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大阪の鋏鍛冶「佐助」で体験する、日本の刃物の技術と歴史
なんば駅から電車で約25分。大阪・堺の落ち着いた雰囲気の街に、1867年から続く鋏鍛冶「佐助」があります。佐助では事前予約で刃物の製作風景が見られます。大阪観光の体験として、鋏や包丁の製作風景を見学し、おみやげ探しをしてみませんか?
19世紀から続く鍛冶屋「佐助」
日本有数の刃物の産地として知られる「堺」。その始まりは5世紀ごろ、古墳(※1)を建造する農具を作るために、日本中から鍛冶職人が集まってきたそうです。時が経ち、16世紀の戦国時代には刀や火縄銃などの武器が、そして戦乱が終わった19世紀には日常で使える包丁などの産地に変わっていきました。
「佐助」は1867年に創業した鍛冶屋です。日本で唯一の「鋏(はさみ)の伝統工芸士」であり、5代目当主の平川康弘(ひらかわ やすひろ)さんが、植木鋏の老舗として歴代の技術を継承・発展させながら奥さんの富子(とみこ)さんと一緒にお店を営んでいます。
※1:古墳……古代日本で作られた、豪族の墓のこと。大小さまざまな規模のものがある。
驚きの切れ味を体験しよう
佐助の鋏の魅力は「切れ味」です。取材で紙の試し切りをしたとき、鋏の刃と刃が擦れる感覚がなく、紙に刃が入る瞬間が分からないくらい軽く切ることができました。細胞を傷付けることなく切断するような、いままでに経験したことのない「切れ味」でした。
一般的な鋏は、2枚の刃が平面上で線としてこすれ合います。一方、佐助の鋏は刃と刃がこすれ合う箇所が点になるよう、刃にプロペラのようなねじれを付けているのだそう。このねじれにより、唯一無二の切れ味を作りだしているといるのです。
完璧な切れ味を実現するため、2つの刃を対に、念入りに調整しながら作られます。手作業のみで行われる、こだわりの切れ味を実現するためのとても重要な作業です。高度な技術を要することもあり、1本あたり1週間以上かけて制作しています。
「佐助」のこだわりは海外でも通用しました。フランスで行った個展では、実演を織り交ぜ鋏を紹介をすると、「すばらしい切れ味だ」と次々に感動してくれたそうです。
「制作に時間はかかるけれど、鋏の価値が日本以外でも認められ、嬉しかったです」と平川さんは当時を振り返りました。今でも海外から、鋏を用いるさまざまな職業の人が注文や視察に訪れています。
日本有数の刃物の産地「堺」で見る鋏製作風景
佐助では事前予約制で、作業風景の見学ができます。見学では、作り手の様子やお店の雰囲気、現場の匂いなど実際に行かないと得られない情報が得られます。
佐助の見学を希望する場合、日程によっては難しい日もあるので、メールで「いつ、何人で行きたいか」を問い合わせましょう。作業説明は難しいですが、簡単なやりとりであれば平川さんの奥さんが翻訳アプリを使って対応してくれます。
鋏の製作は大きく分けて、6つの作業があります。
刃の部分と鋏全体の型の部分を作る「地金・刃金づくり」、鋏の型に刃を付ける「刃金付け」、刃の形状を作る「仕上げ打ち」、持ち手のなめらかな曲線を作る「曲げ」、高温で熱したあと水で冷却し硬くさせる「焼き入れ」、最後に刃を切れ味をさらによくする「研ぎ」です。
取材時は「刃金付け」と、包丁を作る場合の「仕上げ打ち」の作業を見学しました。
火花が飛び散る豪快な作業!「刃金付け」
「地金」と呼ばれるやわらかい鋏でボディを作り、刃になる部分に「刃金」を付ける工程です。地金と刃金という違った素材を合わせて作るのは、日本の伝統製法の1つ。耐久性が強く、切れ味もよくなることが特徴です。これは日本刀と同じ製法なのだとか。
地金と刃金を合わせ、炉で赤くなるまで熱し、取り出してすぐに何度も叩きます。炉から取り出すタイミングは、地金が1,000度に達したとき。平川さんの経験から色で判断しています。
刃金付けの魅力は、炉から取り出して最初に叩くときに飛び散る火花です。その瞬間を見逃さないように作業を見学してくださいね。
長く使ってもらうために思いを込める「仕上げ打ち」
刃物の形状を金づちで叩きながら整えていきます。取材時は包丁の仕上げ打ちを行っていました。包丁の場合は、購入後に研がれることも考慮する必要があります。
刃が最適な角度で砥石に接触するように形作られています。これにより、誰でも最適な角度で刃を研げます。
職人の技を持ち帰ろう
まるで日本刀のような包丁
ペティーナイフ(23,100円〜)、皮むき包丁(19,800円〜)など用途に合わせた包丁がラインナップされています。江戸時代から伝わる伝統工芸品を手にすることができる貴重な機会です。刃の部分に墨を流したような模様「墨流し」が入ったデザインのナイフもあります。
園芸にこだわるなら1度は使ってみたい鋏
庭で木枝の手入れをする方には、ぜひ一度手に取り切れ味を体感してもらいたい一品です! 園芸用の鋏は126,500円〜の価格で販売しています。注文状況によっては届く日が先になるため、訪問時に確認してみてください。
佐助へのアクセス
「佐助」は大阪、京都観光を考えている人にオススメです! 最寄り駅の「浅香山(あさかやま)駅」へは、南海電鉄「なんば駅」から南海高野線の普通車で向かいましょう。
浅香山駅から佐助までは徒歩3分。改札を出て右側の階段を下り、右折したら直進してください。次の小さな交差点を左に曲がり、そのまま進むと右側にあります。
まとめ
日本を代表する鋏鍛冶としてよりよいものを作るために、平川さんは今も新しい技術の習得に励んでいます。これからどんな風に「佐助」が世界へ広まっていくのか、取材を通してとても楽しみになりました。
「佐助」では、ありのままの製作現場を見てもらうことを第一に考えています。日本の伝統工芸がどのような場所で生まれているのか、リアルな現場を見たい人には魅力的な場所になるはず。
ぜひ訪れて、平川さんが発展させてきた佐助の刃物を体験してください。
In cooperation with 佐助
「RECO〜写真をもっと楽しくするメディア〜」でフォトグラファーとして活動しています。