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京都「春光院」——坐禅体験と夜の拝観が魅力の禅リトリート
京都・妙心寺の敷地内にある「春光院」では、坐禅や茶道などを英語の解説付きで体験できます。また2019年8月4日までは、17:00~21:00の時間帯で特別拝観も実施。温かな光に灯された寺院の幻想的な雰囲気を味わえます。日々の喧騒から抜け出し、禅寺で心落ち着く体験をしてみてはいかがでしょうか。
日本の仏教文化が英語で体験できる 京都「春光院」
背筋を伸ばし、呼吸を整え、"今"に集中して行われる修行、坐禅。日本の寺院では一般の人向けに坐禅会を行う場所も多く、気軽に体験ができる修行の1つです。
また海外でも、アップル創設者の1人だったスティーブ・ジョブズをはじめとした経営者層から、「坐禅で心が落ち着き、日々のストレスが軽減された」と注目を集めている修行でもあります。
日本最大級の禅寺、京都「妙心寺」の敷地内にある「春光院」は、坐禅や茶道などの体験プログラムが英語で受けられる寺院。アメリカ在住経験のある副住職・川上全龍(かわかみ ぜんりゅう)さんが訪日観光客に向けて丁寧な解説をしてくれます。
Picture courtesy of Hiroshi Homma / ON THE TRIP
寺院内の一般公開は行われていませんが、2019年6月29日から8月4日まで、17:00~21:00で特別公開プログラムを実施中。ゲストハウスも併設されており、静かな寺院の敷地内で1日中ゆっくり過ごすこともできます。
呼吸を整え、自己を見つめ直す「坐禅体験」
坐禅体験は週4~5日ほど、9:30~11:00で開催されています。予約は不要ですが、1度に体験できる人数は30名。取材時は20名近くの訪日客が訪れていました。
坐禅の目的、歴史、座り方や呼吸法など川上副住職から20分ほど英語で解説があります。
解説の中で川上副住職は、「疑問に思うこと」の大切さを伝えていました。
普段私たちが「あたり前」だと思っていることに対して、「本当にそうだろうか」と問い直す。坐禅によって自分自身を観察し、無意識にもっている固定概念や価値観に気づくきっかけを作って欲しいと言います。
坐禅中は足を組んで姿勢を正し、畳に座り続けます。膝を曲げて座ることが難しい方は、後方の椅子を使いましょう。坐禅で大切なことは、姿勢を正して集中すること。特に自分の呼吸に注意を向けて座ってみてください。
坐禅中は腹式呼吸。長めに息を吐きます。続けていると、呼吸をしている時の身体の動きや身の回りの空気、周囲を流れる風の感覚が、坐禅前よりもはっきりと感じられるようになりました。
いつもは気に止めないことを改めて意識することで、あたり前に行っている動作1つ1つにも意味があることに気づきます。
慌ただしく過ぎてしまう毎日から少し離れて、あたり前を問い直す。その行為が人々の心に余白を与え、ストレスを和らげる効果に繋がっているのかもしれません。
坐禅は鐘の合図が鳴るまで、約20分間行います。終了後には質問をする時間もあるので、気になったことはぜひ川上副住職へ聞いてみて下さい。
坐禅後は本堂内を見学し、抹茶と和菓子をいただいて、プログラムは終了です。本堂内も英語による解説付き。寺院への理解を深めながら見学ができます。
夏の夜だけの特別公開 灯された光に浮かび上がる歴史
Picture courtesy of Hiroshi Homma / ON THE TRIP
春光院の建てられた1590年代、日本ではろうそくや提灯の光で夜を過ごしていました。
蛍光灯とは違い、光の及ぶ範囲はとても限られてしまいます。そのため当時の人は襖(ふすま)を金色に塗ることで、小さな光でも広く部屋を照らせるよう工夫をしたのだそう。
2019年8月4日までの期間中は、ろうそくの光に模したライトを金の襖にあて、当時の人々が見ていた景色を私たちも体験できるようになっています(拝観料900円)。
Picture courtesy of Hiroshi Homma / ON THE TRIP
「襖の絵は、人が床に座って見た時にちょうどよい高さで描かれています」と川上副住職。畳の上に座って生活していた当時の人々の目線に合わせているのだそう。座って見てみると、絵が迫ってくるような勢いを感じます。
金の襖の部屋は全部で3種類。絵はすべて18~19世紀に活躍した絵師、狩野永岳(かのう えいがく)によって描かれたと言われています。
しっとり灯る温かな光に照らされた襖は、とても幻想的。金が奥に埋没し、襖に描かれた絵が浮かび上がってくるように見えました。
3つの宗教が共存する春光院
春光院は仏教寺院ではありますが、襖や庭などに別の宗教を示すものが存在している、日本でも珍しい寺院です。
仏教寺にキリスト教?襖絵に潜むストーリー
金の襖の部屋の1つ「花鳥図の間」では、部屋の左側から時計回りに春夏秋冬の様子が描かれています。しかし日本の四季にしては、少し違和感のある風景です。
たとえば、春の図に描かれているユリの花。日本でユリは夏~秋に咲く花として知られていますが、どうして春に描かれているのでしょうか。
一説によると、これはキリスト教のエピソードから。
キリスト教で白いユリは、聖母マリアの純潔を表す花。春にユリを描くことで、3月に受胎告知を受けた聖母マリアや、イエス・キリストの復活祭を示したと言われています。
キリスト教を示すものは襖絵だけではありません。特別拝観の時にのみ見られる「南蛮寺の鐘」にも、十字架やイエズス会の紋章などが描かれています。
鋳造技術は日本式ですが、詳しいことはわかっておらず、いくつかの寺院を経て春光院にたどり着いたと言われているそう。現在はキリスト教と仏教を繋ぐ存在として、国の重要文化財に指定されています。
神道の神様を祀る仏教庭園
金の襖の正面には枯山水式の庭園があります。ここは神道の神様を祀る「伊勢神宮」を模して作られた場所。伊勢神宮の神様を祀っています。
庭園にはさざれ石と呼ばれる石が多数使われています。日中ではあまり目立たない石を、ライトを当てることで存在感を際立たせたそうです。
日本神話に出てくる「天岩戸(あまのいわと)」をイメージして作られた岩もあります。神話の中で天岩戸は、太陽の神「天照大神(あまてらすおおみかみ)」が隠れた場所。太陽の神が隠れると世界が真っ暗になり、ほかの神々が困ってしまったそう。
なんとか出てきてもらおうと天岩戸の周辺で神々はお祭りを始めました。すると外の様子が気になった天照大神が、岩の間から顔を覗かせます。その時に放たれた光の様子を模して、光の演出を作ったそうです。
夜の拝観をより楽しむために
ストーリーが聞けるオーディオガイド「ON THE TRIP」
夜の拝観時は、スマートフォンのアプリ「ON THE TRIP」で無料のオーディオガイドがあります。対応言語は英語、中国語、日本語。金の襖の部屋に秘められたストーリーが聞けるので、当時の様子を考えながら襖絵を楽しめますよ。
アプリは春光院内のQRコードでダウンロードしましょう。公式HPから事前にダウンロードも可能です。
言えなかった思いを綴る「宛名の無い手紙」
夜の拝観では、大切な人に言えなかったこと、伝えられなかった想いなどを綴る「宛名の無い手紙」(税込300円/1枚)プロジェクトも実施しています。
手紙は無記名式で、記述後は寺院内に展示されます。展示を希望しない場合は手紙にある所定の場所にチェックをしておきましょう。特別拝観が終わると、その紙は供養(※1)したあと処分されます。
※1:供養……お経を読むなど、対象物に込められた思いに祈りを捧げること。
春光院を堪能したい方はゲストハウスに泊まろう
夜の拝観と朝の坐禅体験をしたい訪日観光客は、春光院に併設されたゲストハウスへの宿泊がオススメ。畳の個室と、キッチン付きの共有スペースが用意されています。
宿坊とは異なり素泊まりのみ。訪日観光客の方専用です。価格は時期により異なりますが、1泊7,000円前後です。またゲストハウス宿泊者は、1回3,000円の禅体験プログラムが半額で受けられます。詳細は公式HPをご覧ください。
終わりに
寺院周辺はとても静かで、日々の生活から離れてゆっくり過ごしたい方にはぴったりの場所です。
500年近い歴史をもつ寺院で、当時の人々に思いを馳せたり、自分自身を振り返ったり。普段は気づかなかった自分に、出会えるかもしれません。
Information
営業時間:
坐禅体験(英語のみの対応) 9:30~11:30
2019年8月4日まで 17:00~21:00(20:30受付終了)
宿泊、茶道体験料のみクレジットカード対応可。
In cooperation with 春光院、ON THE TRIP
Main image courtesy of Hiroshi Homma / ON THE TRIP
MATCHA編集者兼フリーライター。東京生まれ東京育ち東京在住。これまで渡航した国は30か国以上、住んだ県は4県。日本旅行はもうすぐ全都道府県を制覇!「読んだからこそわかるその土地の魅力」が伝えられることを目指して記事を作っています。森とお寺とラクダが好きです。