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和食に欠かせない醤油、どうやって作られる?新潟県「発酵の町」で体験する醤油工場見学ツアー
日本食には欠かせない「醤油」。その醤油を180年以上作り続けているのが、新潟県長岡市にある「越のむらさき」です。団体客は事前に申込みをすれば工場見学が、個人客はスタッフから醤油の製造工程の説明を受けたり直売で醤油を購入することが可能です。この機会に醤油について学んでみませんか?
寿司を食べるときに必須の醤油は、どうやって出来ている?
日本食といえば、寿司。でも、回転寿司などでそのまま寿司を食べる人はいません。寿司を“ある調味料”につけてから食べます。その調味料こそ、「醤油」です。
醤油は、寿司に限らず煮物や焼き魚、照り焼き(※1)などさまざまな日本食で使われており、味噌と並んでもっともポピュラーな日本の調味料と言えるでしょう。
そんな日本食に欠かせない醤油は、どのように作られているのでしょうか? 今回は醤油の製造工程を見学できる、新潟県長岡市の醸造元「越のむらさき」にお邪魔してきました。一緒に醤油の成り立ちについて学んでみましょう!
※1:照り焼き(てりやき)……魚や肉などに醤油をベースにしたタレを付けて焼く調理方法。
創業180年を超える「越のむらさき」
やってきたのは、新潟県長岡市の摂田屋(せったや)という町。古くより「発酵の町」として知られ、日本酒や醤油の醸造が発展してきたエリアです。
その中でもひときわ目立つ、趣のある建物。江戸時代の1831年に創業した「株式会社 越のむらさき」です。
こちらは醤油を製造している工場ですが、団体客(10名〜)であればどなたでも無料で工場見学をすることができ、スタッフが醤油の作り方について詳しく教えてくれます。
※工場見学の方法については記事の末尾をご覧ください。繁忙期や製造作業の関係で見学が難しい時期もあるため、時期や季節によっては見学できない作業工程があります。
変わらない製法を守る、工場内部を見学
今回は、「越のむらさき」の常務取締役である笠原(かさはら)さんに案内をしていただきました。ではさっそく、工場見学へ行ってきます!
1.まずは下準備から
まず案内されたのは、何やら大きな機械がある部屋。原料の下準備をする場所です。
最初に醤油の主原料である大豆を高温で蒸します。大豆を蒸すことでたんぱく質の性質が変わり、こうじ菌(※2)の作用を受けやすくなります。同時に大豆を殺菌する目的もあるため、しっかりと蒸していきます。
その後「種こうじ」と呼ばれる菌や、写真の機械を使って炒った小麦と混ぜあわせます。そうして出来たものは「こうじ」と呼ばれ、醤油作りのもととなります。
※2:こうじ菌……微生物の一種で、東洋にのみ存在すると言われている。古くから醤油や味噌、日本酒などに使われ、日本人の食文化にとっては欠かせない存在。
2.こうじ室で酵素の力を強くする
写真提供:株式会社 越のむらさき
出来上がったこうじを「こうじ室」(写真)と呼ばれる広い部屋で均一に敷きつめ、下から温風を当てて菌を繁殖させます。
これは、こうじ酵素の力を強めるため。酵素の力が強い醤油は、栄養成分を消化・吸収しやすく、胃腸の働きもよくすると言われています。
3.塩水とこうじをまぜて発酵・熟成
続いてこうじに塩水を混ぜます。混ぜたものは「もろみ」と呼ばれます。
ここからはじっくりと時間をかけます。発酵・熟成させること1年以上。そうすることで徐々に醤油の色や香りが作られていくのです。
写真提供:株式会社 越のむらさき
その間、こうじと塩水がなじむように「櫂入れ(かいいれ)」と呼ばれる攪拌する作業を行います。
最初のころは頻繁に混ぜますが、途中からは回数を減らします。温度のムラをなくし、酵母に酸素を補給するために時々混ぜるに留めます。
4.醤油の命!香りを整える、火入れ
もろみがしっかりと熟成されたら、麻でできた布に入れて積み重ねます。それを水圧プレスで押して出てきたものが醤油となります。
しかし、これで終わりではありません。プレートヒーター(写真)と呼ばれる機械で醤油を循環させながら加温し、95℃まで上昇させます。この作業は「火入れ」と呼ばれ、熱を加えることにより、酵母の働きを止め、品質の安定と殺菌が行われます。このことにより、醤油の命とでも言うべき特有の香りがつきます。
5.清澄度を高める垽(おり)下げ
さらに作業は続きます。火入れをした醤油を1〜2週間、清澄タンクに入れ、静かに寝かせます。
この間に、成分の一部であるタンパク質が凝固してできた「垽(おり)」がタンクの底に沈殿します。「垽下げ」をすることで、醤油の清澄度を高めます。
6.最後まで丁寧に、瓶詰め作業
写真提供:株式会社 越のむらさき
最後にろ過して、ようやく完成!
ペットボトルや瓶など、それぞれの商品の容器に詰めて蓋をし、ラベルを貼って製品となります。
日本でならコンビニ、スーパーなど、どこでも手に入る醤油ですが、実は伝統的製法では1年以上という時間をかけて作られていることが分かりました。
おみやげに最適!商品のご紹介
手間暇がかかった醤油を、おみやげとして買って帰るのはいかがでしょうか? 「越のむらさき」では、入り口付近で醤油の販売も行っています。
醤油はみんな同じに見えても、少しずつ特徴や作られ方が異なります。「越のむらさき」で販売されているオススメの醤油をご紹介しましょう。
1.料理にも刺身にも!王道の「特選かつおだし 越のむらさき」
「越のむらさき」は、現在の社名にもなっている看板商品です。
通常、日本の醤油に出汁(だし)は入っていませんが、「越のむらさき」は、鰹(かつお)の出汁を入れ、醤油だけでも風味が出るように工夫されています。厳選した鰹節(かつおぶし)を使用しているため、その味は非常に上品。
料理にも、刺身等のかけ醤油などにも幅広く使うことができます。新しく作られた小ぶりの密封ボトル210ml(写真右。税込282円)は、おみやげにも丁度よい大きさです。写真左の1リットルは税込540円。
2.倍の年月をかけてつくられた、再仕込み醤油「丸大豆二度じこみ 本醸造」
こちらは、新潟県産の丸大豆(加工をしていない大豆)と国産小麦を使用した醤油(900mlで税込950円)。なんと通常の倍の年数をかけて作られています。
一度作った醤油を製品にせず、そのまま「もろみ」を作る際の塩水の代わりとして使います。そうしてもう一度熟成させた「再仕込み醤油」なのです。2倍の時間をかけて熟成させた醤油は色が濃く、まろやかでコクがあります。
刺身や寿司、照り焼きや濃いめの煮物など、濃い味が必要なときにぴったりです。
3.まろやかな風味と豊かな香りが特徴、濃口醤油の「越の香(こしのかおり) 本醸造」
こちらも同じく新潟県産の丸大豆と国産小麦を使い、じっくりと丁寧に熟成させた天然醸造の濃口醤油です(900mlで税込793円)。濃口醤油とは日本でもっとも多く使用される、色が濃く旨味が強い醤油です。
丸大豆醤油の持つ、まろやかな風味と豊かな香りは料理の味を一層引き立てます。刺身や煮物にぜひ。
今回ご紹介した醤油を使って、自宅で日本料理に挑戦してみるのもよいですね。工場見学に参加せず、醤油だけ買って帰ることもできます。
長岡市摂田屋が醸造で発展した理由とは?
「越のむらさき」がある長岡市摂田屋には、狭い地域に醸造業の会社が6社も集まっています。これほど密集しているのは全国的にも珍しいと言われています。
なぜ、東京から遠く離れた長岡市摂田屋で醸造が発展したのでしょうか。
江戸時代、摂田屋は幕府(当時の政府)の直轄領であったので、地元の長岡藩(※3)からの干渉を受けず、ある程度自由に醤油や日本酒を製造・販売することが出来ました。また税金も優遇されていたため、資金を商品開発にまわすことができたそうです。
ほかにも、信濃川という大きな川が近くにあり、良質な伏流水(※4)が豊富であったことや、交通の要である街道が摂田屋地区内を通っていたため、物資の運搬に便利だったことなどさまざまな要因があげられます。
こうして日本有数の「発酵の町」が育まれていったのです。
日本を旅行していると必ず出会う醤油。醸造所が集まる摂田屋地区で日本食のルーツを探れば、和食がもっとおいしくなるかもしれません!
※3:藩……諸侯が統治する地域。
※4:伏流水……極めて浅い地下水。水質が良質で安定していることが特徴。
工場見学の方法
見学は事前申し込み制。参加されたい方は公式HPの問い合わせフォームからお申込みください(見学は10名〜。日本語のみ)。
見学時間は約1時間。繁忙期や製造作業の関係で見学が難しい時期もあるため、見学を希望される場合は事前に連絡をしてください。工場内の写真が飾られていたり、醤油の販売も行っていたりと工場見学をされない方でも楽しむことができます。
「越のむらさき」へのアクセス
新潟駅から電車で約75分。JR「宮内駅」東口から徒歩10分。
取材協力:株式会社 越のむらさき
新潟生まれ。日本文化と古い建物が好きな社会人。日本を、地方を好きになってもらえるような記事を綴っていきたいです。