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日本のことば事典「床の間」
訪日旅行客向けに、難しい日本語や日本ならではの用語について解説します。今回は、和室には必ずと言ってよいほどある「床の間(とこのま)」についての解説です。
「床の間(とこのま)」とは、畳の部屋がある日本の住宅に設けられた飾りスペースのことです。客間の奥の一段高い位置にあり、掛軸(かけじく)や花瓶、置物などが飾られています。
武士の時代からの伝統 「床の間」は、16世紀ごろ、貴族に替わって力を持ち始めた武士が、禅宗寺院の影響を受けた「書院造り(しょいんづくり)」という建築様式の中で設けられました。畳を部屋に敷き詰めた部屋の一角には、2枚の棚板を左右から吊った「違い棚(ちがいだな)」、机と障子(しょうじ)で構成された「書院」とともに、美しい木材などで構成された「床の間」がつくられ、書院造りのシンボル的な存在となっています。
武士たちは、中国(宋の時代)との貿易で手に入れた高価な茶碗や水墨画(すいぼくが)などを飾り、権威を演出する場として、「床の間」を大いに利用したのです。 また、部屋の正面に設けられた「床の間」を背に座るのは身分の高い人という、上下関係を示すルールは、現代の日本でも受け継がれています。床の間がないオフィスでも、ゲストを部屋の奥に入れることは、一般的なビジネスマナーです。
「床の間」あなたの印象は?
書院造りは日本の和室の基本となり、武士の時代が終わったあと、庶民の間でも「床の間」を設けることが広がりました。長い間、日本人にとって、和室といえば「床の間」があることが当たり前でしたが、洋間中心で、限られたスペースしかない現代日本の住宅事情では「床の間」を設ける人は少なくなっています。
とはいえ、日本旅館などでは、今でもよく見かけます。季節の花が活けられ、書画が掛けられた「床の間」は、人が座ったり寝たりするような実用的な場所ではなく、どことなく「神聖な空間」という雰囲気が漂っているものです。畳1枚ほどの狭いスペースであることが多いのですが、美しく整えられた床の間の前で、そんな不思議な感覚を味わってみてください。
photos by PIXTA