史上初の6年連続最多金賞!日本酒大国・福島の“金賞酒蔵”を訪ねてみた
福島は、実は日本酒大国! 日本全国を対象とした新酒鑑評会で、全国で初めて6年連続最多の金賞を獲得しています。そのおいしさの秘密はどこにあるのでしょうか? 今回は、11年連続で金賞を受賞した「国権酒造」、福島以外ではほとんど飲めない幻の酒を造る「四家酒造店」、安全・安心な酒造りを追求し続ける「渡辺酒造本店」、異なる魅力を持つ、3つの酒蔵を訪ねました。
6年連続最多の金賞数!福島の日本酒の魅力とは?
年に1度、日本全国から選りすぐりの日本酒が集まる大会があります。それが、「全国新酒鑑評会」。
100年以上続く伝統あるコンクールで、800を超える日本中の酒蔵が、もっとも自信のある日本酒を出品しています。
中でも近年、注目を集めているのが、福島の日本酒。なんと2013年から2018年まで、史上初めて6年連続で日本最多の金賞を受賞しているのです。
その理由を探るべく、2018年に金賞を受賞した3つの酒蔵を訪ねました。そこで生産者たちが語ったのは、意外な言葉でした。
「目指すのは華やかな主役のお酒ではなく、料理を邪魔しない、脇役の日本酒です」
控えめ。でも、飲んだ人たちを虜にするお酒。底知れぬ福島の日本酒、その魅力を探ってみましょう。
1.国権酒造(南会津)ー丁寧な酒造りで11年連続金賞受賞!
朝8:30。本格的な冬が始まる11月下旬の冷え切った朝、もうもうと上がる白い湯気の下で、男たちが作業をしています。
まず訪ねたのは、国権酒造(こっけんしゅぞう)。ここで造られる日本酒「国権」は、全国新酒鑑評会で11年連続して金賞を受賞(2008〜2018年)。
福島を代表するといっても過言ではない酒造です。
そもそも、日本酒はどうやって造るのでしょうか? 今回は特別に、酒蔵(日本酒を造る工場)を見学させてもらいました。国権酒造の酒造りを見てみましょう!
使うのは、日本酒専用の米
一日の作業は、米を蒸すところから始まります。
日本酒は、米を使って造るお酒。通常日本で食べられる米とは違って、「酒米(さかまい)」という、発酵が進みやすい、日本酒造りに適した米を使います。
蒸した米を、放冷機と呼ばれる機械に入れて冷まし、麹菌(※1)を振りかけます。このときの米の温度が重要で、冷めすぎても、熱いままでもいけません。
※1:麹菌(こうじきん):東洋にのみ存在すると言われている微生物の一種。古くから醤油や味噌、日本酒などに使われ、日本人の食文化にとっては欠かせない存在。
仕込みはスピード勝負!
ちょうどよい温度を見計らい、すばやく袋に米をつめて、急いで麹室(こうじむろ)という部屋に持っていきます。
このあとは麹を増殖させる段階になるため、健全に増殖させる温度を保つことが大切なのです。
麹室で2〜3日かけて麹菌を増殖させ、麹を完成させます。
並行して進めるのが、酒母(しゅぼ)造り。小さなタンクに酵母や乳酸菌、麹、水などを入れて発酵させます。酒母はこのあとの工程で、発酵がスムーズに進む役割を果たします。
1ヶ月弱発酵させ、完成!
いよいよ作業は大詰め! 先ほどの酒母と、蒸した米、麹、水を、1つの大きなタンクに入れて発酵させます。
一度に入れると発酵が進みづらいため、3段階に分けて入れるのがポイント。この状態を醪(もろみ)と言います。
すでに酒蔵内にはお酒のよい匂いが漂っています。ときどきかき混ぜて温度を調整しながら、ゆっくりと、おいしい日本酒が熟成されていきます。
2週間〜1ヶ月ほどゆっくりと発酵させ、醪を搾れば日本酒の完成です!
酒造りに欠かせない、おいしい水
国権酒造がある場所は、福島の中でも南会津(みなみあいづ)というエリア。冬は寒さが厳しく、豪雪地帯として知られています。
国権酒造では、その雪解け水を酒造りに使っています。「軟水で、口当たりがまろやか。この水を使うことで、クセのない日本酒に仕上がるのです」
こう語るのは、国権酒造の社長・細井信浩(ほそい・のぶひろ)さん。
南会津のきれいな水が造り出す銘酒、「国権」(こっけん)。
口をつけると、まずふわっと華やかな香りが鼻に抜けます。そして雪解け水から出来た酒がまろやかに舌に広がりました。後味はスッキリとしていて、いつの間にかなくなってしまいます。
国権酒造の入口に立つ、社長の細井さん
「造りたいのは、“かっぱえびせん”のような日本酒なんです(笑)」(細井さん)。
“かっぱえびせん”とは、日本で人気のあるスナック。「やめられない、とまらない」がキャッチコピーです。
いくら飲んでも、物足りない。いくら飲んでも、飲み飽きない。そんな日本酒「国権」を生み出す湯気が、今日も国権酒造からもくもくと上がっています。
2.四家酒造店(いわき)ーいわきで飲みたい地元の酒
続いてご紹介するのは、四家酒造店(しけしゅぞうてん)。福島以外ではほとんど目にすることがないという幻の日本酒、「又兵衛(またべえ)」を造っている酒蔵です。
「又兵衛」は、全国新酒鑑評会で15回も金賞を受賞しており、そのレベルの高さは保証つき。にもかかわらず、製造地である“いわきエリア”での消費率がなんと95%。
福島どころか、いわき以外にはほとんど出回ることがない、とにかく地元の人に愛されているお酒なのです。
歴史ある酒蔵の、変わらない酒造り
まず、重厚な門構えに圧倒されます。築約100年経つ建物で、何度も修復しながら酒造りを続けているそう。
四家酒造店があるのは、福島の中でもいわきというエリア。国権酒造が内陸の豪雪地帯だったのに対して、いわきは沿岸部にあり、比較的温暖な気候です。
日本酒造りが難しい土地とされ、四家酒造店以外に酒蔵は1、2軒しかありません。
創業は、1845年。170年以上にわたって、いわきの地で酒造りをしてきました。
酒蔵の中には、かつて2Fに荷物を運ぶために使われていた木製の滑車が残り、歴史を感じさせる現場です。
いわきは寒暖の差が激しいため、温度調節には細心の注意を払います。
年末から春にかけて酒造りの仕込みの時期になると、岩手県から杜氏(とうじ)と呼ばれる酒造りの職人がやってきて、約半年間、住み込みで酒造りに励みます。
取材に伺ったこの日は、酒母がまるで生きているように泡立っていました。果物のような、お酒の香りが広がっています。
四家酒造が造る「又兵衛」は、すっきりとした味わいが特徴。いわきは海に近いため、海鮮料理などにも合う爽やかな味わいが好まれるそうです。
「いわきで獲れる梨などを入れて、サングリア風にしてもおいしいですよ」と四家酒造店社長の四家久央(しけ・ひさお)さんは話します。
実際に飲んでみると、フルーティな香りが広がりますが、あとに甘みが残り過ぎることがなく、とても爽やかな飲み心地。もう1杯、もう1杯とついつい酒が進んでしまいます。
酒蔵の一角には賞状がずらりと並ぶ
こんなにおいしいのに、なぜ全国展開しないのですか?
聞くと、「いや、そういうのは得意じゃないから」と苦笑する四家さん。しかし、その実力は著名な俳優など数々の人を虜にし、今も日本全国のファンから注文が入ります。
「特別なことはしてない。でも、一生懸命つくっています」(四家さん)
いわき以外ではほとんど手に入らない「又兵衛」。一度飲めば、いわきの人たちが、このお酒を外に出したくない気持ちがわかるはず。
ぜひいわきに来て、味わってみてください。
3.渡辺酒造本店(郡山)ー安心して、毎日飲める酒を
福島の日本酒は、安心して飲んで大丈夫。そのことを証明したのがこの人、渡辺酒造本店の渡辺康広(わたなべ・やすひろ)さんです。
安心・安全を数字で示す
渡辺さんは自ら資料を作り、農家に説明して回った
2011年、福島第一原発の事故が起きたとき、渡辺さんは、福島県酒造組合で、酒米を各酒蔵に供給する責任者を務めていました。
「まず、数字を添えて安全性を示そう」。すぐさま福島の3つの酒蔵で検査を実施し、事故の約10日後には、問題ない数値であることを発表しました。
渡辺さんは大学で土壌学を専門的に学び、放射性物質が土壌や農作物に及ぼす影響なども熟知していました。そのため、素早い対応ができたのです。
厳しい安全基準
次に、渡辺さんはどうしたら安全な米が作れるかを考えました。
日本酒造りに大切なのは米です。事故の後、福島の米農家は、放射性物質であるセシウムが米につかないか、非常に心配していました。
そこで、渡辺さんはセシウムと、肥料に使われるカリウムの化学的性質が似ている点に着目。「カリウム肥料を使えば、セシウムの吸収を抑制できる」と気づいたのです。
渡辺さんは、カリウム肥料を使うように福島中の農家に呼びかけました。そうしてできた米から、基準値を超える放射性物質が検出されることはありませんでした。もちろん、その米から作られた日本酒からも検出されていません。
現在、日本が定める一般食品(日本酒を含む)の安全基準は、放射性セシウムが1kgあたり100ベクレル以下というもの。これは、EU(1,250ベクレル/kg)や、アメリカ(1,200ベクレル/kg)と比べても非常に厳しい基準です。
しかし、福島の日本酒は、日本が定める安全基準のさらに10分の1、「1kgあたり10ベクレル以下」という、この中でももっとも厳しい基準を設けています。そして、事故が起きてから今まで、基準値を超える値が出たことはありません。
“酔わせない”日本酒造り
そんな渡辺さんが作る日本酒は、全体の95%以上が福島県産米使用の「雪小町(ゆきこまち)」。
日本酒造りは、子どもを育てるようだと渡辺さんは言います。醪(もろみ)の入ったタンクの温度が低いとわかると、夜中でも飛び起きて、二重三重にマットを巻いて温めます。
「そうやって造ったお酒には、作り手の心が入っていると思うんです」(渡辺さん)
愛情を込めてできた「雪小町(ゆきこまち)」は、一口飲めば、体に沁みわたるおいしさ。思わずたくさん飲んでしまいますが、不思議と二日酔いに悩まされることはありません。
「酔わせない酒造りを目指しています」と語る渡辺さん。経験とデータから数式を導き出し、体が分解しやすい日本酒を造り出しているそうです。「数式は、企業秘密です」
緻密な理論に基づいて、今日も安全とおいしさを追求しています。
驚くほどおいしい、福島の日本酒
「福島の日本酒には、驚きがあります。1口飲めば、そのおいしさにまず驚きます。さらにいろんな種類を飲めば、エリアや酒蔵によってこんなにも個性が違うのかとまた驚きます」(渡辺酒造本店・渡辺さん)
福島は、日本で3番目に広い面積を持つ県。それぞれ日本酒を造る環境や条件がまったく異なります。
その中での6年連続最多金賞受賞は、各エリアの酒蔵が非常に高いレベルの日本酒を造り出していることを証明していると言えるでしょう。
今回の取材の最後に、国権酒造の細井さんは言いました。「うちのことはいいから、福島の酒のことを伝えてください。福島の日本酒がおいしいということを」
どこまでも控えめ、でも、驚くほどおいしい。ぜひ福島で、最高の日本酒を味わってみてください。
福島の日本酒をもっと知りたい人へ
「福の酒」では、東京を中心とした福島の日本酒が飲めるお店や、蔵元の情報を紹介しています。店舗は現在地や銘柄から検索可能。本記事紹介の日本酒が飲めるお店もありますよ!
日本一のふくしまの酒「福の酒」:https://www.fukunosake.com/
また「Fukushima Sake Story」では、福島の日本酒の魅力を映像などでわかりやすく紹介しています。
福島の日本酒 - Fukushima Sake Story:https://fukushima-sake.com/ja/
Photos by Eri Tashiro
In cooperation with 国権酒造株式会社、合名会社四家酒造店、有限会社渡辺酒造本店
Sponsored by 経済産業省