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ここは東京?——人のいない浅草寺裏「奥浅草」
「人のいない東京」といえば、夜中や早朝の時間帯。いつも混雑する場所でも、人を見かけることは少ないでしょう。とくに有名な観光地「浅草寺」の後方にある「奥浅草」では、早朝は本当に人の気配がありません。きっと、あなたはこう思うでしょう——「ここは、東京?」
1400万人が暮らす東京
東京は、日本47都道府県の中で3番目に小さな面積にもかかわらず、約1400万人がそこへ住み、生活しています。また、2018年に東京を訪れた訪日観光客は1400万人以上。非常に込み合ったエリアです。この街で、人がいない風景を見ることはできるのでしょうか?
——答えはYES。しかもそこは東京の有名な観光地「浅草寺」の後方にある「奥浅草」です。
浅草の北側エリア「奥浅草」
日本語の「奥」や「裏」には、「深く隠れた所、後方」などの意味があり、観光客がよく知る浅草寺の後方(北側)エリアは、「奥浅草」「観音裏」と呼ばれています。つまり、浅草寺観音様の後ろにある場所、という意味です。
厳格に言えば、奥浅草のエリアは浅草4丁目から日比谷線三ノ輪駅までを指します。奥浅草の表門は「千束通り商店街」です。
なぜ人がいないの?
千束通り商店街の両側には小売店や家々が連なっているのに、どうして人がいないのでしょうか。お店に店主がいなければ、商品が盗まれてしまいそうです。
答えを探るヒントは、日本の建築様式にありました。
ここの商店は伝統的な特徴をしており、店舗の道沿いの部分が陳列棚、さらに奥の場所が居住エリアです。このように店舗が併設された家の建築様式を「町屋」といいます。千束通り商店街では多くのお店で外観のリフォームがされていますが、内部の構造は依然として「町屋」のままです。
町屋は入口から、建物の一番奥まで見ることができる、一直線の構造になっています。そのためお客さんがいないときは奥の部屋で待機し、お客さんが見えたら出てくることができます。
食事処に多くある造りは、外から中の様子がわからないタイプ。大きな暖簾で入口を隠し、ガラスにはスモークがかけられているため、中をのぞくことができません。
観光客にとっては、お客さんや中の様子が分からないお店はなかなか入りづらいかもしれません。しかし地元の人にとっては、中でご飯を食べている様子を、外を通る人に見られてしまう心配がありません。
千束通り商店街ではこのようなタイプのお店が多くあり、一見すると人がいなくて寂しい様子のように見えるのです。しかし店内に入れば、温かみのある雰囲気がありますよ。
中にはとても有名な人気店も。たとえば、東京最古のおにぎり店「浅草宿六」。しかし並ぶ人の列が見られません。
なぜだかわかりますか? この辺りに住んでいる筆者が教えましょう。
人気すぎて、すぐに売り切れてしまうからです。
銭湯も近くにありますが、外から見えてしまっては大変。中に人がいても周辺は静かです。
もちろん、営業しておらず全く人がいないお店もあります。
まとめると、千束通り商店は人がいないわけではなく、通りで人を見かける機会が少ないだけなのです。
「人がいない」わけではない
浅草寺からとても近いエリアですが、観光地ではありません。いるのはここで生活をしている人たちだけ。
地域の人は、お腹がすけばレストランに行き、家のティッシュがなくなればスーパーに行く。外に出る必要があるときに、ようやく町に姿を現します。つまり、朝から夜までずっと人が外にいるわけではないのです。
しかし、周辺でいい知らせがあればもちろん人の姿が多くなります! 商店街は お得情報をアナウンスし、ここに住む人たちの情報伝達もとても早い。たとえ普段、道に人がいなくても。
イベント時には多くの人で賑わうことも
裏浅草はまったく観光客が来ないわけではありません。多くの人が集まる人気イベントも毎年行われています。ひとつは、4月に開催される「花魁道中(※1)」です。
※1:花魁道中(おいらんどうちゅう)……豪華に着飾った花魁(裏浅草エリアの位の高い遊女)が、常連のお客さんがいる場所まで迎えに行くこと。歩き方に厳しいルールがあり、習得までに3年かかるといわれていた。18世紀の終わりごろにこの習慣は無くなったとされている。
11月の夜に行われる「酉の市(※2)」では朝から晩まで、そして深夜から早朝にかけても多くの人が集まります。
※2:酉の市(とりのいち)……神社のお祭りのひとつ。今年1年の無事と、来年にいいことが起こるよう縁起がいいとされる物を路面店で販売している。
イベント時以外は、通りを歩く人の姿もまばらで、満開の桜も1人でゆっくり楽しめます(小道にある雰囲気のいいお店は、地元民の秘密基地です)。
まとめ
人の影が見当たらない奥浅草の千束通り商店街。きっと心の中で「ここは東京?」と叫んだ方もいるかもしれません。
しかし実際は奥浅草だけでなく、地方や東京のほかの場所でも、そこに住む人の生活エリアは数多くあります。
"1日中騒がしい場所"はあるのでしょうか。きっと人混みに溢れる時間は決まっていて、「人がいない」時間こそがその場所がもつ日常の顔なのでしょう。