旅の準備はじめよう
日本のロックの魅力とは?ーX JAPANからMAN WITH A MISSIONまで
「ヴィジュアル系」など、日本のロックミュージックは極めて独特な音楽とスタイルを持っています。海外でも大変な人気で、ファンたちが日本語を学び、訪日する理由にもなっています。本記事では、日本のロックを愛してやまないドイツ人の筆者が詳しくご紹介!
日本のロック――外見だけではない音楽
MAN WITH A MISSIONのメンバー2人と筆者。
海外で人気があり、「日本についてもっと知りたい」と思わせる現代文化は漫画とアニメだけではありません。ヴィジュアル系、またはヴィジュアル・ロックと呼ばれる音楽に興味がある人々は数多く、実際に日本に来て文化や言葉への理解を深めています。
実は筆者も、その1人。母国ドイツで親友からX JAPANを紹介され、日本の音楽を知りました。私たちはもともと80〜90年代のロックに夢中でしたが、ある日その友人がインターネットでこの日本のクレイジーなバンドを見つけたのです。私はあっという間にX JAPANという唯一無二な存在にハマり、日本の音楽について調べるうちに、日本そのものにも興味を持つようになりました。
ヴィジュアル系とは?
GOTCHAROCKAは2000年代初期に人気を博した、ヴィジュアル系の新世代を代表するロックバンド/Picture courtesy of GOTCHAROCKA
ヴィジュアル系は視覚的なイメージを重視し、人目を引くだけでなく、多くの場合中性的なスタイルを貫いているバンドを指します。
そのため、単なる様式として片付けられがちです。筋金入りのロック好きから、その見た目だけで相手にされないことも多々あります。しかしKISSやガンズ・アンド・ローゼズ、モトリー・クルー、アリス・クーパーといった90年代の人気バンドのことを思い浮かべれば、化粧とヘアスプレーを多用してキラキラした衣装に身を包みながら素晴らしい音楽を生み出しているのは、日本のバンドだけではないことがお分かりでしょう。
ヴォーカルのKAMIJOはステージでの圧倒的なパフォーマンスで知られる/Picture courtesy of KAMIJO
そのイメージには、日本文化の影響が見られます。古典芸能の歌舞伎では、男性の役者が男女両方を演じています。ヴィジュアル系もこの中性的な要素を取り入れており、男性アーティストが女性と間違えられることもしばしばです。
一方で、デヴィッド・ボウイのように、男性と女性の境界線を行き来することで両性具有的魅力を持った素晴らしいアーティストもいます。実は、ボウイ自身も日本の美術や文化に深く傾倒していました。
多様な日本のロック
ソロ活動では主に英語で歌っているLUNA SEAのギタリスト、INORAN/Picture courtesy of Dino Publishers
西洋のロックと同様、日本のロックはソフトロックから昔ながらのロックンロール、メタルまで幅広い内容を持ちます。共通しているのは歌詞が日本語で、ところどころ英語を取り入れていることです。一方で、海外進出を念頭に置いて歌詞を英語にしているバンドもいます。
日本の音楽は言葉よりも感性や独自性を重視します。日本のバンドのファンで、初めはほとんど日本語が分からず、音楽を通して理解を深めた海外の人も多くいます。
日本のロックは国内でほかのジャンルにも影響を及ぼしていて、音楽の世界に触発された漫画もあるほどです。特に有名なシリーズが『NANA』。それよりも短いシリーズで90年代のドイツで人気があったアニメが『愛してナイト』、海外では『Rock 'n' Roll Kids』というタイトルで知られていました。
ここからは、日本で影響力の大きいバンドをいくつか紹介します。国外でも有名なグループばかりで、海外公演も数多く行なっています。
X JAPAN――日本を代表するバンド
Picture courtesy of X JAPAN
X JAPANは、日本のロックを語る際に外せないバンドです。リーダーでドラマー/ピアニストのYOSHIKIは世界にその名をとどろかせています。彼の活動拠点もアメリカ合衆国です。
X JAPANはヴィジュアル系を世に広めた実績があります。活動を始めた頃、どのレーベルとも契約できなかった時にYOSHIKIは自身でエクスタシーレコーズを設立しました。このレーベルはLUNA SEAのように現在も活動している有名なバンドを世に出しています。
「NHK’s Songs Of Tokyo - Introducing Japanese Music To The World」より
彼らの音楽は攻撃的で、テンポも非常に早いのが特徴です。その個性的な作品においてはYOSHIKIのピアノが重要な役割を果たしています。
X Japanはコーチェラ・フェスティバルに初めて参加した、現時点では唯一の日本人バンドであります。彼らの物語は公式ドキュメンタリーである『We are X』に詳しく描かれています。
hide――唯一無二の存在
Picture courtesy of HEADWAX ORGANIZATION
hideは元X Japanのギタリストでした。個性的なキャラクターや派手な衣装、ピンク色の髪で名を馳せたhideは漫画の登場人物のような風貌ながら、音楽に関しては天賦の才を発揮しました。
彼はソロ活動を始め、90年代前半に自身のレーベルHEADWAX ORGANIZATIONを設立。このレーベルを通して、個人的に支援したいアーティストたちに活動の場を与えようと計画しました。ソロアーティストとしての音楽やスタイルは、現代でも語り尽くせないほど独自のものです。
hideの曲を演奏するLUNA SEAのSUGIZO/「LUNATIC FEST. 2018 - Join An Exciting Celebration of Japanese Music!」より
ここまで過去形で語った理由は、hideが1998年に亡くなったからです(自殺と報道されています)。日本にいるファンは、今でも彼の誕生日と命日に集まってその音楽を偲んでいます。
これまで開催された追悼コンサートでは多くの著名なアーティストたちが登場して、hideの人生と曲を称えました。これからもファンや同時代のアーティストたちの賞賛と敬意を受け続けることでしょう。
Netflixで配信中のhideのドキュメンタリー『Junk Story』では、かけがえのないこのアーティストの軌跡を観ることができます。彼が亡くなった後、最後のツアーでバンドがその喪失感を克服する姿も描かれています。
LUNA SEA――沸騰する力と才能
Picture courtesy of LUNA SEA
LUNA SEAはhideに見いだされ、エクスタシーレコーズと契約しました。素晴らしい才能が集結したバンドです。メンバー全員がソロ活動を行ない、ヴォーカルの河村隆一は高い歌唱力で"the voice"とも呼ばれています。
LUNA SEAの楽曲はメンバー全員の共同制作です。それぞれのメンバーが楽曲を制作し、また各々に好みのスタイルがあるので、アルバムには多彩な作品が収録されています。
Picture courtesy of LUNA SEA
X JAPANほど海外での知名度が高くないのは、控えめなプロモーション活動が理由なのかもしれません。せめて一度はライヴを体験してほしいバンドなので、この点は実に残念です。5人のアーティストが発揮する一体感と力は、比類なきものです。
Picture courtesy of SUGIZO
Luna Seaでもっとも有名なメンバーは、ギタリストのSUGIZOです。日本人ギタリストの中でも実力はトップクラス。ヴァイオリニストでもあり、難民支援や脱原発の立場で積極的に発言する活動家でもあります。SUGIZOはX JAPANでもリードギターを担当しているので、日本の二大バンドのリードギタリストということになります。
HYDE――言い訳をしないロック
Picture courtesy of HYDE
HYDEはL'Arc~en~Cielのヴォーカリストとしてデビュー。L'Arc~en~Cielはポップミュージックのバンドとして捉えられていますが、HYDEはソロでロックの世界に進出しています。
まず、彼はHydeとしてソロ活動を開始しました。それから彼は、hide with Spread Beaverにも所属しているギタリストのK.A.ZとともにロックバンドVAMPSを結成。VAMPSは、現在は活動を休止しています。
HYDEはソロ、バンドの両方で海外公演を行なうことでも有名です。また日本人アーティストには珍しく、海外のバンドとも共演しています。数年前にはフィンランドのチェロ・バンド、APOCALYPTICAとVAMPSとの共作『Sin in Justice』を発表、APOCALYPTICAは日本でのVAMPSのコンサートに前座として出演もしました。
MIYAVI――日本のサムライ・ギタリスト
「NHK’s Songs Of Tokyo - Introducing Japanese Music To The World」より
MIYAVIは、影響力のある日本人ロックアーティストとしては若い世代に属しています。ギターの演奏技術とパフォーマンスで名を上げ、ソロ活動を始めてからは国際的にも活躍するようになりました。MIYAVIは「サムライ・ギタリスト」として知られています。
MIYAVIは海外では俳優としても活動しています。『不屈の男 アンブロークン』においては著名なハリウッド俳優たちと共演、活発な音楽活動と並行して、漫画を原作とした日本映画『BLEACH』にも出演しました。
DIR EN GREY――日本版ショック・ロック
「LUNATIC FEST. 2018 - Join An Exciting Celebration of Japanese Music!」より
DIR EN GREYは90年代後半にヴィジュアル系の新たな地平を開拓しました。デビュー当時は典型的なヴィジュアル系バンドで、初期のアルバム『Gauze』はX JAPANのYoshikiとの共同制作アルバムです。
その後DIR EN GREYは当時日本では珍しかったショック・ロックを演奏して、自分たちの個性を確立していきます。以来、そのスタイルは揺らいでいません。ハードロックが好きで血にまみれたステージパフォーマンスに耐えられる人にしか勧められませんが、素晴らしいライヴバンドです。彼らのむき出しの感情は、驚くほど魅力的で真に迫ってきます。
MAN WITH A MISSION――ロックを奏でる狼の集団
Picture courtesy of MAN WITH A MISSION
MAN WITH A MISSIONは、メンバーが狼のマスクを着けてステージに立ち、素顔を明らかにしていないので「狼バンド」として知られています。マスクは特殊撮影の専門家によって製作され、メンバーの区別がつくようにそれぞれ異なる表情がついています。
このアイデアは、何とか有名になろうと苦労している頃、「一度見たら忘れられない強烈な何か」を求めて思いついたもの。SNSだけでプロモーション活動を行なってきましたが、現在では世界中をツアーで巡る日々です。
彼らの音楽はヒップホップも含めてさまざまなジャンルの影響を受けたものです。デビュー当初は日本語で歌っていましたが、海外での人気が高まるのに合わせて英語の歌詞も取り入れています。
日本のロックミュージック――外見だけでは分からない音楽
日本のバンドを見た目だけで判断して、「お坊ちゃん(pretty boy)」の音楽と呼ぶ人たちもいます。個性的で中性的な容姿は、特に男性ファンの神経を逆なですることが多いようです。
それでもロックミュージックのファンであれば、この記事で紹介したバンドをぜひ聴いてみてください。日本の音楽は驚くほど多様で、海外の音楽に比べて構成の面でも独自の工夫があります。もしかしたら自分にとって最高のバンドが見つかるかもしれませんよ。
本記事で紹介したアーティストたちの公式サイトもぜひご覧ください。
GOTCHAROCKA:http://www.gotcharocka.com/
KAMIJO:https://chateau-agency.com/kamijo/
INORAN:http://inoran.org/
X JAPAN:http://www.xjapan.com/index.html
YOSHIKI:https://www.yoshiki.net/
hide:http://www.hide-city.com/
LUNA SEA:https://www.lunasea.jp/?lang=ja
河村隆一:https://www.kawamura-fc.com/
SUGIZO:https://sugizo.com/top.html
L'Arc~en~Ciel:https://www.larc-en-ciel.com/
HYDE:https://www.hydexxx.com/
VAMPS:http://www.vampsxxx.com/
MIYAVI:http://myv382tokyo.com/
DIR EN GREY:https://direngrey.co.jp/
MAN WITH MISSION:https://www.mwamjapan.info/
Main image courtesy of LUNA SEA from LUNATIC FEST. 2018 - Join An Exciting Celebration of Japanese Music!
ドイツ・ベルリン生まれ、2008年より東京在住。ドイツ語と英語のネイティブ。
3匹のネコの母。好きなものは、90年代のロック音楽、ボクシング、歴史、チョコレートや甘いもの、ピスタチオ味のなんでも、ネコ、コウモリ、龍、吸血鬼、そして全てのキモカワイイもの。
好きな作家はアン・ライス。好きなバンドはLUNA SEA。
オススメの映画はデヴィッド・ボウイと坂本龍一出演の『戦場のクリスマス』。