山形・山岳信仰の聖地と海沿いを行く。羽黒山、酒田、鶴岡を巡るサイクリング旅
この記事では、山形県の沿岸部のサイクリングスポットをピックアップ。山岳信仰が残る出羽三山の羽黒山、北前船で栄えた酒田、絶景の夕日で知られる由良海岸の見どころを、米国人プロサイクリスト、マイケル・ライス氏のコメントとともに紹介します。
鶴岡駅から出発!出羽三山をめぐるサイクリング旅
この記事では、山形県沿岸部のサイクリングスポットを紹介。日本に住むアメリカ人プロサイクリストのマイケル・ライス氏のコメントも含めながら、出羽三山の羽黒山、酒田、由良海岸といった名所を紹介します。
日本には山を崇拝の対象とする山岳信仰があります。人々の山へ抱く畏敬の念から生まれた信仰とされ、山形県鶴岡の出羽三山(月山・羽黒山・湯殿山の総称)はとくに、信仰の場として有名です。
江戸時代には「西の伊勢参り、東の奥参り」と呼ばれ、お伊勢参りとともに人々に親しまれた「出羽三山参り」。今日でも出羽三山には山中で修行をする修験者や、山の神社への参拝者が多く訪れています。
出羽三山周辺以外にも、山形には酒田、由良海岸といった魅力的な港街があります。この地域ならではの壮大な雰囲気や自然の美しさを全身で感じるには、五感で地域を楽しむことができるサイクリングがぴったり。
サイクリングの出発地点はJR鶴岡駅。出羽三山への玄関口であることから、2002年に「東北の駅百選」に選ばれた駅です。
自転車は駅前でレンタルできます。自分で周遊するのもよいですが、東北で訪日観光客向けのツアーを開催する「The Hidden Japan」のサイクリングツアーにすれば、地域の見どころを丁寧に案内してもらえますよ。
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自転車は、駅前の複合施設「つるおか食文化市場 FOODEVER」のインフォメーションセンターでレンタルしましょう。
自転車をレンタルできるのは4〜11月で、冬期は貸し出しを行なっていません。レンタル料は無料。訪日観光客はパスポートの提示が必要です。
レンタルした自転車は当日の営業時間内(9:00〜17:00)に返却するようにしてください。
レンタルの詳細は「つるおか観光ナビ」をご覧ください。
サイクリングツアー
Picture courtesy of The Hidden Japan
The Hidden Japanのサイクリングツアーでは、地元で山伏(※1)として修行するガイドが「羽黒山五重塔」、「月山高原牧場」、「玉川寺」といった見どころを案内してくれます。
道中では抹茶と和菓子、精進料理を味わえますよ。サイクリングツアーの開催は4月から10月にかけて。詳細は「The Hidden Japan」の公式HPをご覧ください。
※1:山伏……山中で修行をする修験道の行者。修験道とは山で厳しい修行を行い、悟りを得ることを目的とする山岳信仰のこと。
出羽三山の入り口「羽黒山大鳥居」から神域へ
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出羽三山の山岳信仰の根幹にあるのは輪廻転生です。三山を巡る旅は「生まれかわりの旅」とされ、山はそれぞれ現世・過去・未来の意味をもちます。
人里にもっとも近い羽黒山は現在の象徴。人々はまず羽黒山を訪れ、現世の幸福を願います。
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羽黒山の南にある月山は過去の象徴。天高くそびえる美しい姿から、先祖の霊が集まると信じられています。羽黒山への参拝後、人々はここで死後の極楽浄土行きを願うのです。
未来の象徴とされる湯殿山は月山の西側にあります。山の中腹に位置する湯殿山神社の御神体は、温泉の湧き出る赤い巨岩です。生まれかわりの旅では、来世の幸福を願って最後に湯殿山を訪れます。
出羽三山を回れば新しい自分に生まれ変わることができると、修験者は信じているのだそう。
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出羽三山へと至る山形県道47号鶴岡羽黒線には、高さ23.8メートル、幅31.6メートルの「羽黒山大鳥居」がそびえます。
鳥居は神域への玄関口。荘厳な佇まいに畏敬の念が湧いてくるでしょう。
大鳥居に向かって自転車を走らせたマイケルさんは「自転車で走り抜けると、山の麓に現れる大きな鳥居。神々しい風景に心奪われることでしょう」とにっこり。
国宝「羽黒山五重塔」の神秘的な雰囲気
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羽黒山の入り口には随神門(ずいしんもん)という赤い門があります。脇の岩にかけられているのは神域と現世を分ける注連縄(しめなわ)です。この門の先が出羽三山の神域とされています。
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羽黒山の見どころは、国宝に指定された「羽黒山五重塔」。
随神門から羽黒山五重塔へ向かう参道の両脇には、杉の木が並んでいます。そのうちの1本・爺杉(じじすぎ)は樹齢1000年を超える古杉で、国の天然記念物に指定されています。
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五重塔は爺杉のそばにあります。1000年以上前に豪勢を誇った武士・平将門(たいらのまさかど)が創建したとされ、高さは29メートル。現在の建物は600年以上前に再建されたもので、東北地方ではもっとも古い塔です。
羽黒山五重塔を訪れたマイケルさんは「日本文化の精神を深く知りたい方にうってつけの場所」と語ります。「緑深い森を越えた先の、山の神を祭る荘厳な五重塔。ここを訪れれば、神々がなぜこの場に住み着いたのか分かるはずです」。
北前船で栄えた酒田へ
出羽三山の北にある港町・酒田は、北前船(きたまえぶね)の寄港地として栄えた場所。北前船とは、18世紀半ばから末にかけて日本海を往来した商船のことで、船主自身が商人を兼ねていたのが特徴です。
船主は、ある港で安い米や塩、地方の特産品を仕入れ、それを別の港に行って高値で販売し、差額を得ていました。酒田には北前船貿易にまつわる史跡がいまも残っています。
1万トン以上の米を収容できる「山居倉庫」
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北前船文化を知るうえで外せないのが「山居倉庫」です。1893年に米の保管を目的に建てられ、米の積出港として賑わった酒田の歴史を支えました。
9棟並ぶ白壁・土蔵(※2)造りの建物には合計10,800トンの米を収容できるのだとか。倉庫裏のケヤキは当初、夏の高温防止のために植えられました。今日ケヤキ並木は、酒田を象徴する風景として愛されています。
ケヤキ並木を前にし、「まるで夢を見ているような気分」と話すマイケルさん。「ここでは北前船でやってきた多くの命に思いをはせることができます」。
※2:土蔵……周りを泥と漆喰(しっくい)で塗った蔵。
フォトスポット「日和山公園」で北前船を撮影
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北前船の歴史に触れられるもうひとつのスポットといえば「日和山公園(ひよりやまこうえん)」。
航海の安全を祈って船主が寄進した石造の灯篭や、方角石、日本最古の木造灯台が残っています。北前船を1/2のサイズで再現した模型もありますよ。
秘境のそば店「生石大松家」
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「生石大松家(おいしおおまつや)」は、酒田市中部の山中にあるそば店。地元の湧き水とそば粉で作る手打ちそば、囲炉裏で焼く田楽が名物です。
そばにはコシがあり、噛むほどにそばの香ばしい風味が味わえます。
田楽コース
地産地消をコンセプトにする同店では、田楽の食材の多くを地元で仕入れています。野菜も肉もみずみずしく鮮度抜群。炭火であぶると、素材そのものの旨味や甘みがギュッと凝縮されるかのよう。ひとくち噛めば、食材の甘さと炭の香りが口いっぱいに広がります。
食後には甘酸っぱい山葡萄ジュースを。サイクリングのための水分補給にもぴったりです。
百年余の歴史ある旧家で味わう山形の味覚に、「古き良き時代にタイムスリップしたかのよう」と、食事の時間を楽しんだマイケルさん。
「温かな食事はお腹だけでなく、雪国の厳しい寒さに耐える人々の心まで癒してきました。食事をしながら、古の人々の暮らしを感じることができるはず」とオススメしてくれました。
由良海岸から眺める夕日の絶景
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酒田市から南西に日本海沿いを走っていくと、鶴岡市には夕日の名所・由良海岸があります。きめの細かい白砂も特徴です。
由良海岸は水質やビーチの美しさ、安全性など水遊びに適した条件が揃うことから、環境省から快水浴場百選にも選ばれています。
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由良海岸のランドマークは白山島(はくさんじま)。3000万年前の火山噴火でできた島で、山頂に「白山神社(はくさんじんじゃ)」が建っています。神社は航海の無事と豊漁にご利益があるのだそう。
263段の石段を登ったところにある社殿は、日本海を見渡す絶好のビュースポットです。
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白山島と対岸は、長さ177メートルの赤い橋で結ばれています。自転車で進むと、まるで海の上を走っているかのような開放感を味わえます!
日本全国の走行経験があるマイケルさんは、日本の自然風景の中でも日本海の美しさは格別と感じているそう。
由良海岸の夕日を前に、「白山島の西に夕日が沈むロマンチックな光景は"息を呑む"や"壮観"という言葉では到底表現できません」と絶賛。
あつみ温泉で癒しの足湯と海鮮料理を堪能
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白山島を過ぎた先には、温海川(あつみがわ)の川沿いに広がるあつみ温泉。春は桜、夏は川魚の釣り、秋は鮭の遡上、冬は雪景色と四季折々の見どころがあります。
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温泉街には温海地域の方言でネーミングした足湯を3カ所設置 (あんべ湯、もっけ湯、もっしぇ湯)。それぞれは「健康」、「ありがとう」、「ちょっと面白い」という意味です。また、もっしぇ湯自体は足湯カフェとなっていて、足湯に入りながら食事もできます。
朝の温泉街で自転車を走らせたマイケルさんは「温泉のもつ癒しの力が町全体に広がっているかのよう……」とリラックスした様子。
「早磯ドライブイン」で新鮮な海産物を味わう
日本海に面したあつみ温泉の名物といえば、新鮮な魚介類です。
お手頃でボリュームたっぷりの海鮮料理を食べたい方は、「道の駅あつみ しゃりん」の食堂「早磯(はやいそ)ドライブイン」へ。
食堂の海産物は鮮度抜群。食堂のオーナーが海産物の仕入れを担当しています。毎日、近くの鼠ヶ関港(ねずがせきこう)に足を運び、その日仕入れた魚介類を料理に使っています。
「日替り丼」は地元の旬の魚を食べたい方に大人気。丼の上には、紅えび、タイ、ヒラメなど9種類の厚切りの刺身が盛り付けられています。どの魚も脂がのっていて、歯ごたえも抜群です。仕入れ内容によって、日替わり丼の魚の種類は異なります。
自転車で山岳信仰、日本海の風情を体感
羽黒山をはじめとした出羽三山では、山岳信仰と神秘的な自然に触れることができます。酒田、由良海岸、あつみ温泉など日本海沿いの地域では、美しい海岸線やおいしい海鮮料理も満喫できますよ。
この記事では山形の沿岸部のサイクリングの楽しみ方を紹介しましたが、内陸部も見どころ豊富。新鮮なフルーツや母なる川最上川の景色が待っています。
内陸部のサイクリングの旅については、こちらの記事をご覧ください!
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Main image courtesy of Yamagata Prefecture
Written by Chen
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