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【手仕事のまち越前市】誰かに伝えたくなる「越前のとっておき」を探す旅
さまざまな背景をもった方に、越前市の風土を感じてもらう旅。今回は福井県のお隣、石川県のホテルで働く「KUMU金沢」の澤野彩(さわの・さやか)さんと「TAKIGAHARAFARM」の斎藤礼菜(さいとう・れいな)さんのお二人に、越前のものづくりを体験していただきます。
普段から北陸を訪れる多くの観光客を出迎えている二人ですが、意外にも越前市に足を運んだことはほとんどないそう。「自分たちで旅しながらこのまちの魅力を発見することで、これからの観光のヒントにつなげていきたい」と期待に胸を膨らませながら、越前の地に降り立ちました。
北府駅
二人が最初にやってきたのは福井鉄道「北府(きたご)駅」。駅の名前である「北府」は、かつての越前国府の北側に位置すること(国府の北→北国府)に由来します。大正時代のレトロな雰囲気を残す駅舎は、携帯電話のCMにも登場し話題になったことも。今は珍しい無人駅で、駅舎の中は福井鉄道の貴重な資料が約120点展示された資料館になっています。
改札口付近と待合室も昔の面影が残る味わい深さ。2013年には駅舎が国の登録有形文化財にも指定されました。
駅にやってきたのは2両のかわいい車体。「FUKURAM(フクラム)」という愛称の電車で、鮮やかなオレンジは北陸の冬を払拭するような明るい色をイメージしています。
一駅ずつのんびり進む福井鉄道は、通学や通勤など地元に住む人たちの大事な足。利用すると、地元の暮らしに少しふれることができるかもしれません。
「車とはまた違った良さがあるよね」「始発から終点まで、時間を気にせず電車で旅するのも楽しそう」と二人はすでに盛り上がっています。
https://www.echizen-tourism.jp/travel_echizen/visit_detail/45?
幸せのピンクタクシー
目的地の「越前武生」駅に到着しました。ここからいよいよ越前市を巡るのですが、ぜひ利用したいのが定額タクシー。乗車手形を事前に購入すると、越前市内の主要観光施設が、どこでも1回500円で乗車できます。
改札を出ると、珍しいピンク色のタクシーに出合うことができました。市内でたった1台走るというこのタクシーは、通称「幸せを運ぶタクシー」。運良く乗ることができると、ラッキーなことが起こるとか起こらないとか……(笑)。では、早速タクシーに乗って次の目的地へと向かいます。
パピルス館
次にやってきたのは、JR武生駅・越前武生駅から車で約15分の場所にある、越前和紙の里「パピルス館」。越前和紙といえば、越前市で古くから伝わる伝統工芸の一つ。パピルス館では紙漉きが体験でき、世界で1枚だけの和紙を漉くことができます。
二人とも紙漉きは初めての体験。「前から一度やってみたかった」と嬉しそうです。
パピルス館で二人がチャレンジするのは、越前和紙を使った自分だけの絵馬づくり。スタッフの方に教えてもらいながら、紙漉きをしていきます。
楮(こうぞ)という植物の繊維に接着剤の役割を果たす粘度の高い植物を混ぜたものを、「桁(けた)」と呼ばれる木枠ですくっていきます。
桁を縦に揺らしたり横に揺らしたり.....繊維をからませるように揺らすのがコツ。
漉いた紙に色をつけていきます。礼菜さんは夜空を思わせる青、彩さんはパッと明るくなるような黄色を選びました。
色づけ後は乾燥機にかけるとあっという間に和紙の完成。ここから絵馬のかたちに手で切り取っていきます。
和紙は丈夫なので、予想以上に切り取るのに力がいる様子。二人とも真剣な表情です。
絵馬は、獣の目力が魔除けになる「猪目(いのめ)」というかたちだそう。一見ハート型のように見える絵馬にモフモフした和紙を貼りつけると、なんともかわいらしい仕上がりに。最後は願い事を書いて完成です。
https://www.echizenwashi.jp/facility/papyrus/
岡太神社・大瀧神社
つくった絵馬を手に、和紙の里をてくてく散歩。和紙の里周辺の大滝町、岩本町、不老(おいず)町、定友町、新在家町からなる五箇地区には、まちを流れる岡本川を中心に、今も多くの和紙業者が軒を連ねています。昔ながらの日本家屋が立ち並ぶ風情のある街並みは、のんびりとお散歩するのにぴったりです。
パピルス館から約15分歩き、到着したのは「岡太(おかもと)神社・大瀧神社」。越前和紙の歴史を語る上ではずせないと言われているこの神社には、なんと、紙の神様が祀られています。
今から約1500年前に岡本川の上流に美しい姫が現れ、「この村の清らかな川の水を使い、紙漉きを生業とすれば生活が潤うだろう」と村人に紙漉きの技を教えたそう。
これが越前和紙の発祥とされ、以来、この姫を紙祖神(しそしん)「川上御前」として祀られるようになりました。
足を踏み入れた途端、凛とした空気が流れる境内。神聖な雰囲気に、二人とも思わず背筋が伸びてしまいます。
社殿の緻密な彫刻は福井県の有名なお寺、永平寺の勅使門を作り上げた宮大工の大久保勘左衛門によるもの。時間を忘れてじっと目を凝らして見つめていたくなるような佇まいです。
先ほどつくった絵馬は、神社の境内にある絵馬掛けに奉納します。「越前和紙の聖地で、この地に伝わるものづくりを体験できるなんて感激」と礼菜さん。「和紙のルーツを知ることで、さらに思い出が深まりました」と彩さんも胸いっぱいのようでした。
https://www.echizen-tourism.jp/travel_echizen/visit_detail/36?
越前そばの里
じゃじゃん! 次にやってきたのは北陸自動車道・武生ICから車で約3分の「越前そばの里」。ここでは食事はもちろん、そば工場の見学やそば打ち体験など、越前そばをまるごと楽しめる施設です。広々とした体験工房では、子どもから大人まで本格的な越前おろし蕎麦ができる「そば打ち体験」を実施。「いつか田舎でそば屋さんをするのが夢なので、ずっとそば打ちをしたかったんです。」と彩さん。二人で初めてのそば打ちにチャレンジしてみます。
まずはそば粉に水を加える「水回し」を行います。「越前そばの里」では直営農場でそばの実を栽培。「そばってこんなにいい香りがするんだ」と、新鮮な香りを楽しんでいます。
そば粉は袋から出した瞬間から酸化が進むので、早く捏ねるのが美味しく仕上がる秘訣。普段からパンをつくる礼菜さんは、慣れた様子で生地を捏ねていきます。
しっかり捏ねた後は、生地を回転させながら、均一に四角く伸ばしていきます。 彩さんの趣味は餃子づくり。皮も手づくりしているので、生地を伸ばすのはお手の物。きれいな四角形に生地を伸ばしていきます。
均一に伸ばした生地を丁寧に折りたたみ、蕎麦切り包丁で切っていきます。包丁はこの地でつくられた伝統工芸・越前打刃物。一定の太さに切るのは難しいですが、不揃いなのが手打ちの良いところです。
打った蕎麦はその場で茹でておろし蕎麦として食べることができます。「自分たちで打ったそばの味は格別!」と、二人もすっかりそば打ちの魅力にハマってしまったようです。
https://www.echizensoba.co.jp/
ましゅまろ
手打ちそばを食べた後はおやつタイム。次はJR武生駅から徒歩5分ほどの場所にある2021年の4月にオープンした「ましゅまろ」にやってきました。
「まちが寂しくならないよう、子供たちや地元の人に美味しいを楽しんでもらいたい」という店主の思いが込められたお店では、ワッフルバーやジェラート、スムージーなど、親しみあるメニューからトレンドのドリンクまで揃っています。
礼菜さんはレモネードのジェラートを、彩さんはヨーグルトクリーム×パイナップルのワッフルを注文。片手で食べられるメニューばかりなので、まち歩きのお供にもぴったりです。
https://www.instagram.com/masyumaro0402/
小柳箪笥
「ましゅまろ」からさらに歩くこと約5分。「タンス町通り」にやってきました。約200メートルの通りには、和洋家具の建具商が10数軒集まっています。
この地で江戸後期から技術が育まれてきた越前箪笥は、越前打刃物、越前和紙に次いで平成25年に伝統的工芸品に指定。ケヤキやキリ等の木材を独自の指物技術によって加工し、鉄製金具や漆塗りで装飾されるのが大きな特徴です。
最後にやってきたのは、タンス町通りにある「kicoru」。創業100年を超えた越前箪笥の老舗、小柳箪笥店が2014年にオープンしたアトリエで、伝統的な箪笥技術を使ったオーダーメイドの家具やデザイナーとのコラボ作品の展示に加え、ワークショップなども行っています。
4代目の小柳範和さんに越前箪笥の技術について教えていただきます。何の変哲もない引き出しですが、実はからくりがしこまれているのだとか。鍵が簡単に開かないようになっていたり、引き出しの下にさらに引き出しが隠れていたりなど、複雑なからくりもあるそうです。
「すごい! これは誰かに教えたくなりますね」と大興奮の礼菜さん。
越前箪笥につけられている鉄の飾り金具にも秘密があります。「これには魔除けの意味があるんですよ。雲のようなデザインは、『西遊記』に登場する『如意棒』がモチーフ。自由自在に伸びたり縮めたり思い通りに出来ることから、願いが叶うを意味しているんです。箪笥はお守りで、家族を守るものなんですよ」と小柳さん。
箪笥づくりに欠かせない木のカンナがけも体験させてもらいました。 小柳さんがカンナをかけると、するする削れていくのにいざやってみるとうまくできません。「一つひとつの技術が組み合わさることで、完成度の高い越前箪笥が完成するんですね」と二人とも小柳さんの技術の高さに圧倒されていました。
最後は越前箪笥の技術を使った伝統的な図柄をあしらったコースターをお土産にお買い上げし、越前の旅は幕を閉じました。今回の旅、二人はどんな感想を持ったのでしょうか。「越前和紙に越前箪笥、越前そばも、体験するからこそわかる魅力がありますよね。最高に楽しかった!」と彩さん。「普段住んでいる場所とは違ったまち並みも新鮮でしたね。私もまた来たいですし、ホテルに来てくれた方も絶対に勧めたいと思います」と礼菜さんも大満足の様子でした。
越前叡智(えちぜんえいち) ~Proposing a new tourism, a journey of wisdom.~ 1500年も脈々と先人たちの技と心を受け継ぐまち。 いにしえの王が治めた「越の国」の入口、越前。 かつて日本海の向こうから最先端の技術と文化が真っ先に流入し、日本の奥深いものづくりの起源となった、叡智の集積地。 土地の自然と共生する伝統的な産業やここでくらす人々の中に、人類が次の1000年へ携えていきたい普遍の知恵が息づいています。 いまこの地で、国境や時空を越えて交流することで生まれる未来があります。 光を見つける新しい探究の旅。 ようこそ、越前へ。