穏やかな静寂を存分に味わえます。
「源氏物語」を感じるその他の空間

「源氏物語」を連想させるテーマは新館全体に貫かれており、夕霧、柏木、早蕨、浮舟など、主要な帖の名を冠した客室が点在します。
このテーマはラウンジ「葵」にも及んでいます。葵は光源氏の正室・葵の上の名称で、この空間の洗練された佇まいも古典小説の雅な雰囲気を見事に映し出しています。

さらに、三養荘の素晴らしい建築は、光源氏が愛する女性たちのために造った宮殿「六条院」を想起させます。
廊下の先には庭園の眺めが広がり、館内の随所には和の美意識にあふれる美術品が配されています。館の隅々までが芸術性と雅を湛え、訪れる人を日本文化の核心へといざないます。
「三養荘」で味わえる日本文化の奥深さ
庭園の息をのむような四季折々の風景に加え、客室名が呼び起こす古典物語が滞在をさらに豊かにしてくれます。
ぜひ三養荘に宿泊して、自然の恵みと日本文化の雅に身を浸し、心に残る忘れがたい滞在をお楽しみください。
Sponsored by Sanyo-so
Written by Ramona Taranu