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愛媛県大洲市に佇む邸宅「團上邸」は歴史文化、アートが交わり合う新たな文化交流の場として、甦ろうとしている武家屋敷です。消えゆく日本の美意識や文化を世界に向けて発信する拠点となるべく取り組んでいるアーティストインレジデンスをご紹介します。
愛媛県大洲市は、四国・愛媛の南西部に位置する美しい城下町です。歴史や伝統が色濃く残っており、その魅力は単なる観光地としての価値にとどまりません。大洲市では、文化や自然の持続可能性に真摯に向き合い、未来へつなぐ取り組みが積極的に行われています。
この記事では、大洲市の武家屋敷「團上邸」が取り組むアーティストインレジデンスについて、自然画家・絵美さんの事例を交えてご紹介します。
愛媛県生まれの絵美さんは、美容専門学校を卒業し、百貨店の美容部員として勤務するかたわらヒト、虫、木々、そして宿るものを描く活動を始めました。
幼少期から目には見えない世界を感じることがあったという絵美さんは、「目には見えないものがあり、絵では描けるものがある。目には見えないモノ・コトを描くことで、本来そこにある尊きモノ、自然との共存を願い伝えていきたい」という想いで制作活動をされています。
そんな絵美さんが、ご縁あって大洲市のお隣、内子町の神社の拝殿にて制作をしていたところ、季節が変わり神社が寒く、日中も暗くなってきたので、次の制作場所を探している時に、團上邸での制作のお声がかかったそうです。神社という神様の元での制作体験は貴重だったそうで、感謝の気持ちで、できる限りの掃除をして毎回制作をスタートさせていたという絵美さん。実はその内子町の神社は大洲市の神社「少彦名神社」との関係も深いそうで、なんとも素敵なご縁を感じたそうです。
2024年の冬、武家屋敷での制作は、冬の寒さが厳しかったものの、歴史を全身で感じながら集中して制作をすることができたそうです。一日の移り行く太陽の色や、差し込む光が好きだったという絵美さん。庭園のさまざまな植物と息をともにするのが心地よかったそうです。
そんな作品制作中のある日、大洲市が取り組むアートイベント「OZU ARTS and CRAFTS」のお話が絵美さんの元に舞い込んできました。大洲市の方と交流し、お話しをさせていただきながら、大洲市を流れる肱川に暮らす鵜のこと、鵜の命繋ぐ巣のこと、歴史と人々について学び、インスピレーションを得た絵美さんは、イベントに向けて、團上邸でアイデアを昇華させていきました。
絵美さんは「OZU ARTS and CRAFTS」のために7点の作品を團上邸で制作しました。
・「U」 ウ 鵜
木蝋の作品1点、和紙の作品2点
・「SU」 ス 鵜の巣
・「SUSU」 スス 鵜のたくさんの巣
・「aoisen」 アオイセン 肱川流れ
大洲市の夏の風物詩、鵜飼の鵜を描いた作品、そして鵜飼の舞台となる肱川を描いた作品です。
展示会場となったのは、大洲市の城下町エリアにある築140年の古民家ゲストハウス「はたごや霧中」です。
絵美さんは作品たちが喜んでくれるように、鵜が群れで飛んでいる作品は、窓の光の方向を向くように天井から展示したり、巣の作品は一番奥に守られるよう配置しました。そしてそのそばには、肱川の作品を展示しました。
「アートや、たくさんのご来場者の皆さまとのふれあいを通して、大洲の豊かな歴史や象徴となるモノの存在をご覧いただけたのかな」という絵美さんの想いは、来場者の皆さんにも届いていたようです。
特に、今回の展示で使用された木蝋を作られている方や、大洲の手すき和紙をすいた職人の皆さまも来場してくださり、絵美さんと一緒に作品を鑑賞いただけたことが嬉しかったそうです。
絵美さんは大洲市のお隣、内子町の天神産紙工場にて和紙すきの体験もされました。
絵美さんは、アートを通じて市内外の多くの人と交流することで、大洲市の新たな魅力を発見し、町の成長を実感できたと言います。團上邸という武家屋敷が「今も新しい文化を生み出す生きた文化財」として残り続けるべく取り組むアーティストインレジデンスにふさわしい貴重な体験をしていただきました。
以下絵美さんからのコメントです。
「素晴らしい歴史は、町を歩いているだけで感じ取ることができます。カラダとココロで感じた歴史はどういうものなのか知ってみたくなります。遥か昔に息づかいが今も色濃く残っており、それを大切の繋げている人々がいる。わたしは、その一員になりたいと思いました。」
「これからアーティストインレジデンスに挑戦なさるかたへ、歴史や関わる人々を大切に思いながら制作ができる場が團上邸だと思います。」
團上邸は、歴史ある武家屋敷でのアーティストインレジデンスに取り組むことで、世代を越えた文化財の持続的な運用に挑んでいます。国内外のアーティストを招き、文化交流と創作の場を提供することで、日本文化の魅力を世界に発信する架け橋となることを目指しています。
團上邸は、持続可能な運営に向けて建物修繕費用を募るクラウドファンディングも実施しています。
アーティストインレジデンスや施設見学に関心のある方は、以下Instagramアカウントまでご連絡ください。
江戸後期に四国愛媛の藩主の隠居屋敷として建てられた邸宅。現代アート、茶の湯、武家文化の調和を目指し愛媛県で活躍するアーティストや研究者の創作や研究活動を推進しています。