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ものづくりやアートを体験!新潟の4都市がもつ文化巡り旅
職人の街・燕三条に始まり、温泉と大きな神社がある街・弥彦、錦鯉の街・小千谷、そして最後に芸術の街・十日町と、新潟県にある4つの街の文化や特徴について紹介します。
新潟の4都市がもつ4種の特色を巡る旅
東京よりも北に位置する新潟県。日本海に面する縦長の県です。日本人は一般的に、新潟というと米と酒が頭に浮かびます。特に魚沼地方のコシヒカリは上質と名高く、それから作られる酒ももちろん極上の味。
訪日客は、ガーラ湯沢スキー場や苗場スキー場といった、新潟の有名なスキー場に足を運んだことがある方も多いでしょう。今回はさらに踏み込んで、スキー場以外の4つの都市をピックアップ。それぞれがもつ魅力について迫ります。
旅の始まりはものづくりの街・燕三条へ。そして温泉と神社、四季折々の景色が美しい公園のある弥彦へと続きます。
それから錦鯉の街・小千谷(おぢや)に向かい、最後に湯沢町の隣、芸術の街・ 十日町へ訪れました。
東京からもっとも快適に行けるのは、東京・上野駅から乗れる上越新幹線です。海外からの旅行者には、お得なJR EAST PASS (長野、新潟エリア)とJAPAN RAIL PASSが使えます。
目次
- ■ 燕三条ものづくりの街
・ 道の駅 燕三条地場産センターで特産品を見てみよう
・ 歴史を学び、タンブラー作り体験もできる燕市産業史料館
・ 200年の歴史を誇る鎚起銅器の老舗、玉川堂の工場見学
■ 弥彦 神社や公園、温泉が楽しめる街
・四季折々の美しさをもつ 弥彦公園
・日本様式の建築物が魅力の彌彦神社
・大パノラマを見るなら弥彦山ロープウェイ
・古きよき旅館・みのやの温泉に入ろう
■ 小千谷 錦鯉の街
・錦鯉の生まれ故郷 錦鯉の里
■ 十日町 芸術の街
・越後妻有里山現代美術館 [キナーレ]
・鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館
・まつだい雪国農耕文化村センター「農舞台」
・清津峡渓谷トンネルのライトケーブ(光の洞窟)
・途中で見かけた気になるアート作品
・十日町市博物館で歴史を学ぶ
・受け継がれてきた文化を知るきもの絵巻館
・名物・笹団子作り体験
・ 十日町市内の宿泊所
・十日町ふれあいの宿交流館
・農家民宿さんぜん
ものづくりの街 燕三条 |
今回は上野駅から新幹線に乗車しました。燕三条駅までは、片道8,700円、所要時間は約1時間40分です。
列車を降りるなり目に飛び込んできた、超巨大なフォークとナイフ。ただ私たちを驚かせるためだけに置かれているわけではありません。食卓に並ぶスプーンやフォークといった金属洋食器は、実に国内の90%以上が燕三条で生産されているのです。
燕三条とは燕市と三条市の2つの都市の総称です。いずれの市もそれぞれ金属加工産業が盛んな地域。燕市は工芸品と洋食器の生産が、三条市は包丁などのキッチン用品や工具が有名です。
しかし、なぜ洋食器の製造業がここまでシェアを広げているのでしょう? 今回の旅でものづくりの街として発展してきた経緯や歴史を見ていきましょう。
道の駅 燕三条地場産センターで特産品を見てみよう
まず、燕三条にはどんな特産品があるのか、駅から徒歩5分ほどのところにある道の駅 燕三条地場産センターに行きました。
おろし金、銅製の炊飯釜、ステンレス鍋、包丁、やかん、カトラリーなどのキッチン用品の数々。
さらにのこぎり、庭木用ハサミ、鎌、 鍬、 やすり、 ペンチ、 かんななどの農工具もあります。どれも職人の技が光る金属製品ばかり。かつおぶしを削るためのカンナを作る人でさえ、刃の研ぎ方は三条市の職人さんに教えてもらいに来るそうです。
タンブラーもたくさんの種類がありました。金属製のカップは冷たい温度が伝わりやすいので、カップの口に唇を当てた瞬間に、ひんやりと爽快な冷たさを感じます。銅、チタン、ステンレスなど、素材もさまざま。テーブルに置いているだけで絵になりますね。
和釘の形の箸置き。なぜ和釘なのか? 記事を読み進めていくと答えが分かりますよ。
ほか、燕三条駅の構内にも支店があります。中には支店限定販売の商品も。構内にはテーブル、携帯電話の充電やノートパソコンが使える電源、フリーWi-Fiがあるので、買い物したあとにゆっくり過ごしてもよいですね。
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歴史を学び、タンブラー作り体験もできる燕市産業史料館
今度は燕市産業史料館で金属産業発展の歴史を学んでいきましょう。場所は燕三条駅からタクシーで約10分のところにあります。
館内にはいくつかの建物とその中にたくさんの展示室があります。最初に本館の「燕の金属産業 歴史と技術」を見てみましょう。燕市が金属加工業で栄えるようになるまでの物語がビデオで解説されます。
事の始まりは400年前、江戸時代(1603~1868年)の初期のころ。燕市は毎年のように洪水被害に見舞われ、稲田も流されてしまっていました。米が収穫できなければ収入も得られません。
そこで人々は、米づくりの代わりに江戸から職人を呼び寄せ、和釘の製造を伝授してもらいました。そこから銅器や職人が使うヤスリ、煙管などにまで産業が発展していったのです。
燕三条物産館に和釘の箸置きがあったのは、この背景を物語っていたんですね。
「日本の金属洋食器食器展示室(Japan's western cutlery exhibition hall)」に展示されている、柄が象牙製のナイフとフォーク(1934年製造)。ナイフの刃にも精巧な彫刻が施されています。
金属洋食器の生産が盛んな理由は、大正時代(1912~1926年)以降にまでさかのぼります。このころ西洋文化が日本に大量に入り込むようになりました。しかしスプーンやフォークなどの金属洋食器はまだ日本に製造技術が伝わっていなかったため、全て海外からの輸入に頼らざるを得ませんでした。
そんな中、とある人物が燕の職人に金属洋食器を作るよう依頼し、試行錯誤の末に西洋のものと同じような金属洋食器の製造に成功しました。
人々が職場の金属加工工場へと急ぐ、昔の燕駅前の様子を描いた模型。
需要が高まると、それまで1本1本手作業で作っていたものが、量産化のため機械で作られるようになりました。当時の人々が考える高品質の品とは、全ての物が寸分の狂いもなく同じ形であるべきという、現在の手作りの作品に対する価値観とは異なるものだったのです。流行は時代によって変わりゆくものですね。
鎚目入れ体験
「体験工房館」で、金属加工に間近で触れてみましょう。
ここでは「チタン製スプーン酸化発色」「各種カップの鎚目入れ」「器を成型する錫ぐい呑み製作」など、たくさんの体験メニューがあります。
今回選んだのは、銅製タンブラーを金槌で叩いて模様を作る「鎚目入れ」です。
体験料は2,200円、所要時間は30分前後 。完成したタンブラーは家に持ち帰れます。日本語がわからない人のために英語の説明書がありますが、手順は難しくありませんよ。
完成! タンブラー全体を叩くか、帯状に叩いて 一部をつるつるのまま残すかは好みで選べます。これは思っていたより体力を使います、筋肉痛になりそうです。
銅の色はだんだん変化していきます。写真右側は1年経ったタンブラー。クラシックな趣がありますね。ビールを飲むのにとても相性がいいのだそう。鎚目の凸凹がビールの泡を捕えて、クリーミーな泡が生まれるとスタッフの方に教えてもらいました。
錫ぐい呑み製作体験なら所要時間は約40分、チタン製スプーン酸化発色なら約5分でできます。体験のために、時間に余裕をもって来ることをオススメしますよ。
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200年の歴史を誇る鎚起銅器の老舗、玉川堂の工場見学
燕三条には約2,000件もの金属加工工場があり、中には「オープンファクトリー」と称して製作の様子を一般公開している工場もあります。今回私たちが伺ったのは、玉川堂の鎚起銅器(ついきどうき)製作現場です。
鎚起銅器とは、銅板などを鎚(つち)で打ち、形を整えて作られた器のこと。1816年創業の玉川堂では、仙台の職人から鎚起銅器の技術を継承し、鍋ややかんなど生活日用品を製作しています。
やがてその日用品に模様や装飾を施して、美しさも加わるように。さまざまな技法を組み合わせ、芸術品のような美しさを持つ作品が作られていったのです。
2019年は6,000人以上が、玉川堂の工場見学に訪れました。1日5回(10:00、11:00、13:00、14:00、15:10)見学でき、スタッフが案内してくれます。5人以上の団体は事前に連絡が必要です。休業日は公式HPで確認しましょう。
スタッフに案内され工場に入るとすぐに、奥からガンガンとリズミカルな音が聞こえてきました。職人たちが銅器を熱心に叩いている音です。
私たちが取材に訪ねた日は、密を避けるために通常よりも少ない6、7人で働いていましたが、それでもかなり大きな音が響いていました。
たった1枚の銅板から形作られるヤカン
玉川堂を代表する技術が、写真のような工程で作られる「口打出(くちうちだし)」です。急須の胴体部分と注ぎ口が、一枚の銅板から継ぎ目なく作られています。
銅の特徴のひとつに、叩くことで硬くなることがあります。硬くなったところを叩き続けると割れてしまうので、しばらく叩いたら銅を火で熱して柔らかくして、また叩き続けます。叩いて熱して、工程を終えるまでにこれを15回以上繰り返します。
この複雑で美しい形を、銅板の厚みを均等に保ちながら成形するには特に高度な技術を必要とし、作れるようになるまでには約10年の経験が必要です。
この鉄の棒は「鳥口(とりぐち)」と呼ばれるもの。工場内には約200種類の鳥口があり、先が丸まっているものや細長くなっているものなど形状もさまざまです。作る物に合わせて職人は使う鳥口を選びます。ぴったりのものがない場合は、自分でヤスリをかけて納得いくまで形を調整するそうです。
銅器を叩く時は鳥口の先を器に入れ、少しずつ叩いていきます。
ここの職人たちは、1日中叩き続けています。鎚目入れ体験をした時は、10分ほど銅を叩いただけなのに手が痛くなってしまったことを考えると、とても体力のいる仕事なことが分かります。
工場見学のあとは、併設されている店舗で実際に銅器を手に取り購入が可能。酒器や茶器、ヤカン、カップなど、伝統的なものからモダンなデザインまでさまざまな製品が並んでいます。
これらの銅器は、使い込めば込むほど表情を変え、時間が経てば経つほど美しさを増していきます。まるで世界にひとつだけの輝きをもたせるために、銅器を大切に育てているようです。
職人たちの技と美しい銅器を見に玉川堂に足を運んでみましょう。