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美しい陶器「無名異焼」をお土産に。多様な自然と文化の吹きだまりで感じる、佐渡金山と赤土の伝統工芸
海洋性の温暖な気候に、四季折々の自然が楽しめる新潟県佐渡市。本土から30kmも離れた離島に「無名異焼」という焼き物があります。日本最大の金銀山である佐渡金山で産出される赤土を用いて作られる、美しい陶器をご紹介いたします。
多様な自然と佐渡金山から生まれたもう一つの「金」
佐渡島は日本海側で最も大きな離島。その広さは東京23区に相当し、大佐渡、小佐渡と言われる二つの山地と、それらに挟まれた穀倉地帯が広がっています。温暖な海流がもたらす影響により、本土と比べて夏は涼しく冬は暖かい。島の大半が、国定公園や県立自然公園に指定されており、一年を通して四季折々の美しい自然が愉しめます。北緯38度線が島の中央を通過しているため、日本の南北両方にみられる植物が自生し、日本列島の植生の縮図を見ることができます。
そんな佐渡島は、金や銀の埋蔵量も多く、約400年間の間に、金は78トン、銀は23,30トンが産出されました。今日、ご紹介する無名異焼は、この佐渡金山から産出される赤土から作られます。その朱色の土はとても美しく、まるでもう一つの金であるかのようです。
無名異焼の始まりと魅力
無名異焼は、日本最大の金銀山である佐渡金山で産出される、赤土を用いて作られる焼き物です。酸化鉄やマンガンを大量に含んだ無名異土といわれる赤土は、止血剤や中風などに効能があり、かつては薬として用いられていました。19世紀初頭に、金山の坑内から採れるこの赤土を使って、楽焼が作られはじめます。最初は質がもろかったものの、硬質な焼き物にしようと試行錯誤が繰り返され、明治時代に高温で焼成することに成功し、硬く焼きしまった現在の無名異焼が完成しました。水を使って土を精製する水簸を行い、粒子を細かくした収縮率の大きい陶土は、高温で焼き締めることで、硬質で独特な光沢をもった陶器になります。
焼き締められた朱い無名異土は、非常に硬くたたくと澄んだ金属音を発し、焼成され深い朱色へと生成した色合いは、使用するほどに光沢を増し、落ち着いた趣のある風合をもちます。近年は、窯元ごとに釉薬の開発や、多様な造形が試みられ、彩溢れる製品が作られています。
文化の吹きだまりの中で発展する無名異焼
島内にある窯元を見渡すと、多種多様な無名異焼に出会います。無名異焼といえば、赤土を焼き締めたものが一般的ですが、京都の貴族文化や江戸の武家文化、そして西国の町人文化が混ざり合って育まれた佐渡の文化の特殊性は、様々なかたちで新しい無名異焼の源泉となっています。雅な絵付陶器が見つかったかと思えば、まるで佐渡の美しい海を映し取ったような深い青色の釉薬や、七色に輝く虹彩天目釉が施されたものなどが見られます。
中には、無名異土にこだわらない焼締め陶もあり、窯元や作者独自の理解に基づいた、新しい無名異焼が誕生しています。その様相は「文化の吹きだまり」として、外からの文化と古来の文化が融合する佐渡独自の文化の賜物なのでしょう。豊かな自然と魅力あふれる文化の中で美しい無名異焼に是非出会ってください。
130年続く「国三窯」伝統の継承と挑戦
130年続く窯元の国三窯が運営する陶工房「弥七郎」では、無名異土の鮮やかな朱色の他、さまざまな彩りの器に出会えます。現代的な感覚に適ったカラフルな陶器は、無理なく生活に馴染み、日常の中にささやかな彩りを添えてくれるでしょう。
工房では窯や作業場を見学でき、無名異焼が生まれる現場の空気を感じながら商品に触れることができます。
*工房に訪れる際は、時期によって見学できない場合もあるため、事前にInstagramのDMにて問い合わせをお願いします。
陶工房 弥七郎-----------------------------------------------------
新潟県佐渡市貝塚1025-1
Web:https://yashichirou876.stores.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/tami0501/
伝統を受け継ぎつつ更新に挑む工房、職人たちの日々の営み、創作をインスパイアし続ける表情豊かな自然など、従来の観光にとらわれない、ありのままの姿をご紹介していきます。これからの時代の豊かさをあなたと分かち合い、日本の産地のクラフトを未来へと手渡すために、私たちは今日も産地の魅力を発掘し、発信し続けます。 旅人には、ものづくりや職人と触れ合うことで、過去と未来をつなぐ、今日という一日を深く味わう豊かな時間を。 産地には、日本の豊かなクラフトをこれからの未来へと手渡す手助けを。 それぞれが旅を通じて、対話をしながら時間を過ごすことで、まだ見ぬ新しい日本の発見と新たな仲間とのつながりを創造していきます。