山形・鶴岡で日本の精神文化に出会う―神域と精進料理の旅
豊かな自然と、仏教をはじめとする精神文化で注目を集める東北地方。なかでも山形県・鶴岡市はオススメの旅行地です。山岳信仰の聖地・出羽三山のある鶴岡では、さまざまな体験を通して地域の信仰や自然観に触れることができます。自分の精神を整える貴重な機会にもなりそうです。
東北・鶴岡へ
太古の昔から、人々は自然に対して畏敬の念を抱いてきました。自然の美しさや複雑さ、そして力強さは、現代を生きる我々の心も揺さぶります。
古(いにしえ)の人々は自然をどのように感じ、自然の力をどう生かそうとしてきたのか。山形県鶴岡市でその答えが見つかるかもしれません。
鶴岡には、日本三大修験道(※1)の伝統が息づく出羽三山をはじめ、神社仏閣が多数。山中で修行をする修験道の行者”山伏”とともに出羽三山の神社や寺を訪れ、地域で発展した信仰について知ることができます。
地元の山菜を使った精進料理を堪能すれば、人々の信仰や自然観をさらに深く感じ取れるでしょう。
本記事では、禅や修験道に所縁のある神社や寺とともに、鶴岡の精神文化と関わりの深い精進料理を味わえる場所を紹介します。
※1 :修験道... 山に籠もって厳しい修行を行うことにより悟りを得ることを目的とする日本古来の山岳信仰。
修験道の世界観を体験できる「出羽三山」
出羽三山とは、山形県内に広がる羽黒山(はぐろさん)、月山(がっさん)、湯殿山(ゆどのさん)の総称で、古来から山岳信仰の地として栄えました。出羽三山巡りは死と再生をたどる「生まれかわりの旅」とされ、現在も修行として山に登る人が絶えません。
それぞれの山の特徴とそこでできる体験を紹介します。
1. 羽黒山―山伏と一緒に三神合祭殿へ参拝
生まれ変わりの旅で最初に訪れるのは羽黒山。現世利益を司る山とされます。山頂の神社「三神合祭殿」には出羽三山の3柱の神が祀られています。
山頂や渓谷にある月山・湯殿山では冬季の参拝や祭典を執行できないことから、三神合祭殿は羽黒山に建立されました。ここに参拝すれば出羽三山の3つの霊山にお参りしたことになると信じられているのだとか。
月山と湯殿山と異なり、羽黒山には冬期も登れます(※2)。山頂までは登山のほか、バス(※3)で訪れることもできます。オススメは説明を受けながら山頂まで登るガイドツアー。出羽三山の文化的背景を理解するのに役立ちます。
※2 登山できる期間は、月山の場合は7月から9月まで、湯殿山の場合は6月から10月までに限られています。
※3 羽黒山の山頂に行く路線バスは1日に10本程度で、1時間に1本程度になります。
ガイドは現役の山伏、あるいは一般のガイドから選べます。山伏のガイドとのツアーで、ご希望の方は修験者の白装束を着て参加できます。
ガイドの申し込みは一週間前までに、羽黒町観光協会まで(お問い合わせページ)。DEGAM鶴岡ツーリズムビューローのお問い合わせページからも申し込み(日本語、英語、フランス語対応)可能です。
羽黒山の入り口にある随神門(ずいしんもん)を通り、山頂まで登ります。参道の羽黒山杉並木は「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で3つ星を獲得した美景スポット。杉並木の中にある東北最古の塔、羽黒山 五重塔は特に風情があり、印象的です。
三神合祭殿に参拝した後は、本殿に隣接する宿坊「斎館(さいかん)」で精進料理を味わいましょう。料理には山菜がふんだんに使われています。
ご希望の方には「斎館」のシェフ・伊藤新吉(いとう・しんきち)さんが、精進料理について解説してくれます。伊藤氏と一緒に山菜を収穫し、胡麻豆腐などの精進料理を作る体験教室も開かれているそうです。
随神門の前には30軒ほどの宿坊があり、羽黒山の「生まれ変わりの旅」の前に精進料理をいただくことも可能。
参拝前の精進料理は修行のための力をつけ身体を整えるという意味で「精進潔斎(しょうじんけっさい)」と呼ばれます(※各宿坊の精進料理は事前予約が必要です。羽黒町観光協会にご連絡ください)。
2. 修行としての登山:月山の頂を目指す旅
高さ1,984メートルの月山は、出羽三山のうちもっとも高い山。死後の安楽を願う山とされ、生まれ変わりの旅では羽黒山の次に参拝します。
山頂まで登れるのは7月から10月上旬まで(月山神社の参拝は7月1日〜9月15日まで)。比較的なだらかな山ですが、登山用のウェアやシューズなど十分な装備が必須です。
ふもとと山頂の気温の差は激しく、上着は欠かせません。飲み物も持参しておくようにしましょう。羽黒山から登るコースは初心者でも楽しめますが、湯殿山のほうに降りるコースは中級者向けなので、ご注意ください。
道すがら、大自然を感じる場所を通ります。
なかでも弥陀ヶ原湿原は、ニッコウキスゲやミズバショウなど130種類以上の可憐な花が咲き誇る、日本でも有数の高山植物の宝庫です。
ガイドと一緒に、この修行としての登山を体験したい方は「DEGAM鶴岡ツーリズムビューロー」のお問い合わせページから申し込みを。ガイドの解説を聞けば、登山がさらに奥深いものになるでしょう。
山頂にある月山神社の歴史は、奈良時代(710〜784)までさかのぼるとされます。
朝出発し夕方に戻る、日帰り登山が可能。事前予約をすれば山小屋への宿泊もできます。早朝には美しい雲海やご来光が見られるのも、月山の大きな魅力です。
3. 修行の旅の出口・湯殿山を訪れよう
生まれ変わりの旅の最後に訪れるのは、湯殿山。修行の旅の”出口”とされます。この山でもっとも神聖とされる場所に、ご神体を祀る本宮があります。
「語るなかれ」との戒めがあり、ご神体について話すのはタブーとされています。ぜひ自分で訪れてみてください。開山時期は通常5月(2021年は6月)~10月です。
湯殿山ではもっとも厳しい修行のひとつ・滝行を体験できます。体験では現役の山伏と一緒に山に登り、滝行の方法を教えてもらえます。
滝行の申し込みは「湯殿山参籠所(さんろうじょ)」まで(オンライン申し込み・電話)。通訳ガイドや宿泊ツアーの依頼も可能です。
参籠所では精進料理も提供しています。修行の旅の出口である湯殿山は、もっとも俗世に近いとされ、ここでいただく精進料理には魚も含まれます。ベジタリアンの方は予約時にお知らせを。
湯殿山付近のもうひとつの見どころは「大日坊(だいにちぼう)」という寺。厳しい修行を経て生きながら仏になった”即身仏(そくしんぶつ)”が祀られています。
寺ではお祓いを受け、寺と即身仏の説明を聞いたのちに、仏像の拝観ができます。英語のパンフレットもあります。
坐禅体験ができる「善寳寺」
出羽三山のほかに、鶴岡市内で訪れたい禅寺を紹介しましょう。
「善寳寺(ぜんぽうじ)」は曹洞宗の三大祈祷寺(※4)のひとつ。海の守護神・龍神を祀る禅寺としても知られています。境内にある五重塔や五百羅漢堂が見事で、神秘的な雰囲気に包まれる場所です。
※4 曹洞宗の三大祈祷寺……曹洞宗を代表する祈りの場。ほかは愛知県の妙厳寺、神奈川県の最乗寺。
寺では坐禅体験が可能(※事前予約が必要)。最初に僧侶が座り方や呼吸の仕方、姿勢など座禅の基本を教えてくれます。レクチャーの後、参加者は実際に座禅を組み、心身統一を目指します。
朝粥と座禅をセットで予約することもできます。禅の教えに則った食事作法も教えてもらえます。
玉川寺で庭園鑑賞
国指定の名勝である庭園のある「玉川寺(ぎょくせんじ)」にも訪れてみてください。庭は山中ならではの地形をいかした造り。寺の縁側から庭園をゆっくり鑑賞して、季節の風情を感じてみましょう。
抹茶と和菓子が味わえるのも、玉川寺の魅力。和菓子の形と色は季節の特徴を表しています。
ここでも精進料理が味わえますよ。こちらは仏教の戒律にもとづいた、野菜を中心としたメニュー。ヴィーガンの方もいただけます。
食事の前には「五観の偈(ごかんのげ)」という祈りを捧げます。公式HPから予約すれば、お祈りの原文と翻訳をもらって、事前に練習できますよ。
玉川寺で精進料理をいただくと、記念の箸とタオルがもらえます。住職が在寺なら、坐禅の指導も受けられるそうです。
東北の深い精神文化に出会う旅
旅行ガイドブック『ロンリープラネット』や雑誌『ナショナルジオグラフィック』で「2020年に訪れるべき世界の旅行先」に選ばれた東北はいま、世界中から注目を浴びています。
東北でも特にオススメなのは、記事で紹介した出羽三山の巡礼です。日本文化の深層に触れたい方はぜひ鶴岡へ。そして鶴岡から東北各地の旅に出かけるのもよいでしょう。
鶴岡市はユネスコ食文化創造都市(Creative City of Gastronomy)にも指定されています。鶴岡を訪れたら精進料理や郷土料理を味わうのもお忘れなく。
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All photos courtesy of 一般社団法人DEGAM 鶴岡ツーリズムビューロー
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