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日本のことば事典「絵馬・ご利益」
訪日旅行客向けに、難しい日本語や日本ならではの用語について解説します。今回は「絵馬(えま)」と「ご利益(ごりやく)」。神社で神様に願い事をするときに納める木の札と、神様が人間にお恵みや幸運を与えてくれることについて解説しています。
「絵馬(えま)」とは、願いごとや願いごとが叶ったお礼として、神社やお寺に奉納(ほうのう)する木製の額のことでした。現在では、神様に願いごとを届けるために奉納するものとして用いられることが多いです。
一昔前まで、上部が山型で、馬の絵が描かれた絵馬が主流でした。絵馬を最も奉納するのは受験生で、受験シーズンにはよく「合格できますように」という願いを書いた絵馬を見かけます。
生きた馬が「絵馬」の起源
絵馬に「馬」が描かれているのは、古くから馬が神様の乗り物だと神聖視されていたからです。
日本では、8世紀頃から、願いごとを叶えたいときに、生きている馬を奉納する習慣がありました。馬を奉納すると、その見返りに「ご利益(ごりやく)」として、神仏が人間にお恵みや幸運を与えてくださると考えられていたのです。しかし、高価な馬は献納する人にとって大きな経済的負担なだけでなく、寺社にとっては世話が重荷となります。そのような理由から、木や土や金属で作った等身大の馬を奉納するようになりました。
それが木製の板に描かれた馬の絵となり、さらには、安くて簡単な「絵馬」へと徐々に形を変えていったのです。
「絵馬」は、絵のある方が表で、裏側に願いごとと名前(イニシャルでもOK)などを書きます。願いごとは、欲張らずに1つだけが原則。書けたら、寺社に奉納します。そして、願いごとが叶えられたら、神様に感謝の気持ちを表すためにお礼のための参拝をしますが、より丁寧に「お礼専用絵馬」を奉納する人もいます。
ユニークな「絵馬」でご利益を!
近年では、絵馬の模様や形も多様化しました。馬の絵が描かれた絵馬以外に、アニメのキャラクターが描かれているものやユニークな形状のものもあります。
たとえば、ユネスコ世界文化遺産・下鴨神社(京都市)の一角にある「河合神社(かわいじんじゃ)」は、女性の美の神様である玉依姫命(タマヨリヒメ)が祭られています。こちらの絵馬は、柄が付いた鏡のような「鏡絵馬」。絵馬には初めから「眉・目・鼻・口」がシンプルに描かれているので、その上に自分の理想の顔になるように願いを込めてメイクをし、奉納します。
同じく京都市にあり、農民から天下人に上り詰めた豊臣秀吉(とよとみひでよし)を祭る「豊国神社(とよくにじんじゃ)」は、出世を願う「ひょうたん絵馬」で知られています。秀吉は戦いに勝つたびに、腰に付けた「ひょうたん(※1)」を高く掲げて合図にしたと言われ、それに因んで、ひょうたん型の絵馬が生まれたのです。
神仏に願いたいことは人によりさまざまですが、「絵馬」という小さなスペースに願いを書くことで、自分の努力目標がはっきりしてきます。どこかで自分にぴったりの絵馬に出合ったら、トライしてみてくださいね。
※1……ひょうたん:ウリ科の植物で、実は上下が丸く真ん中がくびれた形のものが多い。昔はくりぬいて水筒代わりに使用していた。