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京都「退蔵院」で行う、あめ玉を使った7分間の禅体験
国宝の水墨画や、桜や紅葉など四季の花々が賑わう庭園が魅力の寺院「退蔵院」では、あめ玉を使って禅の体験ができるユニークな取り組みをしています。本堂の前に座ってゆっくり呼吸し、心を落ち着かせる。自然豊かな場所であめ玉を味わい、禅の世界の入り口に立ってみませんか。
あめ玉でできる禅体験
テレビをみながらご飯を食べる、音楽を聴きながら通勤する、スマホを触りながら歩く……。日常の中で、複数のことを同時平行して進めることは少なくありません。
仏教の言葉の1つに、「行住坐臥(ぎょうじゅうざが)」があります。これは歩いたり、座ったりといった、日常における立ち居振る舞いのこと。仏教、特に禅(※1)の世界ではこれら全ての行いを「修行」と定め、歩く時は歩くことに、座る時は座ることに集中することを大事にしています。
※1:禅……仏教の宗派の1つ。
京都の禅寺、妙心寺にある「退蔵院」では、1つのことに集中する禅修行の体験を、あめ玉を用いて提供しています。あめ玉を舐め終えるまでの時間は約7分。この時間で、禅の世界の入り口に立ってみましょう。
自然を前に、1つの行為に集中する
境内に入り順序を進むと、本堂にたどり着きます。本堂の前は広々とした縁側。正面は大きな蓮の葉が鉢に入って並べられた、緑豊かな庭です。ここであめ玉を使った「ひと粒の禅」が体験できます。
「ひと粒の禅」とは、あめ玉を舐めることだけに集中し、行住坐臥の教えに沿った禅修行を体験してもらうもの。縁側に置いてある体験セット(300円)を購入して始めます。中に入っているのは、解説文や体験方法、そして1粒のあめ玉。解説文などには英語も併記されています。
庭の方へ向き、背筋を伸ばして座りましょう。脚はリラックスできる位置で大丈夫です。呼吸はゆっくり、1分間で4~5回程度を目安に行ってください。気持ちが落ち着いたらあめ玉を口に含み、"あめ玉をなめること"に集中します。
あめ玉には退蔵院で採れたゆずオイル、瞑想の効果をもたらすハーブ・ゴツコラ、そして中心には杉パウダーが入っています。口の中で転がしていると、柑橘系の甘酸っぱい味が口の中に広がりました。しばらくすると、ザラザラとした食感が。そして次第に無くなっていきます。
あめ玉に意識を集中していると、ピントを合わせて写真を撮った時のように、まわりの風景や聞こえてくる音がぼんやりとし始めました。風が肌に当たる感覚や木の葉が揺れる音が、ほのかに感じられます。
仏教はほかに、「言葉にとらわれず、体験を重視せよ」という教え「不立文字(ふりゅうもんじ)」があります。
この記事で伝えられることは、取材をした時に感じたことや、その時の情景。しかし訪れてみて、実際にどう感じるかはあなた次第です。ぜひ訪れて、禅の世界を感じてみて下さい。
無料のオーディオガイドを聞きながら境内を散策
退蔵院の拝観には、スマートフォンのアプリ「ON THE TRIP」にある無料のオーディオガイドがオススメ。対応言語は英語、中国語、日本語です。語り手は副住職の松山大耕(まつやま だいこう)さん。「ひと粒の禅」を始めとした、退蔵院にまつわるストーリーが楽しめます。
本堂前には国宝の水墨画『瓢鮎図』
禅修行では、師匠が考えた問い「公案(こうあん)」に対する答え(見解:けんげ)を、坐禅(※2)をしながら考えます。答えはただ1つ、老師のみが知っています。修行中の僧侶は答えが出るまで、同じ問いを何度も何度も考え続けるのだそう。
※2:坐禅……姿勢を正し、座った状態で精神を集中させる修行。
15世紀に画僧(※3)・如拙(じょせつ)が描いた水墨画『瓢鮎図(ひょうねんず)』には、ひょうたん(※4)を持った男性が川にいるナマズを捕まえようとしているシーンが描かれています。
これは公案「ツルツルのひょうたんで、ヌルヌルのナマズを捕まえるにはどうしたらよいか」を表したもの。絵の上部には、当時の京都を代表する禅僧31人の見解が描かれています。
ひょうたんでナマズを捕まえることは、論理的に考えると難しい。論理の枠を超えて、禅僧たちはどんな回答をしたのか。禅僧の知恵が詰まったこの絵画は、国宝に指定されています。
18世紀ごろになると、公案や見解はほかの人に口外しないルールになりました。見解を知っただけでは、実際に理解したとは言えないからです。自分で考えて、見解にたどり着くこと。不立文字の教えがここにも表れています。
※3:画僧……僧侶であり、絵描きでもある人。
※4:ひょうたん……ウリ科の植物。上下が丸く真ん中がくびれた形が特徴。
無常と不変の美しさを伝える庭園
Picture courtesy of 退蔵院
Picture courtesy of 退蔵院
退蔵院は複数ある日本庭園も魅力。春は大きな枝垂桜(しだれざくら)、秋は燃えるような紅葉が庭を彩ります。
境内の奥にある「余香苑(よこうえん)」には、ひょうたんの形をした「ひょうたん池」があります。ここには2匹のナマズが生息しているのだとか。"ひょうたんの中にナマズを捕まえる"という、『瓢鮎図』の公案に対する工夫が表されています。
「余香苑」には四季折々の花が植えられ、季節ごとに姿が変わります。一方で、桜の時期など特別拝観時のみに見られる枯山水庭園「元信(もとのぶ)の庭」はいつ行っても同じ姿。これは変わらないことに価値を見出す「不変の美」の価値観から作られた庭なのだそう。
変わりゆく儚さと、変わらない美しさ。退蔵院ではその両方が味わえます。
茶室でお茶と和菓子を堪能
庭園内の売店で注文すると、「大休庵(だいきゅうあん)」で抹茶と和菓子がいただけます(セットで500円)。ひょうたんとナマズが描かれた可愛い和菓子には、季節に合わせたドライフルーツが入っており、甘酸っぱい爽やかな味。退蔵院オリジナルです。
窓際に座れば、「余香苑」を眺めて過ごすこともできます。取材に訪れた6月は緑が美しく、水の音が心地よく聞こえてきました。
オリジナルのおみやげも充実
退蔵院には、ここにしかないおみやげも多く販売されています。
表情が可愛い「お守りなまずストラップ」
ナマズの形をした木彫りのハンドメイドお守りストラップ(800円/1個)。ナマズの髭が紐で作られていて、シンプルながら凝ったおみやげです。表情もそれぞれ少しずつ異なるので、お気に入りのナマズを選んでみてください。
日本ならではの香りを閉じ込めた「練り香水」
練り香水:800円/1個
練り香水のお守りは、桜と緑茶の2種類の香りがあります。全て祈祷(※5)されており、気軽に身に付けられるお守りです。小さな紙に香りをつけて手紙に同封する、「文香(ふみこう)」の香り付けとしてもオススメしています。
※5:祈祷……神仏の恩恵や守りを受けれるよう祈る儀式。
オーガニックが嬉しい「石鹸」
「柚子石鹸」(300円)、「桜石鹸」(400円)、「蓮石鹸」(500円)
京都で作られたオーガニックコスメ店「京都しゃぼんや」と共同開発して作られた石鹸。ゆずと蓮は退蔵院で取れたものから、桜は退蔵院に咲く枝垂桜をイメージして作られています。
ほかにも可愛いナマズのTシャツや住職により描かれた「墨跡」など、退蔵院ならではのおみやげが用意されています。
終わりに
「あめ玉を舐めることだけ、ご飯を食べることだけ、など1つ1つの行為に対して丁寧に向き合っていくと、あめ玉の甘さやご飯のおいしさに気づきます。今行っていることに集中すると、普段は意識をしていなかった、そのもののよさに気づくことができるのです」と、松山副住職は話します。
自分の行為と向き合うことで、気づかなかった自分が見えてくる。1粒のあめ玉を通して感じてみてはいかがでしょうか。
Information
拝観料:大人600円、小中学生300円
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In cooperation with 退蔵院、ON THE TRIP
MATCHA編集者兼フリーライター。東京生まれ東京育ち東京在住。これまで渡航した国は30か国以上、住んだ県は4県。日本旅行はもうすぐ全都道府県を制覇!「読んだからこそわかるその土地の魅力」が伝えられることを目指して記事を作っています。森とお寺とラクダが好きです。