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日本酒がつなぐ地域の輪 石川県「宗玄酒造」が作る地酒と地域での取り組み
宗玄酒造は、石川県能登半島でもっとも古い酒造会社。地酒を作るだけでなく、その地域と深いつながりも持っています。酒蔵の見学や、地域のために取り組んだ足こぎ式のトロッコ鉄道「のトロ」に乗車して、能登半島と宗玄酒造の魅力に触れてみてください。
上質な米、水が揃った日本酒の名産地「能登半島」
石川県の能登半島には、17社もの酒造会社が本社を構えています。このうち11社は北部の奥能登(おくのと)と呼ばれる地域にあります。
酒造りには上質な米と清冽な水が必須。能登半島は、どちらの条件も満たしている日本でも有数の地域です。そのため数多くの醸造所が集まっているのです。
現在も能登半島では歴史ある酒造がおいしい日本酒を毎年製造し、地域の文化にも深い影響を与え続けています。
能登半島の酒蔵を支える「宗玄酒造」
宗玄酒造も、この奥能登で上質な日本酒を作ってきた酒造のひとつ。ほのかに甘く上品な味わいの宗玄純米酒は、冷やして飲むとさっぱりとした舌触りで、醬油につけた刺身とよく合う、宗玄酒造自慢の日本酒です。
宗玄酒造は1768年創業、能登でもっとも古い酒造会社です。能登の杜氏(とうじ)発祥の酒蔵と言われ、ここで修業した職人たちによって、日本酒作りにおける能登流の一派が形成されました。
杜氏とは醸造所の責任者であり、酒の品質と味を任されている存在です。宗玄酒造の吟醸酒は特に高い評価を受けており、全国規模の鑑評会でも数年連続して入賞しています。
宗玄酒造は地酒と呼ばれる日本酒の製造に力を入れてきました。
地酒は地元の酒といった意味に加え、小規模な醸造所で造られる、高品質で玄人好みのお酒という印象もあります。大量生産されているお酒とは、対照的な存在です。
地酒は自然や気候で品質が左右されるため、醸造所の立地と深いつながりがあります。酒作りに欠かせない軟水や、お酒とともに楽しむ海産物など、地酒の味を決める上で重要な要素です。
酒作りを実地で見てみよう
宗玄酒造の蔵見学に参加すると、酒造りの工程だけでなく、各々の段階でどれほど注意が払われているか理解できます。
初冬から春にかけての仕込み期間を除いて、蔵見学は行なわれます。お酒の試飲販売は1年中開催されているので、こちらもお見逃しなく!
今回、営業部門を率いる浅田星太郎(あさだほしたろう)さんにお会いして、酒蔵を案内していただきました。
浅田さんはお話を聞いているだけで、日本酒に対する情熱が伝わってくる方。上質な日本酒の素晴らしさを知ってもらうため、国内外での広報活動も行なっているそうです。
蔵見学では酒造りの様々な工程を見ることができます。
各工程はフロアごとに分かれており、米が用意されている最上階から始まります。発酵を促す麹(※1)・米・水から「酒母(しゅぼ)」と呼ばれる、アルコール発酵に必要な酵母が作られます。
酒母を原料にしているのが「もろみ」。もろみは容量1トンの槽の中で熟成され、日本酒が醸成されていきます。日本酒作りの一般的な規模としては小さい槽だそうですが、品質管理を重視する宗玄酒造はこのサイズを採用しているとのこと。
杜氏の技術と経験はもちろん、蔵人(※2)たちの腕前が酒作りのすべての工程において重要となります。宗玄酒造のお酒の品質と出来栄えは、彼らの手にかかっています。
見学が終わると試飲会が開催され、参加者は店舗にある日本酒を試飲できます。製造過程を見た後に試飲ができるのは、贅沢ですね。
※1:麹(こうじ)……発酵食品の製造に用いる菌。
※2:蔵人(くらびと)……杜氏の下で日本酒作りをする職人。
地域活性化への貢献
都市部から離れた日本の地域と同様に、奥能登も人口が減少し、経済規模が縮小しつつあります。その結果、2005年には能登の北部と南部をつないでいた「のと鉄道能登線」が廃線となってしまいました。
そこで宗玄酒造は2013年に、能登線跡地とトンネルの一部を修復して活用することにしたのです。これは地域社会を活気づける「奥のとエリア活性化プロジェクト」の一環として行なわれました。
写真提供:宗玄酒造
修復工事が完了すると、宗玄酒造は足こぎ式のトロッコ鉄道、「のトロ」の運行を始めました。この事業は地域社会への貢献と計画の理念が認められて2013年のグッドデザイン賞を受賞しています。
この土地を訪れた人たちは、海沿いを走るのトロで眺望を楽しむことができます。事前に予約が必要なので「info@sougen-shuzou.com」までご連絡ください。
トンネルも修復され、日本酒の貯蔵庫として活用されています。この中では気温が12度前後に保たれているので、熟成には最適な環境とのこと。ここで貯蔵することにより、まろやかで深い味わいが加わるそうです。地下に出来たワインセラーを思わせるような施設ですね。
※残念ながらトンネルは一般公開されていません。
少し奥まった一角には、若い人が描いたような、独特のラベルに包まれた酒瓶が2本置いてありました。これは浅田さんが発案されたプロジェクト、5年後に向けたタイムカプセル酒です。
写真提供:宗玄酒造
近隣の中学生たちが田植えをして、稲刈りを行なった米でお酒を作り、彼らが作ったラベルを貼ってトンネルの貯蔵庫で保管。中学卒業から5年後の20歳の年に、彼らがタイムカプセルを開けるため戻ってきます。
そして成人を祝って「タイムカプセル酒」で乾杯するのです。
写真提供:宗玄酒造
地酒を通して、若い世代とその地域を繋いでいく素敵な発想。さらに、日本酒の素晴らしさを未来へ伝えていける企画でもありますね。
おわりに
宗玄酒造は能登に居を構え、豊かな伝統と歴史を感じさせるお酒を作っています。この立地を活かしながら様々な地域との縁を育み、日本酒のよさと飲んだ時の喜びを伝えていくでしょう。
※このコンテンツは英語版の記事を日本語へ翻訳しました。
Born in 1959. Currently working as a freelance translator, after 21 years in various companies.