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金沢能楽美術館——魅力的な日本の伝統芸能を見つけに行こう
金沢市の中心部に位置する「金沢能楽美術館」は、日本の伝統芸能「能楽」をテーマにした施設です。能面や資料の展示が楽しめるほかに、来館者は装束の試着もできます。美術館で能楽の世界に触れてみると、この芸能が数百年前から愛されてきた理由が分かります。
能楽の歴史に深いつながりがある金沢市
Picture by Pixta
石川県の金沢市は、日本の伝統芸能「能楽」に興味のある方が訪れるには最適の街です。
能楽とは、伝統的な舞台芸能・能と狂言の総称です。14世紀に大成されて以来、武家に好まれてきました。
ほとんどの地域では裕福な武家だけが能楽を嗜んできましたが、金沢においては多くの職人や商人も能楽に触れ、中には自ら能の舞と謡(うたい)を習う者もいました。なぜなら地元の職人が、取引先である武家の好みを知る必要があったからだそうです。
そのため金沢では能楽が広く普及し、「空から謡が降ってくる」とまで言われました。道行く人々が謡を口ずさんでいたことに由来しています。
時が過ぎ、武家が廃止され強力な後ろ盾が無くなってしまったころ、能楽を救ったのは地元の愛好家たちでした。金沢ではいたるところで市民と能楽のつながりも感じることができます。
たとえば金沢駅前にある大きな門は鼓門(つづみもん)と呼ばれ、能舞台で使用される鼓がモチーフのデザインになっています。
能楽と金沢市のつながりについて詳しく知りたい方は、金沢能楽美術館を訪れてはいかがでしょう。本記事ではこの施設の魅力を紹介します。
金沢能楽美術館——能楽との出会い
金沢能楽美術館は金沢市の中心部にあります。兼六園や金沢21世紀美術館などの有名な観光地も近くにある場所です。
インタラクティブなものも含め、多様な展示で能楽の魅力や歴史を紹介しています。
1Fの導入展示室では、能楽に関連する多様な資料に接することができます。床の白い部分は能舞台の輪郭を描いているので、一目でその大きさと形を実感できます。
それでは各階の展示を見ていきましょう。
1F:能楽について学ぶ
1Fには能楽の基本を紹介する展示が並んでいます。まずは能舞台の模型に注目してください。これは美術館から徒歩10分程度の距離にある、石川県立能楽堂に移築された金澤能楽堂の舞台です。
かつて能楽では、観客は床に設けられた升席(※1)に座っていました。現在使用されている椅子席が導入されたのは20世紀初頭。昔と変わったところはそこだけとのことです。
模型では能舞台の内部も作り込まれています。能楽師の声や楽器の音が反響して、後方の観客にまで届くような仕組みとなっていることが分かります。
※1:升席……数人が座れるほどに区切られた四角形のエリア。日本の伝統的な観客席の1つ。
貴重な能面も展示されていますが、じっくり眺めてみると、ひとつひとつに特徴があり、すべて異なっていることに気づくでしょう。
各々の面は特定の役柄、たとえば鬼神、雅な女性役や勇壮な武士などを表現しています。
上の写真の展示は、能面がつくられる工程を紹介。能面は檜(ひのき)を彫って胡粉を塗り、さらに塗料を重ね塗りする作業が行なわれます。
この展示を見ただけで、木材から魂が宿っているような、特徴のある能面ができ上がるまでの緻密な過程がうかがえるでしょう。
別の展示では、能舞台で使用される楽器、太鼓(たいこ)・大鼓(おおつづみ)・小鼓(こつづみ)と笛が紹介されています。
ほとんどが打楽器であるとから想像されるとおり、能楽はリズムが重要な芸能です。実際、愛好家の多くは心奪われるようなリズムに魅了された、と話しています。
着装体験コーナー
1Fの床が1段高くなった場所には、来館者が能装束を試着できるコーナーがあります。
能装束は金糸が多用され、豪華な文様が描かれたあでやかな着物です。能面と同じく、役柄によって装束は異なります。武士の装束を女性役が着ることはありません。
能面も着けることができます。体験コーナーにいるボランティアの方に、着物に合うお面を選んでもらってください。
着けてみると、視野が狭いことに驚くでしょう。能楽師が(能面を着けながら)真剣な表情で、約6メートル四方の舞台の上を移動し、舞う難しさを想像してみてください。
能楽は寸法の定まった能舞台で演じられます。能楽師は4本の柱を見て自分の位置を察知して、舞台から飛び出さずに済んでいるのです。
ボランティアの方が装束と能面の試着を手伝ってくれるので、ぜひ試してみてください。能楽師が舞台で舞ったり激しく動いたりすることを考えると、相当な重さといえます。能舞台に立った気分を直に感じられる、またとない機会です。
2F:金沢と能楽の関係を実感
2Fのメイン展示室では一定期間ごとに特別展を開催。金沢能楽美術館では、貴重な能装束や能面のほかに、舞台で使われる小道具、日本の舞台芸術に関する写本や古文書も収蔵しています。
特別展はテーマを決めて開催されており、筆者が訪れた日は狂言に関する展示でした。
狂言は能楽と同じ時期に成立した喜劇的な伝統芸能で、狂言師によって上演されます。
能が歴史や神話を題材にした深刻で荘厳な主題を扱っているのに対し、狂言は笑いを誘うものが多く、観客の気分を引き立ててくれます。
展示されていた作品は『能楽図絵』に収められているもの。著名な絵師である月岡耕漁(つきおか こうぎょ:1869年~1927年)によって19世紀後半に描かれました。鮮やかな色彩を通して狂言作品の愉快な様子が伝わってきます。
慈悲深い神から狐や猿といった動物に至るまで、狂言でよく使用されるお面も展示されていました。
展示室のほかに映像ギャラリーも設けられています。来館者は能や狂言の歴史、能楽が金沢の文化の中でも特別な存在であることを解説する、短いビデオを鑑賞できます。
能の物語を紹介する絵本が展示されているコーナーもあります。写真の書籍は『隅田川』。さらわれた子どもを探して全国を放浪する女性の物語です。
最後に女性は子どもの墓を見つけ、一瞬だけ幽霊も目撃します。胸の張り裂けるような内容で、観客の涙を誘う作品です。
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能楽関連のおみやげも!
帰る前にミュージアムショップで記念品を探しましょう。豪華絢爛な能楽をテーマにした折り紙は、能装束をモチーフにしています。折り紙としてはもちろん、ノートなどのデコレーションにも使えます。
能面の描かれた愛らしいバッジも人気があり、コレクションをしている愛好家もいます。そのほかにはアクセサリーや葉書といった商品が並べられています。
金沢で能楽を観よう
能楽美術館の南側は金沢21世紀美術館に面している
能楽を鑑賞したい方は石川県立能楽堂の上演スケジュールを確認してみましょう。こちらは美術館から歩いて10分ほどの場所にあります。
県立能楽堂では英語解説付きの公演やワークショップが定期的に開催されています。能楽美術館を訪れたあとに鑑賞すると、きっと記憶に残るに違いありません。
金沢の文化は能楽と深い関わりがある。金沢能楽美術館を訪れると、そのことが一層よく理解できるでしょう。能楽の世界への入口ともなる金沢能楽美術館へ、ぜひ訪れてみてください。
In cooperation with 金沢能楽美術館
2016年よりMATCHA編集者。 能楽をはじめとする日本の舞台芸術に魅せられて来日。 そして、日本文化について日々学べるすべてが私をここに留まらせています。
2012年からいけばな(池坊)と茶道(表千家)を習っています。 勤務時間外に書いた短編小説や劇評は総合文学ウェブメディア「文学金魚」にてお読みいただけます。