深い感動が味わえる能『隅田川』を英語解説付きで鑑賞しよう!
日本の伝統芸能の1つである能は、海外で鑑賞できる機会がほとんどありません。せっかく日本に来たなら、東京で能を観てはいかがでしょうか?2019年2月23日(土)に、喜多流能楽堂で開催されるプログラム「能『隅田川』~悲しみを覆う声~」では、名曲『隅田川』を英語解説や字幕付きで鑑賞できます。体験ワークショップもついた参加型公演で能の本質に触れることができる貴重な機会を、お見逃しなく!
600年間もの歴史を誇る伝統芸能「能」を東京で鑑賞
能『隅田川』撮影:石田裕
能は、室町時代(1333~1573年)に大成され、江戸時代、現代にいたるまで広く愛されてきた芸能です。日本では現在、能が好きで公演をよく観に行くファンだけではなく、趣味で能の謡(うたい)(※1)や舞(まい)を習う人も大勢います。
数ある日本の伝統芸能の中で、能は海外ではめったに鑑賞できません。なぜなら能は、屋根がついていて、特殊な構造をしている専用の舞台で演じられるからです。この能舞台の空間自体が鑑賞の見どころの1つなのです。
日本に来るなら、ぜひ現地で能を観ていただきたいです。オススメの公演が、2019年2月23日(土)に東京で開催される、英語字幕と解説付きの能公演。作品鑑賞だけでなく、特徴的な能の発声方法を体験できるワークショップがついています。さらに、チケット料金はとてもお手頃! 本記事では、はじめて能を鑑賞する方にぴったりな、公演の詳細を紹介します。
※1: 謡(うたい)... 能において、物語の状況説明やセリフなどを、独特のメロディーでうたうこと。
日本の伝統芸能「能」とは
『隅田川』平成27年3月15日 石田裕撮影
能が生まれたのは、650年以上前。にもかかわらず、現在でも多くのファンがいます。
能の特徴の1つは、能作品の多くが、日本人の記憶に鮮やかに残っている古い物語や伝説をもとに作られていることです。役者は能面をつけて、美しい装束を着て、神や英雄、伝説上の女性や鬼神などを演じます。
そして能には、夢幻能と現在能という2種類があります。
夢幻能の多くは次のような物語です。旅の途中に名所にたどり着いた旅人がその土地の者に会い、会話をする中で、その相手が有名な人物の亡霊だと判明します。その後、亡霊は旅人の夢の中で本来の姿で再び現れ、昔の出来事を語ってから、姿を消します。夢幻能では、過去と現在、あの世とこの世を行き来します。
一方、現在能では、物語は現在進行形で展開します。登場人物は過去を回想するのではなく、「今」という時間を生きています。このため、観客にも共感しやすい時間進行だといえます。
現在能の中でもっとも人気な作品の1つが『隅田川』です。能楽の創始者と言われている世阿弥の長男、元雅の作で、ベンジャミン・ブリテンにより、「カーリュー・リバー」というオペラとして作曲され、諸外国にも深く浸透しています。2月23日(土)の公演では、その『隅田川』を英語の字幕と解説付きで楽しめます。
普遍的な感動を呼び起こす『隅田川』
『隅田川』2015年3月15日 石田裕撮影
『隅田川』は、以下のような物語です。
商人に子どもを奪われた母親が、子どもを探して国をさまよい、京都から、現在の東京の東側を流れる隅田川までの距離を歩いてようやくたどり着きます。そして、まもなく子どもに会えると思って、隅田川を船で渡る際に、「子どもは病気で、ちょうど1年前の今日、このあたりで亡くなった」と、渡し守(船を漕ぐ人)に教わります。
子どもの墓の前に立った母親は、悲しみに暮れて涙を流しながら、もう一度だけ子どもに会いたいと願い、念仏(※2)を唱えます。すると、死んだはずの子どもが母親の前に現れます。母親は子どもを抱きしめようとしますが、子どもは幻のように姿を消してしまいます。
子どもはやはり死んだのだという深い悲しみの底に再び沈んだ母親は、あてもなく旅を続けます。
※2: 念仏... 仏教において、仏の姿などを思い描きながら、仏の名を口に出して唱えること。
子どもが亡霊となって現れる子方の塚(お墓)
『隅田川』は観客に深い感動を与える能ですが、その鑑賞のポイントの1つが、「悲しみ」や「喪失」の表現です。
能面(役者がつける面)は表情を変えませんが、役者の演技としぐさによって、悲しみや希望、または絶望や幻滅、さまざまな感情が表現されます。
また、能では、観客の想像力の支えとなる道具がしばしば使われます。『隅田川』では、「お墓」を象徴する舞台道具(塚)が使われており(写真)、この道具は『隅田川』の特徴の1つです。
鑑賞の際にきっとお気づきになるでしょうが、『隅田川』の中心的なテーマは、大切なものを喪った深い悲しみという、人間だれしも共感できる、普遍的な感情です。これこそが『隅田川』の人気の理由の1つかもしれません。
公演の見どころ
(左) 友枝雄人、(右) ロバート キャンベル
2月23日(土)の公演では、プロの能楽師による『隅田川』を英語字幕付きで鑑賞できるだけではなく、解説や簡単なワークショップで能という芸能の本質に触れられます。しかも、これらの体験も英語による解説や英語通訳付きで提供されます。
日本文学研究者による『隅田川』の解説
『隅田川』の公演は、日本文学の研究者であり、TVコメンテーターとしても知られているロバート キャンベル先生による30分間の解説で始まります。この作品の文学的背景についての興味深いレクチャーであり、「念仏」がこの作品でどのような役割を果たすか、母親の悲しみはどのような形で表現されるか、能の本質にかかわるお話が聞けます。
能の表現を体験できる「能発声体験」
次の30分間で、能楽師・山村康子先生による、腹式呼吸とその特殊な息遣いのレクチャーと発声体験があります。その際、『隅田川』をテキストに喜多流能楽師による発声を体験できます。
能面をつけながらもはっきりした口調で、そして澄んだ声でうたう能楽師の技に、きっと感心するに違いありません。
能『隅田川』鑑賞
公演の目玉は、喜多流能楽師・友枝雄人がシテ(※3)をつとめる『隅田川』鑑賞。前の解説を念頭において観ると、さまざまな面白い工夫に気づいて、鑑賞がさらに楽しくなるでしょう。
※3: シテ... 能における主役。
能の演出を深掘りできるアフタートーク
公演の後、参加自由の30分間のアフタートークがあります。『隅田川』には、母親が見た子どもの姿は母親だけに見えた幻想なのか? それとも、人々の念仏の声により一度だけ母親の前に姿を現した亡霊なのか? という論争があります。『隅田川』における悲しみの表現や、印象に残る場面などについてここで詳しく解説が聞けますよ。
このアフタートークに参加すれば、日本文化に対する理解が深まるに違いありません。
会場、日程、チケット予約に関する詳細
喜多能楽堂 能舞台
今回の英語字幕・解説付きの『隅田川』公演は、2019年2月23日(土)に東京の目黒駅近くにある喜多能楽堂で開催されます。開場は12:00、開演は13:00、公演終了は15:30頃を予定しており、参加自由のアフタートークはその後になります。
チケットはオンラインまたは窓口で求めることができます。チケット料金は、大人 1F席 3,000円、2F席 2,500円、学生 1F席 1,500円、2F席 1,200円です。
オンラインなら、こちらのウェブサイトが便利です:http://confetti-web.com/Noh-sumidagawa (英語対応)
日本でチケットが購入できる窓口は、Tickets Today外国人観光客向けチケットステーション店舗 (渋谷、銀座、表参道、浅草、新宿、東京タワー、秋葉原、丸の内 東京シティアイ、新宿観光案内所、京急TIC品川駅)です。
「能『隅田川』~悲しみを覆う声~」公式サイト:http://kita-noh.com/schedule/6557/
プログラムのイメージ動画
この伝統文化体験もチェック!
外国人向け伝統文化・芸能 体験・鑑賞プログラム 能「隅田川」 ~悲しみを覆う声~を開催するアーツカウンシル東京では、ほかにも様々な伝統文化体験ワークショップを行っています。
訪日観光客や短期滞在者に特にオススメなのは、東京都江戸東京博物館で開催される「演芸」や、浅草文化観光センターで開催される「日本舞踊」「長唄三味線」。
東京都江戸東京博物館での「演芸」では、おめでたい傘回しなどの曲芸や伝統的な紙切りなど、人を驚かせて楽しませる技が体験できます。2019年3月31日まで、毎週土曜日、12:30、14:00、16:00より開催される約30分間のワークショップです。詳細はこちらのページでご確認ください。
浅草文化観光センターで開催される「日本舞踊」では、日本舞踊家の指導のもとで、舞踊の基礎を身につけてから、参加者は簡単な演目を踊り、最後に、プロの舞踊家による実演を鑑賞できます。毎週日曜日(※4)、11:00、13:00、15:00より開催される約60分間のワークショップです。詳細とご予約はこちらのページでご確認ください。
「長唄三味線」(※5)では、日本の伝統的な楽器である三味線に触れて、簡単な曲を演奏できるようになります。三味線は、歌舞伎や人形浄瑠璃の音楽に使用する楽器で、この体験プログラムでは歌舞伎に使用する細竿三味線を用います。こちらは2019年1月20日(日)と2月17日(日)に11:30、13:20、15:10より開催される約60分程度のワークショップです。詳細とご予約はこちらのページでご確認ください。
※4 日本舞踊の除外日 平成31年1月20日、2月17日、3月3日
※5 長唄... 三味線伴奏の歌を中心とした日本の伝統的な音楽。
各伝統文化体験プログラムの詳細は、アーツカウンシル東京 伝統文化事業のホームページでご確認ください。
主催:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
助成・協力:東京都
Written by Ramona Taranu
Sponsored by Arts Council Tokyo