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アメリカに輸出された最初の日本茶。隈研吾の建築「茶Cafe&Shop chabaco」で味わうさしま茶の魅力
お茶の産地というと京都宇治や静岡が思い浮かびますが、1854年の開国後、最初に海を越えアメリカへ渡った茶葉は茨城県で生産された「さしま茶」でした。隈研吾氏設計のカフェ 「茶Cafe&Shop chabaco」は、歴史を知り、さしま茶の茶葉で作られたお茶や和紅茶を愉しむ交流の場になっています。
日本茶の貿易の基礎を築いた「さしま茶」
「さしま茶? どこのお茶?」
この名前を聞いた多くの人は、こんな疑問を抱くだろうと思います。さしま茶(猿島茶)とは、茨城県西部の猿島台地を産地とする茶葉から作られたお茶のこと。この地域は、夏は暑く冬は寒冷な内陸型気候のため、香り豊かな茶葉が育つと言われています。
江戸時代には水運の要所であった猿島台地。江戸幕府が開港したのち、地元の豪農によってお茶栽培が盛んになりました。そして、アメリカに輸出された最初の日本茶として、さしま茶は名を馳せたのです。明治時代には日本国内のお茶産業における貿易の基礎を築いたともいわれています。
お茶に魅了され、10年間の会社員を経て茶園経営に転身
花水さんご夫妻(写真左:理夫さん、右:晃子さん)
さしま茶のおいしさに魅了された1人が、茨城県で「茶Cafe&Shop chabaco」を営む花水理夫(はなみず みちお)さん。お茶の世界に足を踏み入れる前は、会社員として10年ほど企業で働いていました。「会社員時代はお茶よりもコーヒーを飲むことが多かった」と言います。
しかし、茨城県の茶園「長野園」のオーナーの娘さん・晃子(あきこ)さんとの出会いをきっかけに、お茶にどんどん興味をもち始めたそう。
茨城県のお茶産業はいま、後継者不足をはじめとしたさまざまな問題を抱えています。大量生産・大量供給の飲料メーカーが提携しているお茶の産地と比べると、認知度も高いとは言えません。そんな状況を知ってもなお、理夫さんの関心は止まりませんでした。
お茶についてゼロから学び、今では指折りの茶師となったのです。
地域の気候を生かした和紅茶の栽培
緑茶の市場は今、手ごろな値段でおいしく飲めるペットボトル飲料が多くを占めています。茶葉から淹れたお茶を飲むためにお茶屋へ行く人は減少し、家でお茶を淹れる人も少なくなりました。
この現状の中で理夫さんが見つけた希望の道が、国産紅茶の振興です。
現在の日本では、紅茶は輸入品がほとんど。国内に特定の生産地域はありません。しかし調べてみると、さしま茶を生産するこの地域の気候は、紅茶の茶葉の栽培に適していたことがわかりました。
これに気づいた理夫さんは、インドや台湾の製茶技術を参考に、国内各地にいる和紅茶生産者のトップクラスの方の教えを受けながら研究・研鑽し続け、10年かけて長野園オリジナルの紅茶品種「SASHIMA CRAFT TEA 」を開発。そのうち3つの名柄は日本国産紅茶のコンテストで受賞したのです。
隈研吾氏デザインの空間で、唯一無二のお茶カフェを作る
猿島郡の境町には、隈研吾事務所が設計・改築した建物が全部で6棟あります。その棟のうち、長野園のさしま茶を楽しみたい方は、2020年9月に再オープンした「モンテネグロ会館」へ行きましょう。
もともとは、アルゼンチンとの友好交流のために建てられた青年研修施設でした。1937年の設立から80年以上を経て今、両国の永続的な友好の証と建物の老朽化対策のため、隈健吾氏により改築されました。
この建物では、歴史が刻まれた材木を多くの場所で巧みに再利用しています。入り口には記念碑やずっと使われてきた瓦も設置され、さまざまな年代を表す素材が自然と合わさっています。
長野園には、境町の自治体から声がかかりました。「めったにない機会だと思い、すぐに快諾しました」と理夫さん。そして、温かな雰囲気に満ちた、自宅にいるかのようにくつろげるお茶カフェ「茶Cafe&Shop chabaco」を開設することになったそうです。
店内の両側の壁には、「モンテネグロ会館」の沿革の紹介と、アルゼンチンとの交流を示す写真が展示されていました。
展示の説明には、境町とアルゼンチンの交流の起源はペリーによる黒船来航の時までさかのぼるとあります。文書記録管理を担当した境町出身の関宿藩士と、アルゼンチンの乗組員が最初に交流した1853年が始まりだそうです。
人々が楽しみに訪れる、おいしいお茶とスイーツ
カフェには20種類近くのドリンクメニューがあります。筆者は迷いに迷って、冷たい煎茶スパークリング(税抜480円)とSASHIMA CRAFT TEAの紅茶ポット(税抜700円/1ポット)を選びました。どちらも自家栽培の茶葉で作られたものです。
店内のスツールに座り、お茶を淹れる様子を眺めることもできます。店内に用意されているスツールは、茶葉の保存用に使用されていた茶箱を改造して作られているそうです。
煎茶スパークリングの茶葉は、自家茶園のまろやかな深蒸し茶をベースに、味と香りのアクセントとしてレモングラスをブレンドしています。爽やかでなめらかな喉越しが特徴的。暖かな春や暑い夏にぴったりの一杯です!
SASHIMA CRAFT TEAは、まろやかで上品な口当たり。受賞にふさわしい紅茶であることを実感します。
晃子さんがメニュー開発を担当するスイーツも人気の商品。体に負担をかけず、大人も子どもも安心して食べられるような食材や調味料選びを心がけているそうです。
たとえば、手作りのあんこには砂糖を一切入れず、本来の甘さを引き立てています。写真の甘酒あんバタートースト(税抜550円)は、発酵バターが天然の香りを醸し出し、あんことの相性抜群。こんなに飽きることのないトーストを食べたのは初めてです!
華やかな見た目のフラワーケーキ(税抜500円)は、生クリームやアイシングの代わりに白あんをベースとし、しっとりとなめらかな味わい。脂質と糖質を抑えながら、スイーツを思いきり楽しむことができます。
日々の飲み物に「和」の要素を
茶園を営む方の強い想いが、日本茶文化を次世代へ残し、さらに和紅茶のような新しい飲み方も生み出しているのでしょう。茶葉から淹れるおいしいお茶が、日常生活にふたたび浸透することを願っています。
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In cooperation with 長野園