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観光がもっと楽しくなる!日本の伝統美と最先端の技術が輝く「東京スカイツリー®」の秘密
最先端技術を駆使して作られた世界一高いタワー、東京スカイツリーは、日本の伝統文化を取り入れた、東京のランドマークともいえるでしょう。本記事では、そのすぐれた構造設計の特徴を中心に、東京スカイツリーの知られざる一面やオススメの楽しみ方を紹介します。
構造設計の視点から「東京スカイツリー®」をチェック
Picture courtesy of 東京スカイツリータウン
東京スカイツリー®は、2011年に「世界一高いタワー」としてギネスワールドレコーズ社に認定された電波塔。東京のランドマークのような存在です。その姿は近くから見ても遠くから見ても美しく、筆者は不思議な引力が働いているように感じています。
設計は最先端の技術を駆使して行われており、設計を担当した日建設計は、2013年に日本建築家協会賞を、2015年に日本建築学会賞を受賞。その功績が称えられています。
本記事では、観光前に知っておくとさらに楽しめる、東京スカイツリーの構造設計の特徴を紹介します。
3つの役割を担う東京スカイツリー
東京スカイツリーの主な役割は、地上デジタル放送の送信です。2003年12月に関東地方の地上デジタル放送が開始され、従来の電波塔からでは、都心部に立つ200メートル級の高層ビルの影響を受けてしまう恐れがありました。そのため、600メートル級の新しいタワーからの送信が必要になったのです。
タワー設立の候補地にはさまざまなエリアから提案がありました。その中でも、東武鉄道と連携を取った墨田区が選ばれ、今の場所に作られることになります。
地域の観光資源としても活躍
東京スカイツリーの展望台からは東京をはじめ関東地方一円の眺望を楽しむことができます。東京スカイツリーがある墨田区を含む周辺地域は、浅草や錦糸町、両国などといった、東京の下町文化が繁栄した場所です。そのため東京スカイツリーは、地域の特徴を取り入れた構造が設計に加えられ、東京東部の活性化に貢献する目的も担っています。
地域の文脈はタワーの高さにも取り入れられています。墨田区含む東京は、かつて「武蔵国」と呼ばれていたことから、タワーの高さを634(むさし)メートルとしたそうです。
また、東京スカイツリーとあわせて商業施設「東京ソラマチ®」やオフィス、水族館、プラネタリウムからなる「東京スカイツリータウン」も開発。今では観光地として多くの観光客が訪れています。
研究の拠点としての東京スカイツリー
電波塔と観光施設としての役割のほかに、東京スカイツリーは研究拠点としても大事な役割を果たしています。ここで、雷の電流計測、雲粒、エアロゾル、大気中二酸化炭素の温室効果ガスなどの、通年様々な研究機関による観測が行われています。
2年にわたる調査からはじまった建設
2010年8月25日撮影。Picture courtesy of 東京スカイツリータウン
東京スカイツリーの構造設計を担当したのは、株式会社日建設計です。600メートルを超えるタワーの建設は世界で初めて。設計の準備段階からさまざまな調査が行われました。
たとえば、600メートル上空にはどんな風が吹いているのか。気象観測気球を飛ばして高層での風速分布を調べたり、鉄塔に設置した風速計で定置観測を行ったりしました。
地震に備えた設計も大切です。通常の地盤調査に加えて、地下およそ3キロメートルまで地層構造を調べ、地震の時の揺れ具合を正確にシミュレーションしました。これら建設前の調査には、およそ2年もの歳月が必要だったそうです。
工事自体は2008年7月14日に着工、1325日間(竣工式は2012年3月2日)かかりました。その後も内装工事や什器の搬入、スタッフの教育などが行われ、2012年5月22日にようやく開業へと至ったそうです。
日本の伝統的な造形美を持ち合わせた構造
東京スカイツリーは、日本の伝統美と近未来的な建築を融合させた構造になっています。美しさが際立つタワーのデザインや、災害時にも耐えられる安全性など、一体どのような工夫がされてきたのでしょうか。
「大樹」を思わせるしなやかなデザイン
“スカイツリー”という名にふさわしく、タワーは「大樹」のような佇まい。地上に近い部分は三角形になっており、高くなるにつれて円形へと変化しています。
地上部分を三角形にすることで安定感を作り、さらに周辺への圧迫感や、日影などの影響を極力最小限に留めているのだそう。
シルエットは伝統的な日本建築に見られる「そり」(※1)や「むくり」(※2)を意識。しなやかな曲線はタワーの凛とした佇まいと優美な雰囲気を作り上げています。
※1: そり……上方へ反った線や曲面のこと。
※2:むくり……上方に膨らんだ線や曲面のこと。
地震や台風に耐えられる安全設計
内部は複数の三角形による骨組構造をしています。これは、超高層建築物の安全性を確保するための、「トラス構造」と呼ばれるもの。
日本は、台風が毎年上陸したり、大きな地震にも見舞われることから、高いタワーの設計条件をとても厳しくしているそう。「トラス構造は風が吹き抜けることから外壁を持たず、コンクリートのタワーに比べて重量が軽いため強風にも地震にも強い構造です。日本の電波塔には最適なので、早い段階で採用を決定しました」と、日建設計の方は言います。
「しかし、外壁を持たないトラス構造を用いて『形』を表現することはかなりの難題でした。タワーのデザインに日本の伝統的な造形美が期待されていたのです。デザイナーをはじめとする多くの日本人がかかわることで、無駄をそぎ落とし、緊張感のある現在のシルエットがなんとか完成しました。伝統的なものと新しさを兼ね備えた日本の美として感じていただけると、とても嬉しいです」と話してくれました。
心柱解説図。Picture courtesy of 日建設計
建設には、一般的に求められる耐震と耐風設計よりも、さらに厳しい工夫が施されています。首都圏を担うの放送事業者が使う電波塔のため、地震や台風などのような災害が生じたとき、このタワーから送信される情報は人々の命綱のようになるからです。
【山口県】日本3大名塔のひとつ、品格ただよう「瑠璃光寺五重塔」より
日本の伝統的な塔である「五重塔」は、いまだ地震による倒壊がありません。その秘密は、建物中央の柱である「心柱(しんばしら)」にあると推察されています。東京スカイツリーはこの構造にも似た、「心柱制振(しんばしらせいしん)」という制振システムを作り上げました。
東京スカイツリーの構造は、中央部に設けた鉄筋コンクリート造の円筒(心柱)と、外周部の鉄骨造の塔体が分離しています。心柱と塔体の揺れの周期の違いによってタワー全体の揺れが相殺される仕組みです。これにより、地震の際のタワーの揺れを最大50%低減することが可能になりました。
心柱は、直径8メートル、高さ375メートルあり、厚さは、高さによって40~60センチメートルと異なります。高さ125メートルまでは鋼材で塔体と繋がっており、上部125~375メートルにはオイルダンパーと呼ばれるもので塔体と繋がっています。
オイルダンパーは、クッションのような役割。心柱が揺れたときに塔体にぶつからないようにしています。
心柱の最下端は、直径1.4メートルの免震用の積層ゴム6機で支えられており、直接地上に接していません。
ちなみに、心柱の中に避難階段が2つの方向から設置されています。展望台から地上への非常階段を使った場合、天望デッキから1Fまで約40分、天望回廊からは約1時間で避難できます。
もっと知りたい方は東京スカイツリーのギャラリーへ
タワーの建設ストーリーや設計の特徴をもっと知りたい方は、1Fにある「SKYTREE GALLERY」を訪れてみましょう。東京スカイツリーのキャラクターたちが描かれた、楽しく学べる展示コーナーです。ここでは東京スカイツリーを含めた世界のタワーや、隅田川の両岸に広がる下町の風景を描いた「隅田川デジタル絵巻」などが楽しめます。
4Fの入り口の近くにある展示コーナー「SUPER CRAFT TREE」では、東京スカイツリーの造形美である「そり」「むくり」や「心柱」など12のテーマが、下町の伝統工芸によるアートオブジェにとして鑑賞できます。
アートパネルを鑑賞しながら天望デッキへ
東京スカイツリーの構造を理解したら、天望デッキに向かいましょう。天望デッキに向かう「天望シャトル」は、40人乗りの規模の大容量エレベーターとしては世界最速クラスの分速600メートルエレベーター。中は四季の空をテーマにしたアートパネルで装飾されています。
上の写真に映っているのは秋の「祭の空」がテーマ。神輿などで使われる装飾「飾金物(かざりかなもの)」で作られています。装飾は天望シャトルごとに異なります。下りるときには違うシャトルに乗ってみてくださいね。
地上から350メートルの高さにある天望デッキからは、東京の眺望が遠くまで見渡せます。浅草の浅草寺をはじめ、六本木ヒルズや新国立競技場など、東京を代表する建物が見つけられるでしょう。空気の澄んだ日には富士山も見られます。
天望デッキ内には、ドリンクを片手に休憩しながら、ゆっくり眺めが楽しめる「SKYTREE CAFE」が2店舗あります。
展望台から下りたら、5Fと1Fにあるショップに寄って、おみやげ探しはいかがでしょうか。東京スカイツリーをモチーフにした雑貨やおもちゃ、下町の伝統工芸など魅力的な商品がそろっています。
夜は光り輝く東京スカイツリーを堪能!
夜は、少し離れた場所からライティングを楽しんでみましょう。2020年2月に、日本の伝統文化にちなんだ3種類のライティングがリニューアルしました。躍動感あふれる多彩な演出が見られます。
淡いブルーを基調にした「粋」は隅田川の水がモチーフ。動きのある爽やかな光は力強さを表しています。“江戸紫”をテーマにした「雅」は金箔のようなきらめきもあり、時を表現した優雅な動きが特徴。縁起のよい色とされてきた橘色が基調の「幟(のぼり)」は、賑わいや元気さをテーマにしています。
東京スカイツリーの公式HPでは、その日のライティング情報を伝えています。訪れる前に確認してみてもよいですね。
最先端技術と伝統文化が出合う東京スカイツリー
遠くから眺めたり、中から東京の街並みを眺めたりとさまざまな楽しみ方がある東京スカイツリー。作られた経緯や構造を知ることで、さらに楽しい体験が生まれるでしょう。東京に滞在したら、日本文化がつまった東京スカイツリーをぜひ訪れてみてください。
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In cooperation with 東京スカイツリータウン
Main image courtesy of 東京スカイツリータウン
2016年よりMATCHA編集者。 能楽をはじめとする日本の舞台芸術に魅せられて2012年に来日。同年から生け花(池坊)と茶道(表千家)を習っています。 勤務時間外は短編小説や劇評を書いていて、作品を総合文学ウェブメディア「文学金魚」でお読みいただけます。