だから、私たちは福島に住む 在住外国人インタビュー
福島を訪れる海外の観光客は、年々増えており、近年では、年間の延べ訪日宿泊者数が10万人を超えています。その中には、福島に住むことを選択した人も。なぜ、彼ら/彼女たちは福島に住むことにしたのでしょうか。実際に福島在住の外国人の方に聞きました。
彼らが福島に住む理由
Pictures courtesy of 福島県観光物産交流協会(左上・右下)
季節によって多彩な表情や美しさを見せる、福島。春は桜、秋は紅葉、そして冬には一面の雪景色が見られます。
今、福島にある日本の原風景に魅せられて、訪れる訪日客が急増しています。近年では、外国人の年間の延べ宿泊者数は10万人を超えています。
その中には、福島に住むことを決めた人たちもいます。なぜ、彼ら/彼女らは、福島に住むことにしたのでしょうか。
福島在住の2人の外国人の方に話を聞きました。
1.「私がいるから大丈夫!」:福島県の魅力を海外に届けるゾーイさん
最初にご紹介するのは、ゾーイ・ヴィンセント(Zoë Vincent)さん。
福島県に住んで3年目になる、イギリス人女性です。
福島県全体と、福島市
彼女が勤務するのは、福島市にある「福島県観光物産交流協会」。福島市は地図のように、福島県の北部にあります。
彼女の仕事は海外から福島県へ、観光客を呼び込むこと。
仕事内容は多岐にわたりますが、そのうちの1つが、ウェブサイト「Rediscover Fukushima」。
ゾーイさんが福島県の各地を取材、撮影し、英語で執筆するブログです。
旅行者にとことん寄り添うブログ
Picture courtesy of 福島県観光物産交流協会
彼女のモットーは「自分で足を運んだところを、体験したままに書く」こと。
ブログの記事は130を超えますが、紹介している場所のほとんどは、ゾーイさんが実際に訪れ、よかったと感じた場所です。
「福島県は登山やハイキングの名所も多いですが、記事にするときは必ず一度、自分で登ります。英語でのハイキングの情報はまだ少ないので、コースや所要時間、難易度などを確かめるんです」
記事では、英語表記の有無や電車・バスの時刻表など基本情報はもちろん、自ら地図やイラストを作成して、きめ細やかに情報を提供しています。
Picture courtesy of 福島県観光物産交流協会
そんな説得力あふれるゾーイさんの記事には、たくさんのコメントが。
「今度福島に行くのですが、駅からタクシーは出ていますか?」「美術館の中に英語表記はありますか?」「子どもを連れて行くのですが、大丈夫?」
ゾーイさんはそれら1つ1つに返事をして、ユーザーの旅前の疑問を解決。そのコメントは増え続けて、嬉しい悲鳴となっています。
指差しボードで観光をスムーズに
現在、彼女が力を入れているのは、福島に来る外国人観光客の受け入れをスムーズにする仕事。
「福島県では多言語に対応できる旅館やホテルがまだ少ないので、指差しボードを作成し、旅館やホテルの従業員向けに配っています」。
これは、ホテル側が伝えたいこと(宿泊時の注意点など)や、あるいは逆に宿泊者が伝えたいこと(アレルギーの有無など)を、指差すだけで相手に伝えられるというもの。
「事前に旅館やホテルにヒアリングしたり、実際に現場で使ったときの声も取り入れながら改良を重ねています」(ゾーイさん)
「私がいるから大丈夫!」
ゾーイさんは仕事で海外の商談会に参加することもありますが、時には「福島に観光に行って大丈夫なんでしょうか?」と、2011年にあった原発事故の影響を気にする声もあると言います。
「そんなときは、私がいるから大丈夫!と答えます。
福島県について詳しく知る方はまだ少ないので、みなさん普通に生活していますよと説明すると、安心していただけるようです」
笑顔が素敵なゾーイさん。福島県に来る外国人旅行者がもっと旅を楽しめるよう、今日も情報を発信しています。
「福島県は、京都などと比べるとまだ海外にはあまり知られていません。でも、ほかの日本の観光地に負けない綺麗な景色、伝統的な日本を感じられる場所。しかも、人混みも少なくマイペースで楽しめる。福島県で最高の景色、最高の日本酒を味わって、ぜひ奥深い日本の魅力を満喫してほしいですね」
Rediscover Fukushima:https://rediscoverfukushima.com/
2.「僕はもう福島の人」:地域に根ざして活動する徐さん
続いてやってきたのは、三島町(みしままち)。
福島県全体と、三島町周辺
福島県の西部にある観光地・会津若松(あいづわかまつ)からさらに電車で1時間半、西へ進んだ山あいに、三島町はあります。冬は雪が2メートルを超えることもある、豪雪地帯です。
ここに住むのは、中国・上海出身の徐銓軼(ジョ センイ)さん。三島町がある「奥会津」エリアで、地域おこし協力隊(※1)として活動しています。
※1:地域おこし協力隊……人口減少や高齢化が進む日本の地方で、その地域以外から来た人が、そこに住みながら地域協力活動を行う制度。
雪深く、都会から離れた三島町に暮らす徐さん。
「寂しくないの? と聞かれることもありますが、もう人混みにはウンザリなんです。僕の出身は上海ですから」と笑います。
「三島町ははっきり四季も感じられる町。上海に育ち、こんな自然の中で暮らすのは初めてなので、日本に来た意味があると思います。住民の人も、僕のように外から来た人間にもフレンドリーで、暮らしやすいです」
大震災の前日、初めて福島へ
福島県上海事務所時代の徐さん(写真右上) Picture courtesy of 徐銓軼
徐さんが初めて福島県に来たのは、2011年3月10日。東日本大震災が起きる前日でした。
当時、徐さんは故郷の上海で、福島県上海事務所に勤務していました。
その日は、上海に駐在する日本人親の子どもたちを、故郷の福島に連れていく引率担当。仕事が終わり、趣味の鉄道に乗って関西へ向かっているとき、地震が起きました。
「子どもたちを残して、僕は福島を離れてしまった。僕は福島を裏切った、と思いました。震災のときに福島にいられなかったので『僕は福島の人々の本当の気持ちがわからない、被災者の気持ちに寄り添うことができない』と感じたんです」
徐さんを襲った深い後悔の念は、次第に福島への強い思いに変わっていきました。いつの日か、福島のために働きたいーー。
東京・浅草で福島県のPRをする徐さん Picture courtesy of 徐銓軼
そんなとき、福島県で国際交流員(Coordinator for International Relations)を募集していることを知った徐さんは、すぐさま応募します。
晴れて国際交流員となった徐さんは、母国に向けた情報発信などの仕事に取り組みました。
「福島の人も知らない福島の魅力を知りたい」と、車の免許を取得し、県内のあらゆる場所に行きました。
2018年、5年間の国際交流員の任期が終わりましたが、徐さんは中国に帰ろうとしませんでした。
もう一度、福島で働きたい
「国際交流員だった5年間は、震災と原発事故の影響で、中国から訪日団を迎えることもなく、福島県の情報を中国語に翻訳する仕事がメインだったんです」(徐さん)
「福島のためにまだ何もできていない」。そんな思いを抱えていた徐さんは、国際交流員の任期が終わると同時に「奥会津地域おこし協力隊」に応募。
現在、徐さんは地域おこし協力隊として、奥会津エリアの独自商品を開発したり、この地域に移住する人のサポートをしています。
「実際に住んでみると、いいことばかりとは限りません。独自商品を作ることの難しさや移住者が少ない現状など、課題も感じています」
時には、「自分がここにいる意味は何だろうか」と思い悩むこともあるそう。しかし、徐さんは目を見据えて語ります。
「僕は人生で一番の喜びに福島で出会いました。妻と出会ったのも福島、2人の子どもに出会えたのも福島です」
徐さんは現在、妻とともに2人の子どもを育てながら、三島町で生活しています。
福島の好きなところも、変えたいと思うところもある。でもそれは、徐さんが“福島の人”になったからこそ。「僕は福島のことを人一倍思っている、と思います」
徐さんを魅了した景色
取材したこの日、徐さんは地域で開かれた雪祭りを訪れました。
地元の人と語らいながら、「団子さし」(※2)と呼ばれる伝統行事に参加します。
※2:団子さし……木の枝に団子をさして、豊作を願う福島の会津地方の伝統行事。
そもそも、徐さんは、なぜ福島を知ったのでしょうか?
「学生のころ、本で只見線(ただみせん)を知りました。いつか乗りたいなと思って……」
只見線とは、会津若松から三島町を通り、新潟エリアへ抜ける鉄道。
「世界でもっともロマンティックな鉄道」とも評され、その姿を見に世界中から人が訪れています。
その只見線が「もっとも美しく見える」と言われる場所が、雪祭りの会場から車で3分のところにありました。徐さんが福島に惹かれるきっかけになった景色。
それが、こちらです。
雪が降り積もる中、木々の間からゆっくりと、列車が現れました。ゴトゴト……列車が橋をわたる音が山あいに響きます。
通り過ぎると、また静かな雪の福島が戻りました。
私が福島に住む理由
最後にあらためて福島の魅力を聞くと、徐さんは、「人のぬくもりが感じられるところ」と答えました。
「僕が福島に住み続けているのは、福島に住む人たち1人1人のぬくもりを感じているからです」
雪祭りの会場には、子どもたちの声が響く
徐さんも、ゾーイさんと同じく「福島に行って大丈夫?」と友人から聞かれたことがあると言います。しかし、徐さんは前を向いて語りました。
「僕も、みんなも元気です。福島では、みんな元気に生活しています。それでじゅうぶんだと思います」
福島の魅力を探しに行こう
Picture courtesy of 福島県観光物産交流協会(右下)
ゾーイさんと徐さん。2人の境遇は異なりますが、共通しているのは、自分の足を使い、自分の目で確かめたものを言葉にしていること。
そして、2人が共に口にしたのは、福島には、まだほかの人が見つけていない魅力がある、ということ。
私たちがいるから、安心して大丈夫。人のぬくもりが感じられる福島。その魅力を、次はあなたの足で探しに来てみてください。
In cooperation with ゾーイ・ヴィンセント、徐銓軼、福島県観光物産交流協会、三島町観光交流館「からんころん」、三島町観光協会
Pictures by Eri Miura
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